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第107条(代理権の濫用)


【改正法】(新設)
(代理権の濫用)
第107条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
【旧法】
なし

※上記赤字の部分が改正部分です。

【解説】

本条は新設の条文です。代理人が代理権を濫用して「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合」については、旧法には規定がありませんでした。このように代理人が代理権を濫用した場合でも、代理権の範囲内の行為である以上、本人に効果が帰属するのが原則ということになるはずです。しかし、判例(最判昭和42年4月20日)は93条但書(心裡留保)の規定を類推して、本人保護を図っています。

心裡留保の規定は、たとえば、A(表意者)が売るつもりもないのにBに対して売る旨の意思表示をした場合に、有効とする規定です。表意者の表示は「売る」というものであるのに対し、真意は「売るつもりがない」という場合に、表示通りに売買契約を有効としています。しかし、この規定には但書があって、相手方Bが表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示を無効としています。

これを代理に置き換えて、「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合」には、代理人の「自己又は第三者の利益を図る目的」という真意に対して、代理人は「本人のため」と表示しているわけです。これは、代理人の真意と表示が食い違うとして、心裡留保と似ていると考えた上で、93条但書を類推適用して、代理における相手方が、表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなして、本人の保護を図っているわけです。

ただ、このような論理は、通常の条文を見ているだけでは分かりにくくなります。そこで、改正法は代理権の濫用について直接規定を設けたわけです。

このように条文から容易に導くことはできないが実務的に確立している重要な判例法理について,できる限り条文に明記するというのが、今回の改正では多くなっています。

ところで、判例のいうように代理権の濫用の場合に第93条但書を類推適用するということになりますと、当該代理行為は「無効」ということになりますし、また、そのように解されていました。しかし、改正法では代理行為を「無効」とせずに、「代理権を有しない者がした行為とみなす」、すなわち、無権代理行為とみなしています。「無効」だと、一般的には本人は追認することができません(第119条本文)。しかし、改正法のように無権代理行為とすると、本人は代理行為が自分に有利だと考えると、追認することができますので、より柔軟な解決が可能になるとされています。

さらに、無権代理行為だということになりますと、一定の要件を満たせば、代理人は相手方に対して無権代理人の責任を負うことになります(第117条)。