下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成25年 問8

【問 8】 次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1 倒壊しそうなA所有の建物や工作物について、Aが倒壊防止の措置をとらないため、Aの隣に住むBがAのために最小限度の緊急措置をとったとしても、Aの承諾がなければ、Bはその費用をAに請求することはできない。

2 建物所有を目的とする借地人は、特段の事情がない限り、建物建築時に土地に石垣や擁壁の設置、盛土や杭打ち等の変形加工をするには、必ず賃貸人の承諾を得なければならない。

3 建物の賃貸人が必要な修繕義務を履行しない場合、賃借人は目的物の使用収益に関係なく賃料全額の支払を拒絶することができる。

4 建物の賃貸人が賃貸物の保存に必要な修繕をする場合、賃借人は修繕工事のため使用収益に支障が生じても、これを拒むことはできない。

【解答及び解説】

【問 8】 正解 4

1 誤り。自らの財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をし、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。
*民法702条

2 誤り。建物所有を目的とする借地人は、建物の建築に必要な石垣や擁壁の設置、盛土や杭打ち等の変形加工をすることができ、基本的にそれらの行為を行うのに賃貸人の承諾を得る必要はない。

3 誤り。賃貸人には、目的物の修繕義務があるが、賃貸人がこの修繕義務を履行しないときは、賃借人が、不履行の程度に応じ、全部または一部の賃料の支払を拒絶できる。賃借人が目的物を使用収益できる場合に、常に賃料全額の支払を拒絶することができるとは限らない。
*民法606条1項

4 正しい。賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は、契約の解除をすることができるが(民法607条)、修繕自体を拒むことはできない。

【じっくり解説】

この問題は、過去問勉強についていろいろ考えさせられる問題です。結論は、民法606条2項より「正しい」ということになります。民法606条2項は下記の条文です。

「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。」

まず、この条文の趣旨は、本条民法606条1項で「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。」ということを前提とした上で、この賃貸人の修繕義務は、賃貸人の権利でもあるという言い方をします。もともと、賃貸人は目的物を賃貸しているかもしませんが、あくまで賃借物は賃貸人の所有物、自分の物です。自分の所有物について、その保存に必要な行為をするのは、当然の権利です。したがって、賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときに、賃借人がこれを拒むというのは、おかしいことになります。

と、ここまでの解説でこの問題は解答できるはずです。ところで、この問題文には「賃借人は修繕工事のため使用収益に支障が生じても」という言葉が追加されています。実は、本日の問題は平成25年の問題ですが、この内容がその前に出題されたのは、平成元年(問6 肢1)です。

問題文は「Aは、自己所有の建物をBに賃貸した。建物が老朽化してきたため、Aが建物の保存のために必要な修繕をする場合、Bは、Aの修繕行為を拒むことはできない。」という問題で、もちろん「正しい」肢ですが、平成元年の問題は、非常にシンプルで、事例の形を取っているとはいえ、条文そのままの問題です。ところが、平成25年の問題は、上記の「賃借人は修繕工事のため使用収益に支障が生じても」という言葉が入り、ひねりが入っています。

ということで、まだ本試験では出題されていませんが、出題の可能性があるということで、もう一点追加しておきましょう。先ほど、賃貸人の賃貸物の保存に必要な行為を賃貸人は拒めない。それは、賃貸人の所有物である以上当然だ、と書きましたが、賃貸人の所有物であったとしても、現在は賃借人に賃貸して、賃借人が使用している以上、賃借人の都合も考えないといけません。その問題意識が、平成25年の「賃借人は修繕工事のため使用収益に支障が生じても」という言葉に表れているわけです。つまり、賃貸人の修繕を賃借人は止めることはできないけれども、賃借人の都合はどうなるの?ということです。

そのような賃借人の救済のための規定があります。民法607条です。

「賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。」

つまり、賃借人には賃貸借契約の解除権というのが与えられているわけです。平成25年の問題意識からいうと、この解除権まで覚えておけば完璧だと思います。

ところで、最後に本問の知識が出題されている年にご注目下さい。平成元年→平成25年というふうに間隔が開いています。民法の範囲というのは、広いので、重要な知識でも、このようなことがたまにおきます。普通、過去問というのは、直近10年分を勉強することが多いんですが、平成25年の受験生は、過去10年の問題を見ても、この知識は出題されていないことになります。したがって、直近10年分以前の問題も見ておいた方がいいということで、当学院の宅建通信講座では、以前の過去問も直近10年分と重複していないものについては、掲載しています。

*民法606条2項


【解法のポイント】この問題は、肢1~肢3は、典型的な問題とはいえないですが、常識的にも判断できるものだと思います。また、正解肢の肢4は過去問の内容ですから、できなければならないので、全体としては平易な問題だと思います。