第415条(債務不履行による損害賠償)
【改正法】 (債務不履行による損害賠償) 第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。 一 債務の履行が不能であるとき。 二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。 三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。 |
【旧法】 (債務不履行による損害賠償) 第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。 |
※上記赤字の部分が改正部分です。
【解説】
1.損害賠償の要件(第1項)
この条文は、債務不履行による損害賠償の規定で、非常に基本的な条文です。
まず、旧法の規定から見ていきますと、旧法は前半と後半があって、前半は履行遅滞の場合に損害賠償請求権が発生する旨が規定されています。後半は、履行不能の場合にも、同様に損害賠償請求権が発生する旨が規定されています。そして、後半の履行不能の場合は、「債務者の責めに帰すべき事由」が必要であると明記されていますが、前半の履行遅滞の場合には、この「債務者の責めに帰すべき事由」が必要であることが規定されていません。
しかし、履行遅滞も債務不履行である以上、「債務者の責めに帰すべき事由」が必要なのは当然で、判例(最判昭61年1月23日)も同様に考えていました。そこで、改正法はそのことを明記しました。
そして、その帰責事由というのは、当該債務に係る給付の内容や不履行の態様から一律に定まるものではなく、個々の取引関係に即して、契約の性質、契約の目的、契約の締結に至る経緯等の債務の発生原因となった契約に関する諸事情を考慮し、さらに取引に関して形成された社会通念をも勘案して判断するものと考えられていました。そこで、改正法第1項ただし書は「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」という部分を明記しています。
最後に、旧法の規定によれば、債務者の帰責事由は損害賠償を請求する債権者が主張立証する必要があるように読めますが、改正法は、債務者が帰責事由の不存在について主張立証責任を負うことが明確になるように規定し直しています。つまり、第1項本文で、債務不履行があれば債権者は損害賠償を請求できると規定し、ただし書で、「債務者の責めに帰することができない事由」によるものであれば、損害賠償を請求できないと規定することによって、債務者が帰責事由の不存在を主張立証しなければ、その責めを免れないことが明瞭になっています。
2.填補賠償(第2項)
この第2項の意味は分かりにくいと思います。債務不履行による損害賠償は、履行が遅延したことによる損害賠償(遅延賠償)と、履行に代わる損害賠償(填補賠償)を分けて考えています。
そして、第2項は「債務の履行に代わる損害賠償」という表現をしていることから分かりますように、填補賠償の要件を規定しています。それが、第1号から第3号です。そもそも、従来から債務不履行があれば、一定の要件の下に債権者は填補賠償を請求できることは認められていましたが、旧法にはその填補賠償に関する規定は置かれていませんでした。そこで、改正法で填補賠償が認められるための要件を新設しました。
最初に、填補賠償と遅延賠償について、俯瞰しておきますと、下記のようになります。
履行不能 = 填補賠償
履行遅滞 ≒ 遅延賠償
履行不能の場合は、これは問題なく填補賠償の請求になります(第1号)。
そして、履行遅滞の場合には、基本的に遅延賠償の請求になりますが、遅滞してから履行したのでは債権者に利益をもたらさない場合に、解除がなされれば填補賠償を請求できるとされています。
以上を前提に第2項各号を見ていきますと、第1号は、そもそも債務の履行が不能ですから、填補賠償を請求できます。
第2号は、債務者が履行を拒絶する意思を明確に表示したときに填補賠償を請求できることを認めています。このように債務者が債務の履行を終局的・確定的に拒絶した場合についての損害賠償請求は旧法には規定されていません。しかし、債務者が履行期前に履行を拒絶したり、双務契約において、双方の債務の履行期が異なる場合において、片方が先履行し、他方が履行を拒絶したときは、履行拒絶による損害賠償責任を認めることに実益があるので、改正法で、本号のような履行拒絶のような場合に填補賠償を認めました。
なお、この「債務の履行を拒絶する意思」というのは、明確に表示されていることが必要であり、単に履行を拒んだというだけではなく、履行拒絶の意思がその後に翻されることが見込まれない程に確定的なものであることが必要であるとされています。
第3号は問題ですが、填補賠償を請求するには、契約を解除する必要があるという説もあるようですが、改正法では、契約が解除された場合だけでなく、「契約の解除権が発生したとき」も填補賠償を認めています。