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第602条(短期賃貸借)


【改正法】
(短期賃貸借)
第602条 処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。
1~4 (略)
【旧法】
(短期賃貸借)
第602条 処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
三 建物の賃貸借 3年
四 動産の賃貸借 6箇月

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

1.処分につき行為能力の制限を受けた者

本条は、いわゆる短期賃貸借に関する規定の見直しです。

旧法では、「処分につき行為能力の制限を受けた者」又は「処分の権限を有しない者」が賃貸借をするには、一定期間を超えない短期のものに限っています。これは、長期の賃貸借は実質的には処分行為に当たるからです。

このように旧法では、「処分につき行為能力の制限を受けた者」と「処分の権限を有しない者」が、一定の期間を超える賃貸借ができないことになっていますが、改正法では「処分につき行為能力の制限を受けた者」の方を削除しています。

「処分につき行為能力の制限を受けた者」とは、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人になります。これらの者が行う行為については、それぞれ別途規定が設けられており、本条に規定する必要がないと考えられたからです。むしろ制限行為能力者であっても、一律に短期賃貸借をすることができるという誤読のおそれがあるとされています。

より具体的にいうと、未成年者の場合、単独で法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならず、例外的に法律行為ができる場合については別途規定が設けられており(5条)、これ以外の法律行為ができるわけではありません。したがって、別途短期賃貸借の規定を設けることは適当ではありません。

また、成年被後見人の場合、その法律行為は、取り消すことができ、日用品の購入その他日常生活に関する行為についてのみ例外的に行うことができます(9条)。この場合も、別途短期賃貸借の規律を設けることは不要です。

次に、被保佐人の場合、一定の行為をするについて保佐人の同意を要する旨の規定があり、この「一定の行為」の中に「第602条に定める期間を超える賃貸借をすること」というのが規定されており(13条1項9号)、再度602条で規定する意味はありません。

最後に、被補助人については、補助人の同意を要する行為は、第13条1項に列挙された行為の中から、家庭裁判所が指定することになっており(第17条1項)、ここでも別途短期賃貸借の規定を適用する必要はありません。

以上より、「処分につき行為能力の制限を受けた者」という文言が削除されました。

2.処分の権限を有しない者

もう一つの「処分の権限を有しない者」については、不在者の財産管理人や後見監督人がある場合の後見人等が含まれるとされているので、特に変更する必要はなく、そのまま条文上も残されています。

3.法定期間を超える賃貸借の取扱い

次に、本条の柱書きに、後段が追加されています。契約で本条各号の期間より長い期間を定めたときであっても、その期間は、各号に定める期間とする、という部分です。

従来より、本条各号の期間を超える賃貸借の効力については、賃貸借契約全体が無効となるのか、法定期間を超える部分のみが無効(一部無効)となるのかが問題となっていました。

学説の中には、第604条(賃貸借の存続期間)のように上限を短縮する旨の特別の規定がないことを理由に、当事者が法定期間の範囲内でも賃貸借をしたと認められる特別の事情がある場合を除き全部無効とすべきであるとする見解もあります。

しかし、戦後の下級審裁判例は、一貫して一部無効説をとっているとされています。

そこで、この判例に従って一部無効説をとり、改正法では、契約で本条各号の期間より長い期間を定めたときは、その期間は、各号に定める期間に短縮する旨の規定を設けました。