第613条(転貸の効果)
【改正法】 (転貸の効果) 第613条 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。 2 (略) 3(新設) 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。 |
【旧法】 (転貸の効果) 第613条 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。 2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。 |
※上記赤字の部分が改正部分です。
【解説】
1.総論
本条は、賃借権の譲渡及び転貸のうち、転貸の効果に関する規定の改正です。
なお、賃借権の譲渡及び転貸については、前条の612条の規定があります。この前条については、改正がなく、解説する部分がないので、ここでちょっと触れておきます。
612条は、賃貸人の承諾を得ない無断譲渡・転貸がなされると、賃貸人は契約を解除することができる旨の規定です。この規定について、「信頼関係破壊の理論」という有名な判例があります。これは、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合には、解除は認められないという判例です(最判昭和28年9月25日等)。これについては、学説上も特に異論はないので、確立された判例法理は条文化する、という今回の改正の趣旨からいうと、条文化されてもおかしくないような気がしますが、前述したように改正は見送られています。
2.転借人の債務の範囲(第1項)
ということで、本題の本条の改正の方に移りますが、本条は、適法に転貸がなされた場合の転貸の効果に関する規定ですが、旧法では、単に「転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う」としか書かれていません。
しかし、これでは賃貸人と転借人間の関係が明確だとはいえません。そこで、適法な転貸借がされた場合の賃貸人と転借人との法律関係が明確になるように条文の表現が変更されています。
まず、転借人が賃貸人に対して負う義務というのは、転借人が転貸借契約に基づいて転貸人に対して負う義務なのか、賃借人(転貸人)が原賃貸借契約に基づいて賃貸人に対して負う義務なのかが、旧法の規定でははっきりしません。これについては、転借人が転貸借契約に基づいて転貸人に対して負う義務だと考えられます。なぜならば、転借人は、原賃貸借契約については関与しておらず、そのような自分が関与していない原賃貸借契約上の義務を負わされる理由はないからです。あくまでも、自らが締結した転貸借契約に基づく義務を負うだけだと考えられます。ただ、その義務を履行する相手が、本条によって賃貸人になる可能性があるだけだ、ということになります。
したがって、改正法では、転借人は、賃貸人に対して「転貸借に基づく債務」を直接履行する義務を負う、というふうに詳しく規定し直しています。
次に、たとえば賃料について、原賃貸借の賃料と転借料が異なるような場合についても、旧法の規定だけでは明確ではありません。転借料が原賃貸借の賃料より安い場合は、先程の説明で分かりますように、転借人はあくまで「転貸借に基づく債務」を直接履行する義務を負うだけですから、転借人は安い転借料の金額を払えばいいことになります。
逆に、転借料よりも原賃貸借の賃料の方が安い場合、賃貸人は賃借人に対して請求できる金額以上の賃料を転借人に請求できるということにはなりません。なぜならば、本条に基づく賃貸人の請求が認められるのは、賃貸人が賃借人(転貸人)に対して請求できる権利を基礎にしているからです。
まとめると、転借人が賃貸人に対して負う賃料債務の範囲は、原賃貸借と転貸借のそれぞれの賃料債務の重なる限度である、ということになります。
したがって、改正法では、転借人は、「賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として」、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う、というように規定しています。
上記の改正により、賃貸人と転借人との法律関係がかなり明確になりました。
3.原賃貸借の合意解除(第3項)
第2項については、改正がありませんので、次は第3項ということになりますが、これは新設の規定です。
適法な転貸借がなされた場合に、原賃貸借が合意解除された場合、あるいは賃借人の債務不履行により解除された場合については、判例があります。
原賃貸借が合意解除された場合については、賃貸人は転借人に対して原賃貸借の合意解除による賃貸借の消滅を対抗することができません。
これに対して、賃借人の債務不履行により原賃貸借が解除された場合は、賃貸人は債務不履行解除による原賃貸借の消滅を転借人に対抗することができるとされています。
第3項は、この判例を条文化したものだといえます。改正法では適法に転貸借がなされた場合に、「賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない」とする一方、「その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない」としています。