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第423条の2(代位行使の範囲)


【改正法】(新設)
(代位行使の範囲)
第423条の2 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。
【旧法】
なし

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

本条から第423条の7までは、改正により新たに追加された条文です。

債権者代位権について、代位債権者が被代位権利を行使する場合に、どの範囲まで代位行使が許されるのかという問題がありますが、旧法においては明文の規定はありませんでした。この点について、判例(最判昭44年6月24日)は,代位債権者が債権者代位権に基づいて金銭債権を代位行使する場合において,被代位権利を行使し得るのは,被保全債権の債権額の範囲に限られるとしています。

この判例については、いろいろな考え方がありえます。そもそも債権者代位権の意義については、責任財産の保全か、債権回収機能を認めるのかで考え方の違いがあります。

責任財産の保全というのは、債権者代位権というのは第三債務者から債務者に財産を戻し、債務者の責任財産を保全することまでが債権者代位権の目的だというものです。その債務者の元に戻った財産をすべての債権者で分け合うものが債権者代位権の本来の姿だ、というわけです。それに対して、代位債権者に債権を回収することまで認めるという考え方もあります。

この2つの考えは、債権者代位権を考える上で、いろいろなところに関連してきますが、ここもその一つです。詐害行為取消権においては、旧法425条で「すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる」という規定がありますが、債権者代位権については、このような規定はなく、条文上いずれとも考えることができます。

そして、債権者代位権の意義を責任財産の保全と考え、債権回収機能を否定すれば、判例のように債権者代位権を行使できる範囲を被保全債権の範囲に制限するという合理的な理由は乏しくなります。たとえば、被保全債権が100万円で、被代位権利が300万円だとすると、債権者代位権を行使できる範囲を300万円としても、それが債務者の元に戻って、すべての債権者で分けるのだと考えればいいので、債権者代位権を行使できる範囲を100万円に制限する必要はないわけです。

そして、この問題は債権者代位権の効果として、第三債務者から代位債権者への直接給付を認めるのかという問題とも関連してきます。もし第三債務者から代位債権者への直接給付を認めるのであれば、代位債権者が100万円の債権しか持っていないのに、第三債務者から300万円の直接給付を受けることができることになって不合理だということになります。

この責任財産の保全か、債権回収機能かという問題は、なかなか難しい問題ですが、前条の423条の解説にも書きましたように、債権回収については、民事執行法、民事保全法等の制度があるにしても、債権者代位権に意義がある場合も存在しえます。また、改正法では次条の第423条の3で第三債務者から代位債権者への直接の給付を認めています。

そこで、改正法では、被代位権利の目的が可分であるときは、被保全債権の限度においてのみ、被代位権利を行使することができると規定しました。