宅建業法40条(瑕疵担保責任についての特約の制限)
【解説】
1.瑕疵担保責任についての特約の制限
瑕疵担保責任については、民法に規定があります。
この瑕疵担保責任について、宅地建物取引業者が自ら売主の場合は、特則があります。
この条文は、一見ややこしそうに書いてありますが、基本はシンプルです。
宅地建物取引業者が売主で、宅地建物取引業者でない者が買主である場合は、瑕疵担保責任について民法より買主に不利な特約をしてはいけないというのが「原則」だということです。
ただ、以上は原則で「例外」が一つだけあり、瑕疵を担保すべき責任に関し、民法に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約だけは例外的に認められます。
このように宅地建物取引業法の瑕疵担保責任の特例は、民法の規定を基準に考えないといけないので、次に瑕疵担保責任に関する民法の規定(民法570条)を含めて見ていきましょう。
2.民法の瑕疵担保責任の規定
① 売主の無過失責任
瑕疵担保責任は、売主の無過失責任です。
したがって、売主に過失があるときだけ瑕疵担保責任を負うという特約は、買主に不利であり無効となります。
② 隠れた瑕疵
瑕疵担保責任は、売買の目的物に「隠れた瑕疵」があった場合に、買主が売主に対して責任を追及(解除又は損害賠償請求)するものです。
まず、この「隠れた瑕疵」の意味ですが、これはその物が通常有する性質を欠いていることだと言われます。
具体的には、雨漏りとか地盤沈下等の「物理的な欠陥」だけでなく、都市計画法の関係で住宅が建てられないというような「法律的な瑕疵」、さらに、売買の目的物である宅地建物内での自殺行為がなされたというような「心理的な欠陥」も隠れた瑕疵になる場合があります。
③ 買主の善意無過失
また「隠れた」瑕疵というのは、買主が通常の注意(要するに過失を問題にしている)をしていても発見できない瑕疵だといわれるので、買主は善意無過失であることが必要だとされます。
④ 担保責任の追及方法
これは、解除又は損害賠償ということになります。
解除については、どんな場合でもできるというのではなく、「契約をした目的(たとえば居住の目的)を達することができないとき」だけ解除できます。
隠れた瑕疵があっても、契約の目的を達することができるのならば、解除はできず、損害賠償請求だけになります。
なお、瑕疵担保責任の追及として、民法では瑕疵修補請求というのは認められていないので、特約として瑕疵修補請求も認めるというのは買主に有利であり、特約は有効です。
逆に、解除又は損害賠償請求のどちらか一方しか認めないというのは、民法では両方認めているわけですから、買主に不利であり、そのような特約は無効です。
⑤ 担保責任の追及期間
これは、瑕疵を知ってから1年です。これについては、項を改めて書きます。
3.瑕疵担保責任を負う期間
それでは、瑕疵担保責任を負う期間についてです。
民法の瑕疵担保責任を負う期間は、「瑕疵を発見してから1年」でした。
ところが、宅地建物取引業法の規定では、「引渡しから2年以上」という特約は、買主に不利だけれども、認めています。
民法の「発見してから1年」というのは、「1年」という部分を見ていると短い気がしますが、あくまでこの1年の起算点は、「発見してから」ということになりますから、発見するのが遅くなれば、かなり長期間瑕疵担保責任を追及できることになります。
そして、不動産というのは、買ってすぐに瑕疵が発見されるということは少なく、何年か経ってから瑕疵が発見されるというのがむしろ普通です。
したがって、この売主が瑕疵担保責任を負う期間というのは、事実上かなり長期にわたります。
そして、この「引渡しの日から2年」というのが買主に不利だというのは、先ほどの説明で理解できると思います。
「2年」というところだけ見ていれば、「1年」より長い気がしますが、起算点が「引渡しの日」というふうに固定されていますので、売主はいつまでも買主から瑕疵担保責任を追及されるというおそれがないわけです。
とにかく、引渡しから2年じっと我慢すれば、免責されます。「発見から1年」というような、いつ発見されるか分からないという不安な状況はなくなるわけです。
要するに、宅地建物取引業者としても瑕疵担保責任を追及される期限というのをはっきりさせて欲しいわけで、その程度なら宅地建物取引業者の言い分も認めてあげようというわけです。
この引渡しから「2年」という数字ですが、この第40条の規定ができるまでは、この期間は引渡しから「1年」というのが不動産売買の慣行として多かったようです。しかし、瑕疵を発見するには、ある程度の期間が必要であるので、「1年」では不十分と考えられます。
他方、住宅などのような場合ですと、2年というのは、春夏秋冬を2回経ているわけですから、まあ2年待てば、それなりの瑕疵は発見されるだろうということで、「2年」というのが定められているようです。
この期間を物件の引渡しの日から1年間としているものが多かった。しかし、瑕疵を発見するためには、ある程度の期間が必要であること、また通常春季秋冬の四季を二度経過すれば、隠れた瑕疵といえどもおおむね発見できると考えられるからである。
そして、この規定に反する特約は、無効とされます。
ここで気を付けて欲しいのは、「引渡しから1年」という特約を定めた場合です。
あくまでも認められる特約は、「引渡しから2年以上」という特約ですから、引渡しから2年とか3年という特約は認められます。しかし、引渡しから1年という特約は認められません。このような特約は無効です。
そして、このような特約をした場合は、民法の原則に戻って、責任を負う期間は「発見してから1年」になります。宅地建物取引業法の「引渡しから2年」というのに戻るのではありません。
宅地建物取引業法の規定は、あくまで特約の「上限」を定めたものだと考えればいいでしょう。
さらに、民法では売主の責任は無過失責任で、買主は瑕疵担保責任を追及するには善意無過失でなければならないという点も再度確認しておいて下さい。この点について、「買主に不利」な特約は無効です。
以上、この規定も「自ら売主の制限」ですから、宅地建物取引業者相互間の取引には適用されません。宅地建物取引業者相互間の取引の場合、担保責任を負わない旨の特約も有効になります。
ただ、宅地建物取引業者相互間の取引でそのような特約をした場合でも、民法で勉強したように「売主が知って告げなかった事実」については責任を負わないといけません。