宅建業法37条(書面の交付)
【解説】
1.契約成立後の書面
この「契約成立後の書面」というのは、重要事項の説明書と対をなすもので、非常に重要です。
まず、最初にこの契約成立後の書面とは何か、ということですが、宅地建物の売買・交換・貸借を行う場合に、契約前には重要事項の説明書を交付して、その説明を行います。
何のために重要事項の説明をするのかというと、買主になろうとする者等に買うかどうかの判断資料を提供するためです。
そして、契約成立後の書面というのは、契約が成立した後に、後日の紛争を防止するために、契約内容を明確にするために作成が義務付けられる書面です。
それでは、契約内容を明確にするためには、普通契約書というのを作成するので、契約成立後の書面というのは、契約書と同じなのかということですが、似たようなものだが、理論的には違うものといえるでしょう。
契約成立後の書面というのは、契約内容を明確にするために「宅地建物取引業法上」作成が義務付けられている書面です。
契約書というのは、宅地建物取引業法上作成が義務付けられているものではなく、民法上も契約は書面で行う必要がないので、法律で決められているというよりも、当事者が純粋に後日の紛争を防止するために作成するものです。したがって、理論的には分けて考えることができると思います。
ただ、この契約成立後の書面と、一般の契約書を兼ねることはできます。今から見ていきますが、契約成立後の書面というのは記載事項が決められています。したがって、一般の契約書でも、契約成立後の書面の記載事項が記載されていれば、それは契約成立後の書面としても使えます。
むしろ、この契約成立後の書面と契約書を兼ねることによって、契約書の内容を適正にすることができるということで、両者を兼ねるのが望ましいとされています。
2.書面の交付
それでは、具体的に契約成立後の書面の規制内容を見ていきましょう。
まず、「宅地建物取引業者」に書面の交付義務があるという点です。
宅地建物取引士というのは、この契約成立後の書面に関しては、書面に記名押印するということだけが、その事務になっています。これは、注意して下さい。
重要事項の説明書と異なり、契約成立後の書面に関しては「説明」というのも不要です。
したがって、通常は宅地建物取引士が相手方に37条書面を手渡すときでも、宅地建物取引士証を提示する必要はありません。
しかし、このときに相手方から宅地建物取引士証の提示を求められれば、「取引の関係者から請求があった場合」として宅地建物取引士証を提示する必要があります。つまり、37条書面の交付時には一般的に宅地建物取引士証の交付義務はないけれども、相手方から提示を求められれば、「取引の関係者から請求があった場合」として提示する必要があるということです。
そして、記名押印する者は、宅地建物取引士であれば、必ずしも「専任」の宅地建物取引士である必要はない、という点は重要事項の説明と同じです。
次に、交付の相手方は、条文では分かりにくい表現になっていますが、要するに「両当事者」に交付しなさい、ということです。重要事項の説明書のように、買主になろうとする者等だけに交付するだけでは足りません。
もともと、契約成立後の書面というのは、後日の紛争を防止するためです。ということは、契約の両当事者に内容を確認しておかないと後日の紛争の防止になりません。
次に、先ほどの記名押印する宅地建物取引士の話に戻りますが、契約に当たっては、
重要事項の説明
↓
契 約
↓
契約成立後の書面
という流れになります。そして、重要事項の説明書と契約成立後の書面のいずれにも宅地建物取引士の記名押印が要求されています。
この両書面に記名押印するのは、通常は同一の宅地建物取引士になると思いますが、別の宅地建物取引士が記名押印してもよいのかという問題があります。
本来は、同じ宅地建物取引士が記名押印した方がいいんですが、別の宅地建物取引士が記名押印していても宅地建物取引業法には違反しません。
また、複数の宅地建物取引業者が一つの取引に関与した場合に、それぞれの宅地建物取引業者に交付の義務が課されています。これは重要事項の説明と同じです。
最後に、37条書面は、宅地建物取引業者相互間の取引にも適用されます。
また、書面を交付する場所は宅地建物取引業者の事務所などに限定されず、特に場所の制限はありません。
3.記載事項~売買・交換の場合(第1項)
それでは、契約成立後の書面の記載事項を一つずつ見ていくことにしますが、記載事項は、売買・交換の場合と、貸借の場合で微妙にことなりますので、まず売買・交換の場合から見ていきます。
(1) 当事者の氏名及び住所(第1号)
これは説明の必要もありません。契約の当事者を特定するということです。
(2) 物件を特定するために必要な表示(第2号)
これは物件の特定です。契約の目的物を確定するということで、これも当たり前です。
(3) 建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項(第2号の2)
この部分は建物状況調査と関連しており、別ページで詳細に解説しています。 →建物状況調査
(4) 代金又は交換差金の額並びにその支払の時期及び方法(第3号)
(5) 宅地又は建物の引渡しの時期(第4号)
(6) 移転登記の申請の時期(第5号)
この3号~5号はセットで説明します。この3つをなぜセットで説明するか分かりますか?
この3つをよく見て思い出して下さい。そう。重要事項の説明のときに、非常に重要な事項であるにもかかわらず、重要事項の説明の対象になっていなかったものとして挙げた3つですね。
この3つはもともと非常に重要な事項ですが、それぞれ理由があって重要事項の説明の対象にはなっていませんでした。しかし、もともとは大切な事項なので、いつまでもあいまいにしておくことは許されません。そこで、契約成立後の書面の記載事項になっているわけです。
しかも、(1)~(5)のこれまで説明してきた記載事項は、「必要的記載事項」あるいは「絶対的記載事項」といわれるものです。必要的記載事項というのは、絶対に記載しないといけない事項です。
「まだ、確定していなかったので記載しなかった」というようなことは、この(1)~(5)についてそれは許されません。必ず記載しなければいけません。
特に(3)~(5)は重要であるにもかかわらず、重要事項の説明の対象になっていなかったわけですから、契約成立後の書面では「必要的」記載事項になります。
(7) 代金及び交換差金以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、その額並びに当該金銭の授受の時期及び目的(第6号)
これは、重要事項の説明にも出てきました。重要事項の説明の対象でもあり、契約成立後の書面の記載事項でもあるということです。これについては、2点気を付けて下さい。
まず、この(6)以降の記載事項は、(1)~(5)までと異なり、「任意的記載事項」または「相対的記載事項」といわれるものだということです。
この任意的記載事項とは、「定めがあるときは」という表現でも分かりますように、定めがないときは記載する必要がありません。しかし、定めがあれば「必ず」記載しないといけない事項です。ここは、勘違いしないで下さいね。「任意的」だからといって、書いても書かなくてもよいという意味ではありません。定めがないときは、記載しなくてもよいが、定めがあれば「必ず」記載する。それが任意的記載事項です。
次に気を付けるのは、これはちょっと細かい話ですが、重要事項の説明のときは、代金等以外の金銭は、「額」と「授受の目的」を記載して説明することになっていたと思いますが、契約成立後の書面の場合、「額」と授受の「時期」と「目的」を記載することになっています。つまり、「時期」というのが加わります。これは、契約成立後の書面の場合は、実際にこの内容で契約するわけですから、「時期」まではっきりしているはずで、この点で揉めないように、それを明確にするという意味だと思います。
ちなみに、重要事項の説明では、ここの代金等以外の金銭に限らず、基本的に「時期」の説明というのはありません(例外的に割賦販売の頭金と賦払金では出てきます)。これは、重要事項の説明段階では、買うか買わないかはっきりしないわけですから、様々な「時期」については、まだはっきりしないことが多いからです。
ところが、契約成立後の書面(37条書面)では、俄然「時期」というのが登場します。こういうことを頭にいれておけば、非常に覚える際に役に立ちますね。
(8) 契約の解除に関する定めがあるときは、その内容(第7号)
これは重要事項の説明と重なっています。ただ、契約成立後の書面では任意的記載事項となっています。
(9) 損害賠償額の予定又は違約金に関する定めがあるときは、その内容(第8号)
これも先ほどと同様、重要事項の説明と重なり、また任意的記載事項です。
(10) 代金又は交換差金についての金銭の貸借のあっせんに関する定めがある場合においては、当該あっせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置(第9号)
これも先ほどと同様、重要事項の説明と重なり、また任意的記載事項です。
(11) 天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めがあるときは、その内容(第10号)
これは、重要事項の説明とは重なりません。要注意。
この記載事項というのは、重要事項の説明書と契約成立後の書面で、重なったり、重ならなかったりで、結構混乱します。したがって、これは意識して覚えておかないといけません。
「天災その他の不可抗力~」というのは、民法で勉強した危険負担の話です。そのときに、不動産のような特定物は債権者主義が取られているが、これは一般的な常識には合わないので、実際には当事者が特約で、債務者主義にしているという話があったと思います。
そのような特約があれば、ここで記載します。これも任意的記載事項です。
(12) 当該宅地若しくは建物の瑕疵を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置についての定めがあるときは、その内容(第11号)
この記載事項については、2つ含まれているので、頭の中でこの2つを分けてしっかり確認しておいて下さい。
まず、前半部分は、民法で勉強した瑕疵担保責任の話です。これは重要事項の説明にはありません。
しかし、後半の「当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置」については、重要事項の説明にもありました。そして、これらも任意的記載事項です。
(13) 当該宅地又は建物に係る租税その他の公課の負担に関する定めがあるときは、その内容(第12号)
これはいわゆる公租公課のことで、具体的に固定資産税などが典型例です。
固定資産税は、1月1日現在の登記上の所有者に1年分の固定資産税が課税されます。これは、年度の途中で売買契約がなされ、所有者が変わることになっても同様で、たとえば8月1日の売買契約でAからBへ所有権が移転しても、1月1日の所有者はAですから、Aが1年分の固定資産税を収めないといけません。
このように、最終的に固定資産税を市町村に収めるのは、Aですが、ABが売買契約に当たって、AB間の内部的な負担として固定資産税をたとえば日割りで負担するというような定めをすることがあります。
このときは、ABは売買代金等でその調整をするわけです。このように日割りのような定めがあるときは、それを記載しなさいというのがこの規定です。
これは、重要事項の説明にはなかったですね。そして、任意的記載事項です。
4.記載事項~貸借の場合(第2項)
貸借の場合も、基本的には売買・交換の場合の記載事項と似ています。しかし、性質上貸借では不要であると思われるもののみ除かれています。一つずつ見ていきましょう。
(1) 当事者の氏名(法人にあっては、その名称)及び住所(第1号)
(2) 物件を特定するために必要な表示(第1号)
この(1)の当事者の特定、(2)の物件の特定は、売買・交換と同じで、貸借でも当然必要です。
(3) 借賃の額並びにその支払の時期及び方法(第2号)
これは売買・交換の場合の「代金又は交換差金」という言葉を、「借賃」に変えただけで実質的には、売買・交換と同一内容です。
(4) 宅地又は建物の引渡しの時期(第1号)
これは、売買・交換の場合と全く同じです。貸借でも、いつ引渡してくれるのかは非常に重要です。
(5) 借賃以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、その額並びに当該金銭の授受の時期及び目的(第3号)
これも売買・交換の場合の「代金又は交換差金」という言葉を、「借賃」に変えただけで実質的には、売買・交換と同一内容です。
(6) 契約の解除に関する定めがあるときは、その内容(第1号)
(7) 損害賠償額の予定又は違約金に関する定めがあるときは、その内容(第1号)
(8) 天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めがあるときは、その内容(第1号)
これは売買・交換の場合と全く同じです。
(9) 貸借で除かれている事項について
以上で貸借の場合の記載事項を説明したわけですが、最初に書きましたように、基本的には売買・交換の場合と同じです。ただ、売買・交換では問題になるが、貸借ではそもそも問題にならないような事項が除かれているということになります。
この売買・交換では記載事項になっているが、貸借では記載事項になっていない項目を説明しましょう。
具体的には、「移転登記の申請時期」「金銭の貸借のあっせん」「瑕疵担保責任」「公租公課の負担」です。
まず、「移転登記の申請時期」が貸借では不要というのは、よく分かると思います。貸借では移転登記はしません。
次に「金銭の貸借のあっせん」の部分ですが、これは要するにローンですから、貸借でローンを組む人はあまりいません。したがって、これは不要。
次の「瑕疵担保責任」ですが、これはすぐ上の「危険負担」と混乱しやすいのではないかと思います。「危険負担」は貸借でも記載事項だが、「瑕疵担保責任」は貸借では記載事項になっていません。
これの覚え方ですが、それぞれをどの範囲で勉強したかを思い出して下さい。瑕疵担保責任は、「売買」の範囲で勉強しましたよね。危険負担は、「債務不履行」の話と関連して出てきました。したがって、瑕疵担保責任は「売買・交換」でのみ記載事項です(交換は売買の規定が準用されます)。これに対して危険負担は、「債務不履行一般」の話と関連しますから、売買・交換に限らず、貸借でも記載事項になります。
最後に、公租公課ですが、固定資産税などは不動産の所有者に課税されます。賃借人には課税されません。したがって、賃借人には関係はなく、貸借では記載事項になっていないわけです。