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第587条の2(書面でする消費貸借等)


【改正法】(新設)
(書面でする消費貸借等)
第587条の2 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

2 書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。

3 書面でする消費貸借は、借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。

4 消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その消費貸借は、書面によってされたものとみなして、前3項の規定を適用する。
【旧法】
なし

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

1.諾成契約(第1項)

本条は、新設の規定です。第1項で「前条の規定にかかわらず」とありますが、前条というのは、旧法の消費貸借の規定で、消費貸借が要物契約(契約の成立に現実の金銭等の交付が必要)であることを規定しています。つまり、旧法のもとでは消費貸借は要物契約であると規定し、民法上はその形の消費貸借しか認めていませんでした。当事者の合意による消費貸借は旧法には明文の規定がなかったわけです。

したがって、旧法の明文の規定だけによると、貸主と借主が消費貸借の合意をしていたとしても、実際には現実の金銭の交付がない以上、消費貸借契約は成立せず、借主は金銭の交付を請求できないことになります。また、旧法では、実務上の必要から、金銭の交付前に公正証書(執行証書)の作成や抵当権の設定がしばしば行われていましたが、消費貸借契約を要物契約とのみ捉えていると、これらの証書や抵当権の効力について疑義が生じかねません。

このような不都合があるので、旧法下でも判例は、当事者の合意による消費貸借を諾成的消費貸借として認めていました。

そこで、改正法は正面から明文で、要物契約ではない当事者の合意による消費貸借を認めました。

ただ、単純に当事者の「合意」だけの消費貸借契約の成立を認めず、「書面でする」ことを要求しています(第1項)。

したがって、消費貸借契約については、従来の要物契約としての消費貸借契約(第587条)と、諾成契約としての書面による消費貸借契約(第587条の2)の二つが併存していることになります。

2.借主の解除(第2項)

そして、この書面でする消費貸借において、借主は、貸主から金銭等を受け取るまでは、契約の解除ができる旨を規定しています(第2項)。これは借主に借りる義務を負わせない趣旨のようです。たとえば、新しい店舗を出店するため、銀行と金銭消費貸借契約を書面で締結し,金銭の交付時期を契約締結の1か月後とすることに合意しましたが、その後、事情により新店舗の出店を取りやめたような場合、契約を解除し、無理に金銭を借りる必要がなくなることになります。

しかし、これでは貸主が損害を受ける可能性が出てくるので、貸主が契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対して賠償を請求できる旨を規定しています(第2項但書)。ただ、この賠償請求も、相当の資金調達コストがかかる高額融資のようなケースを想定しているようで、消費者ローンのような少額多数の融資では、借主の契約解除による損害はなく、賠償請求は認められないと考えられているようです。

なお、この「損害」には利息は含まれません。改正法589条により「貸主は、借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる」と規定されているので、貸主から金銭その他の物を受け取るまでの契約の解除について規定されている本項では、まだ利息が発生していないと考えられるからです。

3.当事者の一方の破産(第3項)

旧法589条は「消費貸借の予約と破産手続の開始」について規定しています。消費貸借の予約については、唯一の規定です。

この規定は、「当事者の一方」が破産手続開始の決定を受けたときは、消費貸借の予約が効力を失う旨を規定していますが、借主が破産手続開始の決定を受けたときは、契約当事者間における信用供与の前提が崩れてしまいます。貸主が破産手続開始の決定を受けたときは、借主の債権は、破産債権者としての配当しか受けられなくなる一方、貸主の借主に対する返還請求権は破産財団を構成するということになりますが、このような処理は煩雑であり、消費貸借の予約の趣旨や目的に合致しません。そこで、当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、消費貸借の予約の効力は失われることになっています。

このような状況は、諾成的消費貸借契約における目的物が交付される前の当事者にも妥当するので、本条で諾成的消費貸借契約を規定するにあたって、旧法589条「消費貸借の予約と破産手続の開始」と同じ規定を設けています。

なお、これに関連して、本条で諾成的消費貸借契約を規定することによって、消費貸借の予約の規定が必要かどうか問題となります。消費貸借の予約は、本契約である消費貸借契約を締結する予約ですから、消費貸借の予約に基づいて本契約を締結するには、目的物の交付が必要であり、単に予約完結権を行使しただけでは消費貸借契約は成立しないと考えますと、諾成的消費貸借契約と消費貸借の予約は別物となり、消費貸借の予約の規定を残しておく意味があるということになりそうです。しかし、消費貸借の予約をしますと、貸主となるべきものには貸す債務が発生すると解されており、そうすると諾成的消費貸借と別に消費貸借の予約を規定しておく意味がなくなります。そこで、改正法では、消費貸借の予約については規定していません。

4.電磁的記録(第4項)

諾成的消費貸借契約は、「書面」でする必要がありますが、諾成的消費貸借契約が電磁的記録によってなされたときは、「書面」によってなされたものとみなされ、前3項の規定が適用されます。