第424条の2(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)
【改正法】(新設) (相当の対価を得てした財産の処分行為の特則) 第424条の2 債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。 一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。 二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。 三 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。 |
【旧法】 なし |
※上記赤字の部分が改正部分です。
【解説】
1.総論
前条で一般的な詐害行為取消権の要件を規定していましたが、本条からはいろいろな類型における詐害行為取消権の特則を定めています。その最初として、「相当の対価を得てした財産の処分行為の特則」が規定されています。
旧法でも、詐害行為取消権の要件は定められていて、「債務者が債権者を害することを知ってした法律行為」というのがありました。その解釈として、判例(大判明44年10月3日等)は、相当の対価を得た処分行為でも詐害行為に該当する等と、かなり広範に詐害行為と認定していました。
ただ、平成16年に破産法が改正され、詐害行為取消権と同様の制度である否認権について、要件が広範に過ぎると取引に萎縮効果が生じるとして、行為類型ごとに否認権の要件を定めました。
その結果、同じ行為であっても、民法上は詐害行為取消権の対象となるが、破産法上は否認権の対象とならないということが生じました。
そこで、今回の民法の改正においても、破産法の否認権の制度を参考にして、行為類型ごとの要件の特例を定め、相当の対価を得てした財産の処分行為の特則(第424条の2)、特定の債権者に対する担保の供与等の特則(第424条の3)、過大な代物弁済等の特則(第424条の4)を新たに規定しました。
2.相当の対価を得てした財産の処分行為の特則(本条)
その一つとして、本条の「相当の対価を得てした財産の処分行為の特則」というのがあります。
これについては、判例があります。判例は、不動産等の財産を相当価格で処分する行為について、債権者に対する共同担保としての価値の高い不動産を消費、隠匿しやすい金銭に換えることは、債権者に対する共同担保を実質的に減少させることになるとして、詐害行為に該当し得るとしています。
このように判例は、不動産等を金銭に換えれば、費消、隠匿しやすいので、詐害行為に該当し得るとしているわけですが、破産法は、その点についてもう少し明確に規定しています。
つまり、破産法は、相当の対価を得てした財産の処分行為の否認について、「破産者が隠匿等の処分をする具体的なおそれ、破産者の隠匿等の処分をする意思、受益者の認識」をその要件とするなどの規定を置いています(同法161条1項)。単に、不動産を金銭に換えた、というだけでなく、破産者(債務者)や、受益者についてより詳しい要件を定めているわけです。これにより、その要件を明確化するとともに、その成立範囲を限定しています。
そこで、詐害行為取消権においても、単に判例をそのまま踏襲するだけでなく、破産法の否認権と同様の要件を設けているわけです。
具体的には、第1号から第3号の規定で、第1号で、「債務者の行為」が、隠匿等の処分をするおそれを現に生じさせるものであること、という行為の要件を定めるとともに、第2号で「債務者」が金銭等について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと、という債務者の主観的要件を定め、第3号で、「受益者」が、債務者の隠匿等の意思を知っていたこと、という受益者の主観的要件を定めています。この3つの要件は、いずれにも該当することが必要で、3つとも必要です。
これらの要件は、破産法の改正において相手方(詐害行為取消権でいうと受益者)の予測可能性を確保する観点から規定されたもので、これらの規定を入れることによって、危機時期の債務者について遊休資産を売却することを可能にしたり、救済融資を容易にしたりして事業の再生を図っていくことができます。
この破産法の規定に詐害行為取消権も合わせれば、破産法改正の趣旨が徹底されることになります。