宅建業法46条(報酬)
【解説】
1.宅地建物取引業者の報酬
宅地建物取引業者は、代理・媒介により取引の成立に寄与したときは、それにより報酬をもらいます。このとき、宅地建物取引業の報酬額はどのように決まっているのか、というのが、この「報酬」で勉強すべき範囲です。
まず、最初に確認して欲しいのは宅地建物取引業者が報酬を受領することができるのは、「代理」または「媒介」による場合だけだということです。
最初に宅地建物取引業の定義のところで勉強しましたが、宅地建物取引業というのは、代理と媒介だけでなく「自ら売買」というのもありました。しかし、この自ら売買した場合には、宅地建物取引業者には報酬請求権というものが発生しません。
それではどうやって宅地建物取引業者は、自ら売買の場合に儲けるのか?簡単な話です。普通の商品売買と同じで、安く仕入れて高く売ります。その差額を儲けるわけです。逆に言うと、それ以外に別途報酬を請求することはできないわけです。
なお、最近インターネットを利用した取引などもあるようですが、この場合、直接売主と買主が売買契約を結んだ場合、業者の媒介を経ることなく取引しているわけですから、宅地建物取引業者に対する報酬も支払う必要はありません。
反面、宅地建物取引業法の保護というのもないわけです。
不安だというのであれば、買主側だけでも宅地建物取引業者に仲介を依頼すれば、たしかに報酬を支払う必要はありますが、宅地建物取引業法の保護も得られます。
専門家の知識や経験、ノウハウは馬鹿にできません。
そのための安心料や自分の手間を省くためのお金が仲介手数料なんですね。
2.成功報酬主義
次に、宅地建物取引業者の報酬請求権は、成功報酬主義が取られていることです。契約がまとまってはじめて報酬を請求できるのであり、契約がまとまらなければ、どれだけ労力をかけたとしても1円ももらえません。
しかし、契約が成立すると報酬請求権は発生しますので、一旦成立した契約が、たとえば当事者の債務不履行等によって解除された場合は、その解除等の原因について宅地建物取引業者に責任がない限り、宅地建物取引業者は報酬を請求することができます。
これは、手付解除でも同様で、一旦契約が成立した後、後悔した買主が手付を放棄して契約を解除したとします。
ヤレヤレと思っていたところに、仲介業者から仲介の報酬を請求される、というような場合です。
これは、基本的には報酬を支払わざるをえません。気を付けて下さい。
後は、仲介業者さんと、報酬の額を半額にしてもらうなどの交渉をするしかないでしょう。
ということで、契約が「成立」したときに、報酬請求権が発生するというのを覚えておいて下さい。
以上が原則ですが、ただ、例外的に契約が成立した場合でも、報酬請求権が否定される場合があります。
このような判例がありました。
ビル売却の仲介で、契約が成立し買主は売主に対し手付として購入額の一部を支払い、売主はその時点で仲介業者に報酬の一部を支払いました。
ところが、買主は資金繰りの逼迫を理由にその後代金を入れてこないので、やむなく売主が契約を解除したんですが、仲介業者から報酬残金の請求がきたという事例です。
先ほどの話ですと、契約は一旦成立している以上、買主がお金を入れないのは、業者が悪いわけではないので、業者は堂々と報酬の残額請求を売主に対して請求できるということになります。
しかし、この判例では、仲介業者の売主に対する報酬残額の請求を棄却しました。
その理由は、本事例では、買主の支払能力に欠陥があったことについて仲介業者は容易に知ることができたはずだ。
この調査に関する怠慢が仲介業務の不完全履行とみなされたわけです。
要するに、契約解除にいたった原因が、仲介業者の業務内容の不備に原因の一端があったなら、満額請求はできないということです。
まとめると、基本的に契約が成立すると、その後債務不履行により契約が解除されても、報酬を請求することができます。
しかし、その債務不履行について業者に何らかの責任があれば、報酬請求権が否定される場合がある、ということです。
3.その他の問題
若干その他にもとなる点を説明しておきましょう。
先ほど契約が成立すれば報酬請求権が発生すると書きましたが、停止条件付の契約の場合は、条件が成就しないと契約は成立していても、効力が発生しませんので、条件が成就した時に報酬請求権が発生します。
次に、契約にローン特約が付いている場合、買主のローン不成立が確定して売買契約が解除されたときは、すでに報酬を受領していれば、遅滞なくその全額を返還しなければいけません。
これは、ローン特約が解除条件型でも解除権留保型でも同様です。
次に、たとえば、賃貸借契約などの媒介では、媒介行為と賃貸借契約成立の間に相当因果関係がなければいけないと言われます。
つまり、宅地建物取引業者の媒介行為という尽力の結果、賃貸借契約が成立したという結果が生じたという関係が必要だということです。
この点について紛争になるのは、依頼者が宅地建物取引業者に賃貸借の媒介を依頼し、宅地建物取引業者がある貸主を紹介したけれども、途中から依頼者が宅地建物取引業者を排除して、貸主との間で直接賃貸借契約を締結した場合です。
宅地建物取引業者に貸主だけ紹介させておいて、後は業者を外して、直接取引をしたということです。
判例では、このような場合、依頼者の行為は著しく信義則(信義誠実の原則)に反したとか(民法1条2項)、報酬請求権というのは、もともと賃貸借契約の成立を停止条件として発生するものなので、直接取引は条件成就の妨害であるとして(民法130条)、宅地建物取引業者の報酬請求権を認めているものがかなりあるようです。
ただ、すべての直接取引が悪いというわけではなく、たとえば依頼者が宅地建物取引業者の媒介行為の不手際を理由に媒介契約を解除して、他の宅地建物取引業者に依頼し直した上で、前の業者が紹介した貸主との間で賃貸借契約をするなどのような場合は、前の不手際をした業者の報酬請求権が否定されるような場合もあるでしょう。
したがって、直接取引をした経緯、宅地建物取引業者の媒介行為の内容等も斟酌して、報酬請求権の有無が判断されます。
4.報酬額の掲示(第4項)
報酬額の掲示については簡単です。
「宅地建物取引業者は、その事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、国土交通大臣が定めた報酬の額を掲示しなければならない。」
ここのポイントは「事務所ごとに」という部分です。
案内所には報酬額の掲示は不要です。
5.報酬計算の基礎となる取引代金
これから具体的に報酬額の計算方法について説明していきますが、計算の方法については、国土交通省の告示があります。
この報酬は、大雑把にいうと取引代金の何%というような形で決まります。金額の大きな物件を扱いますと報酬も大きくなるわけです。
この計算の基礎となる取引代金の額についてですが、これは普通に売買の場合ですと、売買代金ということになりますが、売買代金には消費税というものがかかる場合があります。
この消費税は、計算の基礎となる取引代金の額に含まれるか、という問題があります。これは含まれません。つまり、あくまで計算の基礎となるのは、消費税を抜いた本体価格になるということです。これは大前提として覚えておいて下さい。
ちなみに、この消費税込みの価格から、本体価格を出す方法はご存知ですよね。
日頃電卓で慣れている人は、電卓の「税抜き」みたいなキーをポンと押せば終わりですが、たとえば税込価格が2,160万円というような場合、複雑な計算をしなくても、見ただけで本体価格は2,000万円だと分かりますが、試験などではたまにですが、ちゃんと計算しないといけないような問題が出題されることがあります。
このときに、「どうしますか?」と問うと、「÷1.08」と答える人が多いですね。1.08で割れば、確かに税抜き価格を出すことができます。これがやりやすいという人は、これで計算して下さい。
しかし、電卓などがなくて計算をしなければならないときは、もう一つ、「×100/108」という方法もあります。分かりますね。108分の100を掛けるということです。紙と鉛筆で計算するということを考えると、どちらがやりやすいかは人によって異なると思うので好きな方を自分で選んで下さい。
最後に、この消費税に関連して、さらに覚えておいて欲しいのは、土地の譲渡には消費税はかからないという点です。これは土地というのは、「消費しないから」というのがその理由です。土地は、ずっと残りますよね。
試験では、報酬の問題は、計算問題というのが出題されるわけですが、この土地の消費税については気を付けて下さい。
6.報酬に対する消費税
これに対して、宅地建物取引業者が受領する「報酬」には消費税がかかります。消費税というのは、「役務の提供」にもかかるからです。
普通われわれは、物を買う場合だけでなく、サービスを受ける場合にも消費税というのを支払っていますよね。「役務」という言葉は、法律などでよく使われますが、簡単に言うと「サービス」という意味です。
このようなサービス、役務の提供にも消費税はかかるので、宅地建物取引業者の契約の成立に向けて尽力するという役務の提供にも消費税がかかります。
ただ、ややこしいのは、宅地建物取引業者の中でも消費税の課税業者と、免税業者というのがあります。課税業者の場合は、報酬額に8%を上乗せして受領することができます。これはよく分かる。
それでは、免税業者は報酬額に消費税分は1円も上乗せできないように思いますが、これが不思議なことに4%は上乗せすることができるんです。通常の8%の半分ということです。ややこしいことを考えたくない人は、そのまま覚えて下さい。
課税業者:報酬額×1.08
免税業者:報酬額×1.04
こういうふうに覚えておけば、それで終わりです。試験などではこれを覚えておけば点が取れますので、以下は軽く流して読んでもらえばいいですが、免税業者も消費税の半分を取れるというのは、免税業者といえども、自分は人に対して消費税を支払います。
したがって、営業活動の中で、広告費でも何でも人に対しては消費税を支払います。だから、お客さんから報酬を取るときに、その一部でも回収させてあげようということで、一律5割、つまり4%は報酬額に上乗せして請求していいということのようです。
7.宅地建物取引業者は常に報酬額の上限を受領できるか
この項の最後に、もう一つ確認しておきましょう。これから具体的に、宅地建物取引業者の受領できる報酬額というのを説明していきますが、これはあくまで宅地建物取引業者が受領できる報酬額の「上限」ということです。
普通、不動産取引の場合、宅地建物取引業者は当たり前のように、この報酬の「上限額」を請求してきますが、これはあくまで上限を示しているだけで、報酬をそれ以下にすることは何ら問題ありません。
宅地建物取引業者の報酬も値切れるということです。判例も「宅地建物業者は、告示によって計算された最高額を当然に請求しうるものではなく、依頼者の受けた利益、仲介の難易、業者の払った努力の程度及び費用等諸般の事情を考慮し、最高限度額の範囲内で、社会的、客観的に相当と認められる金額のみを請求しうるものと解するのが相当である。」としています。
8.売買の媒介(依頼者の一方より媒介依頼)
それでは具体的に宅地建物取引業者の受領できる報酬の上限額を見ていきましょう。まず、「売買」の「媒介」の場合から見ていきます。これが基本になります。
上図を見て下さい。AがBに媒介を依頼して、AC間に2,100万円(消費税込み)の建物の売買契約が成立したとします。この場合、BはAにいくらの報酬を請求することができるか。
この媒介の場合の報酬ですが、金額によってパーセントが異なります。条文通り説明しますと、以下のようになります。
200万円以下の金額…100分の5.4%
200万円を超え400万円以下の金額…100分の4.32%
400万円を超える金額…100分の3.24%
建物の売買代金が2,100万円ということは、税抜きの本体価格は2,000万円です。この2,000万円を基礎として計算を行います。
そして、上記の意味は、2,000万円のうち、200万円は5%、さらに「200万円を超え400万円以下」の部分に該当する200万円分は4%、残りの1,600万円は3%の報酬が受領できるというふうにしています。
上記の条文で、5%、4%、3%が、5.4%、4.32%、3.24%となっているのは、説明するまでもなく、消費税が含まれているからです。
図解すると以下のようになります。
これを計算すると、
200万円×5%=10万円
200万円×4%=8万円
1,600万円×3%=48万円
この3つを合計して
10万円+8万円+48万円=66万円
ということになります。
これが告示の計算方法ですが、だいたい不動産というのは400万円以上であることが多いので、そのときに、このように常に売買代金を3つに分割して、報酬を計算するのは面倒です。
そこで、売買代金(ここでは2,000万円)から直接に報酬を出そうというのが早算法です。
この早算法は、売買代金を分割して報酬額を導くのではなく、売買代金から直接報酬額を導く方法です。
試験などの計算問題では、この早算法を覚えておけば対応できますので、その早算法を説明しましょう。
早算法によれば、売買代金が
200万円以下…5%
200万円を超え400万円以下…4%+2万円
400万円を超える…3%+6万円
まず、これを覚えて下さい。これは覚えておかないと報酬の問題は全く対応できません。必ず覚える。これで、実際に計算してみますと、先ほどの告示の計算方法と全く同じ数字になります。
世の中には頭のいい人がいて、このような方法を考えてくれるんですね。ありがとうございます。
そこで、本事例の建物は、本体価格2,000万円ですので、400万円を超えます。したがって、3%+6万円が業者Bの報酬の上限になります。
2,000万円×0.03(3%)+6万円=66万円となります。
しかし、ここで油断してはいけません。この報酬に消費税がかかりました。
業者Bが課税業者であれば、66万円×1.08=71万2,800円
業者Bが免税業者であれば、66万円×1.04=68万6,400円
ただ、気を付けてもらいたいのは、試験などの場合に、問題文の中に「宅地建物取引業者の受領する報酬については、消費税を考慮しない」という問題もありえますので、問題文をよく読んで下さい。
9.売買の媒介(依頼者の双方より媒介依頼)
ここで、もう一度告示の条文を見てみましょう。
「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買の媒介に関して依頼者から受けることのできる報酬の額は、依頼者の一方につき、それぞれ、当該売買に係る代金の額に一定の割合を乗じて得た金額を合計した金額以内とする。」とこうなります。
媒介の場合は、「依頼者の一方」からもらえるのが、これまでに説明した「3%+6万円」等の話です。
ところで、上図を見て下さい。業者Bは、Cからも媒介の依頼を受けています。つまり、売主Aと買主Cの双方から媒介の依頼を受けているわけです。
そもそも、契約当事者の双方から媒介の依頼を受けていいのか?これは全然かまいません。なぜかと言えば、もともと媒介というのはそういうものだからです。当事者の間に立って、契約が成立するよう尽力するのが媒介です。両方から媒介を頼まれるのはむしろ普通です。
双方代理は民法で禁止されていますが(民法108条参照)、双方から媒介の依頼を受けるのは普通です。
それでは、業者Bは、Aから「3%+6万円」、Cから「3%+6万円」の報酬を双方から受領できるのか、ということですが、これは「できます」。したがって、この事例では、結局業者Bは、「6%+12万円」(+消費税)を受領することができるわけです。
10.交換の媒介に関する報酬の額
これは簡単です。基本は売買の媒介の場合の報酬と全く同じです。
ただ、交換の場合は、2つの物件を交換しているので、物件価格に差がある場合があります。その際の計算の基礎となる代金の決定に困ります。
これは、価格の「高い方」と覚えておけば大丈夫です。
後は、売買の場合の計算方法と同じになります。
11.売買又は交換の代理
それでは、媒介に続いて、「代理」の方を見ていきましょう。
これは、媒介がしっかり理解できていれば簡単です。媒介の場合の「2倍」報酬がもらえると覚えておけば大丈夫です。
上図を見て下さい。この場合に、業者BがAから受領できる報酬の上限は、「3%+6万円」等の2倍、つまり「6%+12万円」等(+消費税)ということになります。
それでは、媒介の場合のように、業者Bは買主Cからも代理の依頼を受けて、双方から「6%+12万円」等の報酬を受領できるかというと、これは「できません」。民法で勉強したように、双方代理は禁止されているからです。
ただ、代理の場合は、双方代理は禁止していますが、契約がまとまった場合に相手方から報酬を受領することも認められています。この場合の対処について、条文を見てみましょう。
「ただし、宅地建物取引業者が当該売買又は交換の相手方から報酬を受ける場合においては、その報酬の額と代理の依頼者から受ける報酬の額の合計額が媒介の計算方法により算出した金額の2倍を超えてはならない。」
つまり、依頼者以外の相手方から報酬をもらってもいいが、それは依頼者の分と合わせて「6%+12万円」等が上限だということです。したがって、相手方からも報酬を受領すると、依頼者からもらう報酬が減る形になります。要するに、「6%+12万円」等が上限ということです。
なお、交換の場合に、価格の「高い方」を計算の基礎にするというのも、媒介の場合と同じです。
12.媒介と代理の違い
以上、まとめると媒介の場合は、売主・買主の双方から「3%+6万円」ずつ受領して、合計「6%+12万円」。
代理は、買主・売主のどちらか依頼を受けた一方から、まとめて「6%+12万円」を受領し、結局は「6%+12万円」どまり。
つまり、宅地建物取引業者としては、媒介という形式を取ろうが、代理という形式を取ろうが、法的な形式を問わず、「6%+12万円」が限界ということになります。
13.空家等における特例
(1) 総論
近年、社会問題にもなっていますが、少子高齢化の進展等によって、空家(あきや)が年々増加しており、今後もさらに増加が見込まれています。この空家問題に対する対策としては、円滑な空家の売却が期待されます。しかし、遠隔地における老朽化した空家の現地調査等には通常より調査費用等がかかるにもかかわらず、物件価額が低いために成約しても報酬が伴わず赤字になるなど、媒介業務に要する費用の負担が宅地建物取引業者の重荷となって空家等の仲介は避けられる傾向にあるようです。
そこで、宅地建物取引業者が受領できる報酬について、低廉な空家等について特例が定められています。この特例は、簡単にいえば、安い空家等については、通常の媒介・代理の報酬にプラスして、現地調査等に要する費用を請求してもいいですよ、という内容です。
(2) 空家の売買・交換の媒介
具体的な内容を見ていきますと、まず、低廉な空家等というのは、売買代金(消費税等相当額を含まない)が400万円以下の宅地又は建物のことを指します。交換契約の場合は、交換に係る宅地又は建物の価額に差があるときは、高い方の金額を基準に400万円以下かどうかを判断します。
そして、その場合には、今まで説明してきた通常の媒介・代理の報酬金額と「当該現地調査等に要する費用に相当する額」を合計した金額が宅地建物取引業者が受領できる報酬の上限額になります。
ただ、これには条件があって、「この場合において、当該依頼者から受ける報酬の額は18万円の1.08倍に相当する金額を超えてはならない」とされています。いきなり「18万円」という具体的な金額で出てきてビックリしますが、この意味は分かりますでしょうか。「1.08倍」の意味は当然消費税のことです。それでは「18万円」の意味は?ということです。
仮に、低廉な空家等の定義の上限いっぱいの売買代金400万円の売買契約の媒介を行った場合、依頼者の一方から受けることができる報酬の上限額は、400万円×4%+2万円=18万円ということになります。これが、「媒介報酬+現地調査等の費用」の上限になりますよ、ということです。したがって、売買代金400万円の場合は、媒介報酬を上限いっぱいまで受領するのであれば、現地調査等の費用は1円も受け取れません。
次に、売買代金300万円の場合、媒介報酬=300万円×4%+2万円=14万円、現地調査等の費用=5万円という場合、合計19万円ということは認められず、18万円(プラス消費税)が宅地建物取引業者が受領できる金額の上限だ、ということです。つまり、この場合は現地調査等の費用が5万円かかったとしても、4万円しか請求できないということです。
ここで、注意して欲しいのは、現地調査等の費用を上乗せできるのは、空家等の「売主」(又は交換を行う者)である依頼者に限るという点です。買主から受領する報酬に現地調査等の費用を上乗せすることはできません。図表の例で考えると、媒介業者は売主に対しては18万円を上限に14万円の報酬+現地調査等の費用を売主に請求することができますが、買主に対しては14万円の報酬しか請求することはできず、現地調査等の費用は請求することはできません。
(3) 空家の売買・交換の代理
以上の考え方は、空家の売買の「代理」についても当てはまります。まず、空家でない通常の代理の場合は、上記の例(売主を依頼者とします)で考えると、宅地建物取引業者が媒介をしたとすると、売主から受領できる媒介報酬14万円と買主から受領できる媒介報酬14万円の合計額である28万円を依頼者(この例では売主)からまとめて受領できます。空家の場合も同様に、売主から受領できる媒介報酬+現地調査等の費用の18万円(上限)と買主から受領できる媒介報酬のみ14万円の合計額32万円(上限)を売主からまとめて受領することができることになります。
14.複数の宅地建物取引業者が関与した場合
さて、以上が基本型になりますが、もう少しややこしい形で、一つの取引に複数の業者が関与した場合です。
それでは、一つの取引に複数の業者が関与するというのは、どういう場合か。下図を見て下さい。
甲から乙への2,160万円(消費税込み)の建物の売買契約で、甲は業者Aに対し媒介を、乙は業者Bに代理を依頼したとします。
こういうことはよくあります。要するに、建物を売りたい人と、買いたい人が、それぞれ宅地建物取引業者に依頼して、業者同士が相手を探したような場合です。
この複数の業者が関与した場合は、関与した業者が多くなったからといって、当事者が支払う報酬が多くなるのはおかしい、というのが基本の考え方です。
したがって、複数の業者が関与した場合も、関与した業者全体で受領できる報酬の総額は、一つの業者が関与した場合と同じだということになります。
つまり、業者全体で「6%+12万円」が限度だということです。そして、さらにそれぞれの業者が依頼を受けた形態によって受領できる報酬の上限が決まります。
本事例ですと、業者Aは甲から「媒介」の形で依頼を受けているわけですから、「3%+6万円」が上限です。
そして、業者Bは「代理」の形ですから、「6%+12万円」、つまり業者全体の上限の額と同じになります。
まとめると、複数の業者が関与した場合は、業者全体の総額とそれぞれの業者が依頼を受けた形に応じた上限額のすべてが枠内におさまらないと宅地建物取引業法違反になります。
具体的に、この事例に当てはめてみましょう。業者Aも業者Bも課税業者だったとします。
まず、Aが受領できる上限は、2,000万円×3%+6万円×1.08=71万2,800円
Bが受領できる上限は、上記の2倍で、71万2,800円×2=142万5,600円
そして、AとBの受領した報酬の合計額が、142万5,600円以内でないといけません。
したがって、
1.Aが甲から71万2,800円、Bが乙から142万5,600円を受領した。
2.Aが甲から71万2,800円、Bが乙から71万2,800円を受領した。
3.Aが甲から72万、Bが乙から70万5,600円を受領した。
それぞれ、宅地建物取引業法に違反するか、という問題ならば、
1.は宅地建物取引業法違反。AとBは、それぞれの受領した額は枠内だが、全体としては、142万5,600円を超えているので違反です。
2.はAもBも、それぞれ上限の範囲内ですし、全体しても、ちょうど142万5,600円なので、宅地建物取引業法に違反しません。
3.は、Bは上限の枠内。AとBの合計額も、142万5,600円なので枠内ですが、Aは上限の71万2,800円を超えているので、宅地建物取引業法違反です。
他にもいろいろパターンがありますが、基本的な考え方は以上です。後は、試験などで必要な方は、いろいろな問題を解いて慣れてもらうだけです。
15.貸借の媒介に関する報酬の額
貸借の場合も、媒介と代理の報酬の受領の仕方は基本的な考え方は、売買の場合と同様です。
つまり、媒介は、契約当事者の双方から媒介を依頼された場合は、双方から受領することができ、代理の場合は依頼者の方からのみ受領するということです。
そして、受領できる報酬の上限は、貸借の場合の基本は、ややこしい計算は必要なく、借賃の1か月分です。
もちろん、この場合の借賃は消費税を抜いた金額が基礎となり、宅地建物取引業者が課税業者の場合は、報酬に消費税を上乗せして受領することができます。
そして、売買の場合と異なり、「依頼者の双方」から受領できる報酬が、1か月となっていますので、原則的には貸主・借主双方から、どういう割合でもいいので、とにかく合計1か月分という規定の仕方になっています。
ただ、「居住用建物」の場合の報酬の受領の仕方には制限があります。
居住用建物の場合は、依頼者の「一方」から受領できるのが、1/2ヵ月分が上限になります。つまり、貸主から1/2ヵ月、借主から1/2ヵ月で合計1か月分というわけです。
この居住用建物の場合と、それ以外の場合の違いは分かりますか。居住用建物の場合は、一方からの上限を1/2ヵ月というふうに押さえられていることから、たとえば借主から1/4ヵ月分しか報酬を受領しなければ、貸主からは1/2ヵ月分しか受領できないので、結局合計3/4ヵ月分しか受領できません。
しかし、居住用建物以外の場合は、借主から1/4ヵ月分しか受領しなくても、貸主から3/4ヵ月分を受領することによって、穴埋めをして、合計1か月分の報酬を受領することができるわけです。
なお、このように居住用建物の場合は、一方からの報酬が1/2ヶ月というふうに押さえられているわけですが、「当該依頼者の承諾を得ている場合」を除いていますので、依頼者の承諾があれば、この1/2ヵ月の枠を超えて(もちろん合計1か月以内ですが)報酬を受領することができます。
そして、この依頼者の承諾は、依頼を受けるときに必要なのであり、報酬受領時までに承諾を得ればよいというわけではありませんので注意して下さい。
また、複数の業者が取引に関与した場合に、業者全体として1か月分であることも、売買の場合と同様です。
16.貸借の代理に関する報酬の額
貸借の代理の場合も、報酬の上限はやはり1か月です。
そして、売買のところと同じように、代理の場合は、依頼者から1か月分全部を受領します。
また、売買のところと同じように、依頼者の相手方からも報酬を受領してもかまいませんが、合計して1か月分を超えることはできません。要するに、貸借は、1か月が上限だということです。
17.権利金の授受がある場合の特例
さて、貸借の場合の報酬は、とにかく1か月だということで、「簡単です」で終わりたいんですが、そうもいきません。実は、「権利金の授受がある場合の特例」というのがありますので、これを勉強しないといけません。
ただ、この特例は、権利金の授受がある場合に、「権利金」を「売買代金」とみなして、売買と同様の計算方法をするということですので、計算方法自体は売買の場合と全く同様です。
これについて、まず最初に注意してほしいのは、この権利金を売買代金とみなすという特例については、建物については「居住の用に供する建物」が除かれているという点です。つまり、居住用建物の貸借の場合は、権利金を売買代金とみなすという特例は使えません。原則通り、借賃の1か月分で行く、ということです。
「居住用建物」の場合ですから、「宅地」については、たとえ居住用の建物を建てるための宅地であったとしても、権利金を売買代金とみなすことができます。
次に、「権利金」の定義です。「権利金その他いかなる名義をもってするかを問わず、権利設定の対価として支払われる金銭であって返還されないものをいう。」というのが、この場合の権利金の定義です。
ポイントは、「返還されない」という点です。敷金等は賃貸借が終了すれば返還されますので、ここの権利金には入りません。
次に注意してほしいのは、宅地建物取引業者としては、通常の報酬である「借賃の1か月分」と「権利金を売買代金とみなした場合」とで、高い方の報酬を受領してよいということです。
条文でも、「売買の代理又は媒介の規定によることが『できる』。」となっています。
権利金を授受したからといっても、必ず売買の計算方法によらないといけないというわけではありません。借賃の1か月分の方が高ければ、そちらを受領すればいいわけです。
18.第二から第六までの規定によらない報酬の受領の禁止
これは当然です。報酬の上限額が決められた以上、それ以上の報酬を受領することは禁止されます。
19.広告料金
通常宅地建物取引業者が行う広告というのは、宅地建物取引業者の負担になります。
これは当然で、宅地建物取引業者は依頼者の相手方を見つけて契約を成立させ、報酬を受領するための営業努力として広告を行うわけで、この広告費は宅地建物取引業者の経費です。
しかし、お客さんから特別の依頼があって新聞に載せてくれなどと頼まれることがあります。
このように依頼者から特別の依頼があれば、それは別途経費として報酬とは別に依頼者に実費を請求することができます。
これはかかった経費の請求ですから、契約の成立の有無を問わず、依頼者に請求することができます。
ただ、あくまで経費の請求である以上、かかった「実費」以上の費用を請求することはできません。
ただ、この点については問題が多いです。
「依頼者の依頼」によって行う広告というのは、基本的に本来の媒介業務としての広告とは違う特別の広告を打つことについての合意が家主との間で明確になされていることが必要です。さらに、特別な広告の内容が家主に明確に分かるようになっていること、実際に掲載し家主の承諾をとっていることが必要とされています。
具体的に、どのような広告が「特別なもの」といえるかについては、自社の媒介物件でも一番ポピュラーな形式での掲載は「特別」とはいえません。写真や間取りが特別に大きく掲載されていることなどが必要です。