「又は」「若しくは」「及び」「並びに」
【解説】
1.概要
法律の条文でよく見かける言葉で、「又は」「若(も)しくは」「及び」「並びに」というのがあります。これらの言葉の使い方には一定のルーがありますが、それが分からなければ、文章の構造が分かりにくくなり、正確な条文の意味を取り違えてしまう可能性が出てきます。これは条文だけではなく、一般的に法律の文章を読むときにも非常に重要です。まず、「又は」と「及び」の違いは基本中の基本ですので、それを押さえて下さい。
「又は」というのは、英語の「or」にあたり、どちらか「1つ」という意味です(選択的接続)。「A又はB」というと、AとBのどちらか1つということです。
次に、「及び」というのは、英語の「and」にあたり、「両方」という意味です(併合的接続)。「A及びB」というのは、AもBも2つともという意味です。
そして、「又は」が二段階以上にわたるときは、小さな接続には「若しくは」を用います。「A又は(B若しくはC)」という具合です。
同様に、「及び」が二段階以上にわたるときは、大きな接続には「並びに」を用います。「(A及びB)並びにC」という具合です。
以下、詳しく見ていきます。
2.「又は」「若しくは」
(1)「又は」
「又は」は最初に書きましたように、どちらか「1つ」という選択的な接続に使います。「A又はB」は、AとBのどちらか1つという意味になります。たとえば、民法90条(公序良俗)「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」という条文の場合は、「公の秩序」だけに反しても無効だし、「善良の風俗」だけに反しても無効です。
並べるものが3つ以上になると、最初は「、」で並べ、最後に「又は」でつなげます。「A、B又はC」ということになり、AとBとCの3つのうちの1つ、という意味になります。
たとえば、労働基準法3条(均等待遇)「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」という条文は、「国籍」だけを理由に差別してもならないし、「信条」だけを理由に差別してもならないし、「社会的身分」だけを理由に差別してもならないということになります。ちなみに、本条の「労働者の」という言葉は、「国籍」「信条」「社会的身分」の三つにかかっています。
(2)「若しくは」
①二段階
さて、この選択的接続が二段階にわたる場合があります。この場合には、一番大きい接続には「又は」を、小さい接続には「若しくは」を使います。「A又は(B若しくはC)」というように使います。「A、B又はC」と「A又はB若しくはC」という場合、結局A、B、Cの3つのうち、1つという意味ですから、どちらの表現でもよさそうですが、二段階に分けた場合、グループ分けをすることによって、分かりやすく分類している形になります。
たとえば、刑法25条第1項(執行猶予)で、「次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは … 」という表現があります。
こういうふうに、「又は」と「若しくは」の両方が出てくる場合は、大きい接続を示す「又は」に注目します。
「3年以下の懲役若しくは禁錮」又は「50万円以下の罰金」と、大きく分けます。そうすると、前半部分が2つに細かく分かれているわけです。結局、
1.3年以下の懲役か
2.3年以下の禁錮か
3.50万円以下の罰金か
3つのうちのどれか、という意味になりますが、この3つのうち、懲役と禁錮は身体を拘束する刑罰、罰金は財産刑というふうにグループ分けしているわけです。
もう少し複雑な例を挙げると、民法120条1項(取消権者)「行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又は(その代理人、承継人若しくは同意をすることができる者)に限り、取り消すことができる。」という条文の場合、「又は」で大きく分けて読みますが、結局取り消すことができるのは、
1.制限行為能力者
2.その代理人
3.承継人
4.同意をすることができる者
の四者になりますが、この4つは1.の制限行為能力者本人と、2.~4.の本人以外に分類することができます。したがって、2.~4.をひとまとめにしているわけです。
もう一つ例を出しておきましょう。「又は」と「若しくは」の両方が出てくる場合は、まず「又は」で大きく分けることになりますが、次の例は「又は」が2つ出てきます。
議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律1条の2第2項「各議院若しくは委員会又は両議院の合同審査会の決定に基づき、その指名する二人以上の議員又は委員(以下「派遣議員等」という。)を派遣し、証人に証言を求めるものとする。」というのがあります。ただ、この文章は大きく前半と後半に分かれているのは理解できるでしょう。
そして、選択的な接続が重なっているのは前半だけだと分かります。そこで、前半部分を見ると「各議院若しくは委員会」又は「両議院の合同審査会」と読むことが分かります。
後半の「又は」は選択的な接続が重なっていませんので、普通に二者択一の「又は」です。
②三段階
それでは、選択的接続が三段階以上にわたる場合はどうなるでしょうか。この場合、「又は」は一番大きな接続でしか使えないことになっています。したがって、それ以下の段階では、「若しくは」を重ねて使うことになります。具体的には、「A又は[B若しくは(C若しくはD)]」というふうになります。これは、小カッコと大カッコを付けたから少しは読みやすくなっていますが、実際の条文では「A又はB若しくはC若しくはD」となりますので、2つの「若しくは」の使い分けは、条文の内容を考えた上で判断する以外にありません。ちなみに、この場合に、三段階ではなく、二段階であるならば、「A又はB、C若しくはD」と表現されることになるでしょう。後半は「B、C若しくはD」と「、」を使って3つ並べるという方法です。先ほどの民法120条1項(取消権者)の規定がそうでした。
この場合、大きな接続の「若しくは」は「大若し」(おおもし)、小さな接続は「小若し」(こもし)と呼んで区別しているようです。
たとえば、地方自治法152条2項は「副知事若しくは副市町村長にも事故があるとき若しくは副知事若しくは副市町村長も欠けたとき又は副知事若しくは副市町村長を置かない普通地方公共団体において当該普通地方公共団体の長に事故があるとき若しくは当該普通地方公共団体の長が欠けたときは、その補助機関である職員のうちから当該普通地方公共団体の長の指定する職員がその職務を代理する。」となっています。
これは複雑な条文です。まず、一番大きい接続には「又は」を使うというルールがあるので、このような複雑な条文は、まず「又は」を探します。本条にも「又は」がありますので、それで前半・後半に分けます。
そして、前半で使われる「若しくは」がさらに二段階に分かれています。前半は、「副知事若しくは(小若し)副市町村長にも事故があるとき若しくは(大若し)副知事若しくは(小若し)副市町村長も欠けたとき」という文章ですが、「副知事若しくは副市町村長」がワンセットであることは読み取れるでしょう。
これで複雑な部分を整理した後で、全体をまとめると、下記の図のようになります。
要するに、副知事等(ナンバーツー)がいない状態で、地方公共団体の長(トップ)もいなくなれば、指定の職員がその職務を代理するという条文になります。そのうち、副知事等がいない状態として、副知事等が事故の場合、欠けた場合、そもそも置かない場合と3つを挙げていますが、そのうち、事故の場合と、欠けた場合は、副知事等がいたけれども、その後いなくなった場合であり、そもそも副知事等を置かない場合とは異なります。そこで、事故+欠けた場合を一つのグループとしているので、複雑になっているわけですが、文章としては、内容が分類されていて、整然としています(でも読みにくいという声が聞こえてきそうですが…)
3.「及び」「並びに」
(1)「及び」
「及び」というのは、最初に書きましたように、「両方」という意味で(併合的接続)、「A及びB」というのは、AもBも2つともという意味です。そしてこれも、並べるものが3つ以上の場合であれば、最初は「、」で並べ、最後に「及び」でつなげます。「A、B及びC」ということになり、AとBとCの3つ、という意味になります。
たとえば、憲法7条1号「憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。」というようになります。
(2)「並びに」
①二段階
そして、「又は」の場合と同様に、併合的接続が2段階に分かれることがあります。この場合には、「及び」に加えて、「並びに」というのを使います。そして、選択的接続の「又は」「若しくは」の場合と異なり、「及び」というのは小さい接続に使い、「並びに」は大きな接続に使われます。「(A及びB)並びにC」という具合です。
たとえば、行政事件訴訟法25条3項(執行停止)は、「裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。」と規定されていますが、これは「(損害の性質及び程度)並びに(処分の内容及び性質)」と読みます。
②三段階
次に、併合的な接続が3段階に分かれるときは、一番小さな接続で「及び」を使い、それより大きい接続は「並びに」を重ねて使うことになります。ここでも、重ねて使う「並びに」のうち、大きな接続を「大並び」(おおならび)、小さな接続を「小並び」(こならび)と区別します。たとえば、地方自治法231条の3第4項(督促、滞納処分等)は、「第一項の歳入並びに第二項の手数料及び延滞金の還付並びにこれらの徴収金の徴収又は還付に関する書類の送達及び公示送達については、地方税の例による。」と規定されています。
これは、「第一項の歳入並びに(小並び)第二項の(手数料及び延滞金の還付)並びに(大並び)これらの徴収金の(徴収又は還付)に関する書類の(送達及び公示送達)については、地方税の例による。」ということになります。
もっとも、立法技術が成熟していない時代には、一番大きな接続に「並びに」、それより小さい接続は「及び」を使っている例もあるようです。つまり、「及び」が二段階に分かれるわけです。
たとえば、憲法7条5号の規定は、「国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。」となっていますが、この条文は「及び」が「一番小さい」接続に使われていると考えると、「全権委任状及び大使」という部分は、性質の異なる内容のものが接続されていることになります。
そこで、この条文は「及び」に大小があり、「国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び(大)(大使及び(小)公使の信任状)を認証すること。」と読まざるを得ないことになります。
4.「又は」と「及び」の使い分け
(1) 両者の区別
今まで説明してきたように、「又は」はどちらか一つ、「及び」は両方というふうに明確に言葉の意味が異なります。しかし、実際の条文においては、どちらを使ってもよい、あるいはどちらを使うべきか迷うような場合があります。地方自治法162条は、「副知事及び副市町村長は、普通地方公共団体の長が議会の同意を得てこれを選任する。」となっていますが、副知事も、副市町村長も、両方とも普通地方公共団体の長が議会の同意を得てこれを選任するという意味ですから、「及び」で問題ありません。
しかし、この条文の場合、「又は」を使っても何らの問題も生じないと思われます。もし、一つの普通地方公共団体で、副知事と副市町村長の両方が同時に存在するのであれば、「又は」を使ってしまうと、副知事と副市町村長のどちらか一つにだけ、普通地方公共団体の長が議会の同意を得てこれを選任するということになって、意味が異なってきます。
しかし、この条文の「副知事及び副市町村長」というのは、「都道府県において副知事は、市町村において副市町村長は」という意味であって、一つの普通地方公共団体で、副知事と副市町村長の両方が同時に存在するという事態はあり得ません。
したがって、「又は」を使っても、結局、副知事も、副市町村長も、普通地方公共団体の長が議会の同意を得てこれを選任することになります。
このように、どちらでもよいような場合は、その場その場でふさわしいと思われるような表現を使っているようです。
(2) たすき掛け
たすき掛けというのは、「A又はBのC又はD」というような表現です。分かりやすくカッコでくくると「(A又はB)の(C又はD)」という表現になります。この場合、基本的には、「AのC、AのD、BのC、BのD」の4つの場合を含みます。
地方自治法100条12項の「議会は、会議規則の定めるところにより、議案の審査又は議会の運営に関し協議又は調整を行うための場を設けることができる。」というのは、この例です。
ただ、まれに「AのC、BのD」とそれぞれ対応する部分の組み合わせのみを指す場合もあるようです。
先ほどの表現と似たものとして「(A及びB)の(C又はD)」というふうに、最初の部分に「及び」を使う表現があります。
国家公務員法106条の12第2項の「委員長及び委員は、在任中、政党その他の政治的団体の役員となり、又は積極的に政治運動をしてはならない。」が、その例です。
この場合は、「及び」というのが、「両方」を意味する以上、先ほど書いた「AのC、BのD」という解釈はできなくなります。
5.まとめ
最後に、今までの部分をまとめておきましょう。→その他の用語解説に戻る