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第511条(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)


【改正法】
差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第511条 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。

2(新設) 前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
【旧法】
支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第511条 支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

本条は、債権の差押え等により支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止について規定されています。

まずは、「支払の差止めを受けた第三債務者」という表現が、「差押えを受けた債権の第三債務者」という表現に変わっています。内容的には同じです。

次に、旧法において差止め後に第三債務者が取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない旨を規定していますが、差押え前の取得債権を自働債権としてする相殺の可否及び要件については、旧法では明示されていません。これについては、肯定されていますので、改正法では、その旨を明文で規定しました(第1項)。

第511条(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)

ただ、その要件については、争いがあります。上記の図でいうと、CがAのBに対する債権(受働債権)を取得する前に、BのAに対する債権(自働債権)を取得している必要がありますが、この自働債権と受働債権の弁済期の先後については争いがあり、条文上は明らかではありません。

判例は、自働債権と受働債権の弁済期の先後は問わず、相殺できるとしています(無制限説)。

これに対して、受働債権の弁済期が先に来て、自働債権の弁済期が後に来る場合には相殺できないとする説があります。第三債務者(B)が、受働債権の弁済期が到来しているのに、その弁済を拒みつつ、自働債権の弁済期が到来するのを待って相殺するというのを認めるのは不合理だ、等の考えです。

これに対しては、現状ではほとんどのケースで差押え等を理由する期限の利益喪失約款がついているので、受働債権が差押えられた段階で、弁済期が到来していることになり、相殺を認めても差し支えないという反論もあります。また、実務においては、先程の判例を前提に無制限説での運用が長く続いているという指摘もあります。

いずれにしても、この問題は、①自働債権の弁済期が後に到来する場合における第三債務者の相殺に対する期待を保護する必要があるか、あるいは②相殺の担保的機能を重視し、相殺権者による優先的な回収を認めることが妥当であるかという観点から考える必要があります。

改正法では、この弁済期の先後の問題については、明文ではっきりさせることはしなかったようです。

このように、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできませんが、これは、このような相殺を認めると、差押え制度の実効性を失わせ、差押債権者を害することになるからです。したがって、改正法では第2項で、差押え後に取得した債権であっても、それが差押え前の原因に基づいて生じたものであるときには、第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる旨を規定しました。