※この記事は一般的な条文解説で、宅建等の資格試験の範囲を超えた内容も含みます。当サイトの記事が読みやすいと感じた方は、当サイトと資格試験向け教材の関係をご覧下さい。

第412条の2(履行不能)


【改正法】(新設)
(履行不能)
第412条の2 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。

2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
【旧法】
なし

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

1.履行不能(第1項)

本条は、新設された規定で、第1項では履行不能について、第2項では原始的不能について規定しています。まず、第1項の履行不能ですが、債権者は債務者に対して債務の履行を請求できますが、債務の履行が不能であるときは、履行を請求できなくなります。このことを規定しているのが第1項ですが、あまりに当たり前すぎて、コメントのしようがない感じです。

確かに、債務の履行が物理的に不可能な場合には、そうでしょう。しかし、判例(大判大2年5月12日)によれば、この履行が不能というのは、単に物理的に不能な場合だけでなく、「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念」に照らして不能であるときも履行不能であるとしています。

したがって、この第1項というのは、たとえ履行が物理的には可能であっても、「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能」であるときも、履行不能になり、債権者は債務の履行を請求できなくなるという点を併せて考えれば、その意味がよく理解できます。

2.原始的不能(第2項)

続く第2項ですが、これは別の意味で違和感を覚える人もいるのではないかと思います。

原始的不能というのは、「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能」(第2項)であった場合ですが、もともと履行が不能な内容の契約をしているわけですから、このような契約は無効であり、「債務不履行」にはならないと考えるのが素直ともいえるからです。

このような考え方によると、原始的不能の場合には、債務不履行による損害賠償請求をすることはできず、信義則(第1条2項)違反を根拠に損害賠償請求の余地が生じるに過ぎません。

ところが、たとえば家屋の売買契約を締結したところ、債務者(売主)の帰責事由で家屋が焼失してしまった場合、契約後に家屋が焼失したのであれば、それは債務不履行になり、買主は債務不履行に基づく損害賠償を請求することができます。しかし、家屋が契約の前日に焼失していたのであれば、それは存在しない家屋を売ったということで、当該売買契約は無効になりそうです。

ただ、それでは履行不能になったのが、たまたま契約の前日であったというだけで、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができなくなります。履行不能の原因が生じたのが契約締結の直前か直後かにより、債務者に債務不履行責任が生ずるかどうかが左右されるのは不都合ではないか、ということでこの規定が新設されたようです。

第2項の条文で、原始的不能の場合に「その履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。」と規定されているので、損害賠償請求を認めてはいますが、その根拠については、債務不履行とは限らないようにも読めますが、「第415条の規定により」損害賠償の請求を妨げないとしており、第415条は債務不履行による損害賠償の規定ですから、第2項の損害賠償の根拠は「債務不履行」ということになります。

なお、契約が原始的に不能である場合には、不能であるにもかかわらず契約を締結しているわけですから、動機の錯誤(第95条)となる可能性がありますが、本条によりこの動機の錯誤の主張が否定されるわけではありません。そして、動機の錯誤を理由に契約を取り消した場合は、契約は遡って無効となりますので、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることはできなくなります。