事例11~売買契約の解除

【登場人物等】

甲:売主業者(Eクラブの管理・所有者)
乙:買主
D:リゾートマンション
Eクラブ:スポーツ施設

【事例】

買主乙は、売主甲よりDマンションを4,400万円で買い受け(以下「本件売買契約」という)、同日手付金440万円を支払い、後日残代金を支払った。

本件売買契約においては、売主の債務不履行により買主が契約を解除するときは、売主が買主に手付金相当額を違約金及び損害賠償として支払う旨が合意されている。

乙は、これと同時に、甲から、甲が所有・管理するEクラブ(以下、「本件クラブという)の会員権を購入し、登録料50万円及び入会預り金200万円を支払った。

本件売買契約の契約書には、特約事項として、買主は、本件不動産購入と同時に本件クラブの会員となる旨の記載があり、本件クラブの会則にも、本件マンションの区分所有権は、本件クラブの会員権付きであり、これと分離して処分することができないこと、区分所有権を他に譲渡した場合には、会員としての資格は自動的に消滅する旨が定められている。

本件マンションの区分所有権及び本件クラブの会員権を販売するに際して、新聞広告等には、本件クラブの施設内容として、テニスコート等を完備しているほか、本件売買契約の翌年には屋内温水プール等が完成の予定である旨を明記していた。

その後、甲は、乙に対し、屋内プールの完成が遅れる旨を告げるとともに、完成の遅延に関連して60万円を交付した。乙は、甲に対し、屋内プールの建設を再三要求したが、いまだに着工もされていない。

乙は、甲に対し、屋内プール完成の遅延を理由として本件売買契約及び本件会員権契約を解除する旨の意思表示をした。

この売買契約及び会員権契約の解除は認められるか。

※本事例は、最判H8.11.12を基に作成しています。

【解説】

本事例は、ちょっと特殊な場合で、事例で学ぶ「宅建」という観点からは不適当だと思う方もおられると思いますが、実はこれは宅建の「過去問」です。

宅建本試験 平成22年 問9

上記の問題は、実は本事例の基となった判例が出題されています。

それでは、実際にこの事例を解説しましょう。

いろいろと書いてありますが、問題の所在は簡単です。本事例は、リゾートマンションの売買契約と、スポーツ施設の会員権が「セット販売」されている事例です。

そして、スポーツ施設に関する債務不履行によって、その会員権契約の解除ができるのは当然としても、マンションの売買契約まで解除することができるのか、という点が問題です。この2つの契約が別々のものであれば、「会員権」契約に関する債務不履行で「マンション」の売買契約を解除するのはおかしい、ということになります。

そこで、判例は一般論として、「同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、甲契約上の債務の不履行を理由に、その債権者が法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除することができるものと解するのが相当である。」としており、この文章が宅建の本試験で使われています。

この判例の理論は実に簡単で、2つの契約が相互に密接に関連づけられていれば、一方の契約の債務不履行を理由に、他方(したがって、両方)の契約も解除できるというものです。

後は、本事例が2つの契約が相互に密接に関連付けられているかという問題になります。

そして、当初契約の翌年完成予定であった屋内温水プールは会員の重要な権利内容であったこと、本件マンションを買い受けるには必ず本件クラブに入会する必要があり、かつ、マンションを譲渡すれば会員の地位を失うとされており、まさにマンションとクラブの会員たる地位は密接に結びついています。

したがって、屋内プール完成の遅延を理由として本件会員権契約を解除することができるだけでなく、マンションの売買契約も同時に解除することができます。