第404条(法定利率)
【改正法】 (法定利率) 第404条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。 2(新設) 法定利率は、年3パーセントとする。 3(新設) 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、3年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。 4(新設) 各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。 5(新設) 前項に規定する「基準割合」とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計算した割合(その割合に0・1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。 |
【旧法】 (法定利率) 第404条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分とする。 |
※上記赤字の部分が改正部分です。
【解説】
1.総論
本条は、民事法定利率の規定で、従来は年5分と固定されていた法定利率に変動制を導入しています。
この法定利率が適用されるのは、たとえば利息を支払う合意はあるが約定利率の定めがない金銭消費貸借や、約定利率の定めがない金銭債務の遅延損害金について適用されます。
2.利率
(1) 現行の5%の引き下げの必要性
この法定利率は、明治に民法が制定されて以来、まったく変更がなされていません。そして、法定利率の5%という数字が決まったのは、民法制定当時の市中における一般的な貸出金利をもとに決められています。
しかし、現在(令和2年)時点では、超低金利の時代が続いていますので、この法定利率が市中金利を大幅に上回る状態が続いており、このときの感覚からいうと「ずいぶん高いな」という印象を持つのが普通です。
このように法定利率が市中金利を大幅に上回る状態が続いていると、弊害が生じます。具体的には、債務者が支払う遅延損害金の額が不当に高額となります。また、将来の逸失利益に係る損害賠償額を算定する際の中間利息控除の場面では不当に賠償額が抑えられる結果となり、当事者間の公平を害します。そこで、現在の市中金利の水準に、法定利率を合わせていく必要があります。
(2) 改正法の利率
ということで、現在の法定利率は高いわけですから、改正法では、とりあえず施行時の法定利率を3%としています。
この3%という数字についてですが、まず法定利率というのは、預金金利などの運用を想定した金利ではなく、貸出金利を参照するのが妥当だと考えられます。
最初に、法定利率を適用する場面を書きましたが、金銭消費貸借のような貸金債権などでは、借主は、何らかの形で他から金銭を調達して貸主に返済するわけです。また、貸金以外の契約に基づく債務や不法行為に基づく債務その他の金銭債務の遅延損害金を算定する場面でも他から金銭を調達する時の利息分が主な損害として想定されます。したがって、貸出金利を参考にするのが妥当なわけです。
また、法定利率の適用場面は様々で、借り手が大企業・中小企業のような企業ばかりでなく、一般消費者である場合もあるので、そのような場合の貸出金利も考慮する必要もあります。さらに、あまり法定利率を引き下げすぎると、遅延損害金の額が小さくなりすぎて、債務不履行を助長する結果となりかねませんし、これまで約120年にわたって年5%の法定利率でまがりなりにも運用されてきたという実績もあります。
このような様々な事情を考慮し、かつ、簡明な数値が望ましいので、今回の改正の施行時の法定利率は3%とされました。
3.変動制
(1) 変動制の採用
そこで、改正法では、法定利率の見直しがされていますが、「現在」の市中金利を基準にすると法定利率は高いということですが、将来の金利動向は変化します。したがって、単に法定金利を下げても、固定制のままでは、また市中金利との乖離が生じてしまう可能性があります。
市中金利との乖離については、乖離が生じた時にまた法改正をするという選択肢もあり得ますが、法定利率というのは、関係者間の利益が先鋭化する事柄でもあるので、その都度、利害関係者との調整を経て改正するというのでは大変です。
そこで、あらかじめ合理的な変動の仕組みを定めておいて、後はそれに従い機械的に法定利率を変動させる仕組みを導入する方が合理的だということで、今回変動制を採用しました。
(2) 緩やかな変動制
そこで、変動制を導入したわけですが、短期的に市中金利の変動と連動させることは社会的なコストが大きくなってしまいます。
そして、「緩やかな」変動制を導入し、3年ごとに一定の方法で法定利率を見直すことにしていますが、その見直しが行われる場合でも、利率を細かく刻むのではなく、1%刻みの数値で法定利率が変動する形にしています。
(3) 見直しの方法
なお、法定利率の見直しの方法は、第4項と第5項に規定されています。
4.利率の基準日
このような緩やかな変動制を導入しますと、利息が生じている期間中に法定利率が変動する可能性があります。そこで、ある債権について、いつの時点における法定利率を適用するのかが問題となります。
その点について改正法は、「その利息が生じた最初の時点における法定利率による」としています。したがって、ある債権の利息が算定される期間中に法定利率の変動があった場合でも、「利息が生じた最初の時点」の法定利率が以後適用され、途中で法定利率が変更されることはありません。
そして、この「その利息が生じた最初の時点」というのは、一般的には、利息を生ずべき元本債権について利息が生じた最初の時点ということになります。たとえば、金銭消費貸借による貸金債権の場合は、改正法第589条2項により「貸主は、借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる」と規定されていますので、「借主が金銭その他の物を受け取った日」が「その利息が生じた最初の時点」になります。また、不当利得返還請求権が元本債権の場合、受益者が悪意となった時点から利息が発生するから(第704条)、悪意となった時点が「その利息が生じた最初の時点」となります。
また、金銭債務についての遅延損害金に適用される法定利率は、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点」とされています(詳細は第419条1項参照)
5.商事法定利率
最後に、これは「民法」の改正ではありませんが、現在の商事法定利率は、現在年6%です(商法514条)。これは民事法定利率の年5%を前提に、商人であれば有利に資金を運用できるはずだということを根拠に、民事法定利率に1%を上乗せしていました。
これについても見直しがなされ、現代社会においては、商行為によって生じた債務を特別に扱う必要はないという理由で、商法の商事法定利率の規定が削除されます。ということは、商行為によって生じた債務であっても、特別の扱いをすることなく民事法定利率が適用されることになります。