建替え円滑化法56条(権利変換を希望しない旨の申出等)

第56条 第14条第1項の公告又は個人施行者の施行の認可の公告があったときは、施行マンションの区分所有権又は敷地利用権を有する者は、その公告があった日から起算して30日以内に、施行者に対し、第70条第1項及び第71条第2項の規定による権利の変換を希望せず、自己の有する区分所有権又は敷地利用権に代えて金銭の給付を希望する旨を申し出ることができる。

2 前項の区分所有権又は敷地利用権について仮登記上の権利、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記若しくは処分の制限の登記があるとき、又は同項の未登記の借地権の存否若しくは帰属について争いがあるときは、それらの権利者又は争いの相手方の同意を得なければ、同項の規定による金銭の給付の希望を申し出ることができない。

3 施行マンションについて借家権を有する者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)は、第1項の期間内に施行者に対し、第71条第3項の規定による借家権の取得を希望しない旨を申し出ることができる。

4 施行者が組合である場合においては、最初の役員が選挙され、又は選任されるまでの間は、第1項又は前項の規定による申出は、第9条第1項の規定による認可を受けた者が受理するものとする。

5 第1項の期間経過後6月以内に権利変換計画について次条第1項後段の規定による認可が行われないときは、当該6月の期間経過後30日以内に、第1項若しくは第3項の規定による申出を撤回し、又は新たに第1項若しくは第3項の規定による申出をすることができる。その30日の期間経過後更に6月を経過しても同条第1項後段の規定による認可が行われないときも、同様とする。

6 定款又は規準若しくは規約及び事業計画を変更して新たに施行マンションを追加した場合においては、前項前段中「第1項の期間経過後6月以内に権利変換計画について次条第1項後段の規定による認可が行われないときは、当該6月の期間経過後」とあるのは、「新たな施行マンションの追加に係る定款又は規準若しくは規約及び事業計画の変更の認可の公告があったときは、その公告があった日から起算して」とする。

【読み替え後の条文】
新たな施行マンションの追加に係る定款又は規準若しくは規約及び事業計画の変更の認可の公告があったときは、その公告があった日から起算して30日以内に、第1項若しくは第3項の規定による申出を撤回し、又は新たに第1項若しくは第3項の規定による申出をすることができる。その30日の期間経過後更に6月を経過しても同条第1項後段の規定による認可が行われないときも、同様とする。

7 第1項、第3項又は前2項の申出又は申出の撤回は、国土交通省令で定めるところにより、書面でしなければならない。

【解説】

1.権利変換を希望しない旨の申出

マンション建替事業において、施行マンションの区分所有者は、権利変換で施行再建マンションの区分所有権等を取得するのが原則ですが、なかには権利変換を受けることを希望しない者もいるでしょうから、本条で施行再建マンションの区分所有権等を取得せず、代わりに金銭の給付を受ける旨の希望の申出をする機会を与えています。

2.関係権利者等の同意(第2項)

施行マンションの区分所有者で権利変換を希望しない旨の申出をすれば、本人はそれで希望通りになりますが、施行マンションについて権利を有する者等がいる場合には、その者の意思を無視するわけにはいきません。そこで、関係権利者等の間で将来紛争が発生することを防止するため、そのような関係権利者等の同意を得なければ、施行マンションの区分所有者は金銭の給付の希望を申し出ることができない旨を定められています(第2項)。

それでは、同意が必要な関係権利者等とは、具体的にどのような人かを見ます。

①仮登記上の権利がある場合

仮登記には順位保全効があるので、施行マンションの区分所有権等について仮登記上の権利があると、後にその仮登記が本登記になったときに、その仮登記を有していた者は、自身が区分所有権等を有していたことを施行者に対抗することができることになります。そこで、このような仮登記上の権利を有していた者の同意を必要としました。

②買戻しの特約の登記がある場合

施行マンションの区分所有権に買戻しの特約の登記があると、買戻権が実行されると区分所有権が買戻権者に移転し、これを施行者に対抗することができることになってしまいます。そこで、この買戻権者の同意も必要としています。

③権利の消滅に関する事項の定めの登記がある場合

不動産登記法59条5号に、権利に関する登記の登記事項として「登記の目的である権利の消滅に関する定めがあるときは、その定め」というのが列挙されています。これは、たとえば、解除条件付きの売買契約で所有権移転登記をする際に解除条件が付されている旨の登記などです。この登記がなされていれば、解除条件の成就等による権利の消滅を第三者に対抗することができます。

したがって、解除条件付き売買契約によって所有権を取得した現在の施行マンションの区分所有者は、解除条件が成就した場合は、その所有権を失い、売主である前の所有者に所有権が復帰し、それを施行者に対抗することができることになるので、その同意を必要としています。

④処分の制限の登記がある場合

処分の制限の登記というのは、差押、仮差押、処分禁止の仮処分の登記のようなもので、所有権の移転や担保権の設定等の処分が制限されている登記のことです。この登記があると、現在の登記記録上の権利者には処分権限がなくなります。

そして、本条の権利変換を希望せず、区分所有権等に代えて金銭の給付を希望することは区分所有権の処分に該当します。そこで、処分の制限の登記の権利者の同意が必要とされています。

⑤未登記の借地権の存否又は帰属について争いがある場合

登記されている借地権は、施行者は登記記録によって借地権者を確認できるし、借地権の帰属について争いがあっても、登記記録に記録されているものを借地権者として扱えば対抗できます。

しかし、未登記の借地権については、当事者からの申告によって借地権者を認定せざるを得ず、その帰属が争われている場合は施行者は真実の借地権者を確定できないことになります。そこで、争いの相手方の同意が必要とされています。

3.借家権の取得を希望しない旨の申出(第3項)

施行マンションの区分所有権について借家権を有する者は、権利変換によって施行再建マンションに借家権を有することができますが、借家権の取得を希望しない場合は、その旨を申し出ることができます(第3項)。

そして、借家権の取得を希望しない場合、当該地方に借家権を取引する慣行等がある場合には、その消滅する借家権には財産的な価値があると認められますので、これを金銭に換算して補償金が支払われることになります。

4.権利変換を希望しない旨の申出等の期間

権利変換を希望しない旨の申出は、組合や個人施行の認可の公告から30日以内に行う必要があります(第1項)。

この期間経過後6月以内に権利変換計画についての認可が行われないときは、当該6月の期間経過後30日以内に、権利変換を希望しない旨の申出を撤回し、又は新たに申出をすることができるようにしています。その30日の期間経過後更に6月を経過しても権利変換計画の認可が行われないときも、同様です(第5項)。つまり、6月ごとに権利変換を希望しない旨の申出をやり直すことができるわけです。

これは、権利変換計画で定めることになっている施行マンションの区分所有権等の価額の評価基準日が、本条の申出の期間を経過した日と定められているから、この申出の期間経過後6月以内に権利変換計画についての認可が行われないときは、施行マンションの区分所有権等の価額の評価を算定し直す必要があるからです。

また、定款又は規準若しくは規約及び事業計画を変更して新たに施行マンションを追加した場合は、新たな施行マンションの追加に係る定款又は規準若しくは規約及び事業計画の変更の認可の公告があったときは、その公告があった日から起算して30日以内に本条の申出を撤回し、又は新たな申出をすることができます。これは、新たに施行マンションを追加した場合は、全体の建替計画に重大な影響を及ぼすことになるので、施行マンションの区分所有権等に再度検討する機会を与える必要があるからです。

建替え円滑化法56条(権利変換を希望しない旨の申出等)