宅建業法68条(宅地建物取引士としてすべき事務の禁止等)
【解説】
1.宅地建物取引士に対する指示処分・事務禁止処分
本条は宅地建物取引士に対する指示処分及び事務禁止処分に関する規定です。
その性質上、条文の引用が非常に多くなっていますので、本条の全体の仕組みについてまとめておきます。
第1項…登録権者の指示処分
第2項…登録権者の事務禁止処分
第3項…登録権者以外の指示処分
第4項…登録権者以外の事務禁止処分
2.登録した知事の指示処分
① 宅地建物取引業者に自己が専任の宅地建物取引士として従事している事務所以外の事務所の専任の宅地建物取引士である旨の表示をすることを許し、当該宅地建物取引業者がその旨の表示をしたとき。
これは、「専任」の宅地建物取引士の名義貸しのことです。
パターンとしては、以下の3つが考えられます。
・A社の宅地建物取引士aが、B社の専任の宅地建物取引士である旨の表示を許す場合
・A社の宅地建物取引士aが、同じA社の自己が専任の宅地建物取引士として従事している事務所以外の別の事務所の専任の宅地建物取引士である旨の表示を許す場合
・どの業者にも雇用されていない宅地建物取引士aが、業者の専任の宅地建物取引士である旨の表示を許す場合
いずれの場合であって、たとえば、当該業者がその者を専任の宅地建物取引士として免許申請書に記載したり、あるいは届出をしたり、事務所に掲げる標識に表示した場合などに、指示処分が行われることになります。
② 他人に自己の名義の使用を許し、当該他人がその名義を使用して宅地建物取引士である旨の表示をしたとき。
これは、いゆわる宅地建物取引士の名義貸しのことです。
宅地建物取引業者の免許については、業法13条で直接名義貸しを禁止していますが、宅地建物取引士については、このような形での規定はありません。
しかし、当然宅地建物取引士制度というものがある以上、宅地建物取引士の名義貸しが許されるはずはありませんので、監督処分の対象とし、間接的に禁止しています。
名義貸しは、具体的には、宅地建物取引士が宅地建物取引士証を他人に貸して、その他人が宅地建物取引士証の氏名を名乗って重要事項の説明を行ったような場合です。
③ 宅地建物取引士として行う事務に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき。
本号は、抽象的な表現なので具体例が欲しいところでしょう。
たとえば、宅地建物取引士が重要事項の説明に際し、法律上説明を義務づけられた事項を説明しなかったり、事実と相違する説明をしり、事実と相違するにもかかわらず、これを確認せずあるいは事実と相違することを知りながら記名押印したり、重要事項の説明の際に宅地建物取引士証を提示しなかった場合などです。
3.登録した知事以外の知事の指示処分
登録した知事以外の知事が指示処分をする場合というのは、第3項になりますが、登録した知事が指示処分を行う場合と同様の事由により指示処分を行うことになります。
4.登録した知事の事務禁止処分(第2項)
これは、指示処分事由と同じになりますが、事務禁止処分においては、指示処分に従わない場合というのが付け加わるだけです。
ちなみに、知事は事務禁止処分を行ったときは、その内容および年月日を宅地建物取引士資格登録簿に記載します(施行規則第14条の9)。
また、宅地建物取引士が事務禁止処分を受けたときは、速やかに宅地建物取引士証をその交付を受けた都道府県知事に提出しなければいけません(業法第22条の2第7項)。
この事務禁止処分がなされている間は、宅地建物取引士が重要事項の説明を行っても、それは法律上は重要事項の説明としての意味を持たないので、宅地建物取引業者は、依然として重要事項を宅地建物取引士に説明させる義務を免れません。
同様に、契約締結の際交付される書面に、事務禁止処分を受けた宅地建物取引士が記名押印しても、同様に法律上は宅地建物取引業者は37条の義務を果たしたことになりません。
5.登録した知事以外の知事の事務禁止処分(第4項)
これは、登録した知事の事務禁止処分の場合と同じです。
宅地建物取引士資格登録簿への記載、宅地建物取引士証の提出、重要事項の説明・契約締結の際交付される書面も同様ですが、宅地建物取引士の提出は「交付を受けた都道府県知事」であるという点は注意して下さい。
A県知事登録の宅地建物取引士が、B県で行った業務について、B県知事から事務禁止処分を受けた場合は、「A県知事」に宅地建物取引士証を提出します。