宅建業法39条(手附の額の制限等)
【解説】
1.手付の額の制限
この規定はいたってシンプルで、手付は2割が限界というものです。
その趣旨は、次の第2項でも説明するように宅地建物取引業者が自ら売主で、買主が宅地建物取引業者でない場合は、すべての手付は解約手付としての性質が付与されるので、手付の額が大きくなると、買主は手付を放棄して契約を解除することが難しくなってしまいます。
そこで、手付の額が2割に制限されるわけです。
これは、「自ら売主の制限」の規定ですから、宅地建物取引業者相互間の取引の場合には、手付は2割に制限されません。
2.総論
この規定は、宅地建物取引業者が売主で、宅地建物取引業者でない者が買主の場合は、手付を交付すれば、それはすべて解約手付としての意味を持つということです。
たとえば、2,000万円の土地の売買契約で、売主は宅地建物取引業者、買主は宅地建物取引業者でないとして、買主が売主に10万円の証約手付を交付したとします。
当事者が証約手付として交付していても、これは同時に解約手付としての意味も持つというのがこの規定です。つまり、強制的に解約手付にされてしまうわけです。
ただ、気を付けてほしいのは、従来の証約手付の意味に加えて、解約手付としての意味が付加されるということで、証約手付としての意味が失われるわけではありません。
この規定も「自ら売主の制限」ですから、宅地建物取引業者相互間の取引には適用されません。
3.解約手付
そして、この解約手付というのは、民法で勉強した通りの内容です。念のため復習しておきますと、買主は手付を放棄して、売主はその倍額を償還して契約を解除できます。
ただ、相手方が履行に着手した後は、この手付解除はできません。自分だけが履行に着手し、相手方が履行に着手していない場合は、まだ手付解除ができます。
なお、この「履行に着手」というのは、具体的には、買主が売買代金の一部である内金を支払ったり、売主が売り渡すべき土地の分筆登記手続や買主のために売買予約を原因とする仮登記手続をすることなどです。
単に履行の準備(例えば買主が代金を調達する等)をしただけでは、履行の着手にはなりません。
ところで、2,000万円の土地の売買契約で、600万円の手付金を宅地建物取引業者でない買主が、宅地建物取引業者である売主に支払った場合はどうなるのか。
この場合、手付の額が売買代金の2割に制限されているので、この事例で代金の2割は400万円ですから、200万円分は手付としての効力が認められません。
ということは、この200万円は内金(売買代金の一部)と考えられます。つまり、買主が売主に渡した600万円のうち、400万円は手付金、200万円は売買代金の一部と考えるわけです。
このように売主である宅地建物取引業者が、不当に高い手付金を要求して受け取れば、2割の超過分は売買代金の一部になり、買主は代金を支払うという履行に着手していることになります。
そして、この手付は一律解約手付としての意味も持ちますので、売主側からは手付解除をすることができなくなります。
先ほどの2割を超える手付金は売買代金になるという解釈は、売主の手付解除を封じるという意味合いを持つことになります。
次に、この規定に反する特約で、買主に不利なものは、無効となります。
この手付に関する特約の問題は、試験などで非常によく出題されますので、買主に有利か不利かの判断は確実にできるようにしておいて下さい。
いくつか例を挙げておきましょう。
「買主が手付金を放棄して契約の解除を行ったときは売主に違約金を支払う」という特約は、買主に不利で、特約は無効になります。
「手附による解除は、契約締結後30日以内に限る」という特約は、買主に不利になり、特約は無効となります。相手方が履行に着手するまでは、手付解除できました。
「買主は手付の半額を放棄して、売主は手付の全額を償還して解除できる」という特約は、買主に不利で特約は無効になります。買主は手付の半額を放棄して解除できるという部分は、買主に有利でいいんですが、売主は「倍額」を償還しないと解除できません。この部分は買主に不利で無効です。