※この記事は一般的な条文解説で、宅建等の資格試験の範囲を超えた内容も含みます。当サイトの記事が読みやすいと感じた方は、当サイトと資格試験向け教材の関係をご覧下さい。

第620条(賃貸借の解除の効力)


【改正法】
(賃貸借の解除の効力)
第620条 賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
【旧法】
(賃貸借の解除の効力)
第620条 賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合において、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償の請求を妨げない。

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

本条は、賃貸借契約の解除の効果について、遡及効がなく、将来に向かってのみ効力が生じることと、解除がなされた場合でも、損害賠償の請求ができる旨を規定しています。これらについては、改正法においても変更はありません。

念のため、遡及効の点について触れると、売買契約のような1回で終わるような契約では、契約を解除して、すでに引き渡した目的物があればそれを返し、売買代金を返せば、原状回復することが比較的容易です。しかし、賃貸借のような継続的な契約については、時間の経過を伴った過去の状況について原状回復するというのは非常に難しく、法律関係が複雑になるので、解除に遡及効はなく、その効果は将来に向かってのみ生じるということになります。この点については、まったく改正はありません。

そして、解除がなされたとしても、損害賠償の請求は妨げられることはありません。これも、改正前後で変わりませんが、旧法では「当事者の一方に過失があったときは」という言葉がありましたが、改正法ではこの言葉が削除されています。

もちろん、これは過失がなくても損害賠償ができるようになったという意味ではありません。そもそも、損害賠償を請求するには、債務者に過失が必要なのであり、これは解除の際の損害賠償に限りません。したがって、本条でわざわざ書かなくても第415条に書かれています。したがって、重ねて記載する必要はなく、不要だと判断されて削除されたということです。

むしろ、旧法の規定によれば「当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償の請求を妨げない。」という表現なので、債権者が相手方の過失を立証しないといけないように読めます。しかし、損害賠償請求は、債務者が自己に帰責事由がないことを立証しないといけないのであり、これは賃貸借契約の解除の場合の損害賠償請求でも同じです。

したがって、旧法の規定は、重複しているというだけでなく、むしろ誤解を招きやすいということで削除されました。