第145条(時効の援用)
【改正法】 (時効の援用) 第145条 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。 |
【旧法】 (時効の援用) 第145条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。 |
※上記赤字の部分が改正部分です。
【解説】
本条は時効の効果が生じるには、当事者の援用を必要とする旨が規定されており、時効の援用権者を「当事者」だとしています。
この「当事者」というのは、取得時効により権利を取得できる者や、消滅時効にかかった債務者等の直接時効の利益を受ける者が含まれることには争いがありません。
しかし、その他の時効を援用できる当事者の範囲については、どこまで「当事者」に含まれるのかについては問題が生じます。この点について、判例は「時効により直接利益を受ける者」とし(最判昭42年10月27日)、保証人、物上保証人(最判昭43年9月26日)、第三取得者(最判昭48年12月14日)を時効の援用権者に含めています。この結論については、異論はありませんでした。
しかし、このような結論を「当事者」という文言のみから読み取ることは容易ではありません。そこで、改正法は「当事者」の意義についてカッコ書きを追加して明確にしています。つまり、「当事者」というのは、「消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む」としているわけです。
これは従来の判例をベースにしていますが、判例のいう「直接」「間接」という表現が、実質的には機能していませんでした。判例において時効の完成によって「利益を受ける」というのは、他人の財産について消滅時効を援用することが正当化される程度に、自己の利益が影響を受けるかどうかを考慮する趣旨だと考えられます。このような判例の趣旨に合致するものとして、「直接」「間接」という表現ではなく、「権利の消滅について正当な利益」という表現に変更したわけです。そして、これに含まれる者として、従来からの判例として異論がない保証人、物上保証人、第三取得者を例示しています。
以上の説明で分かりますように、改正法は、従来の判例を否定するものではなく、その実質的な内容をより適切に表現するためです。このように「正当な利益」という表現に変わったとしても、この表現自体いまだ抽象度の高い概念であるため、さらに解釈が必要となり、従来の判例が参照されることもあり得るとされています。