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宅建業法38条(損害賠償額の予定等の制限)

【解説】

1.損害賠償額の予定等の制限の趣旨

損害賠償額の予定というのは、債務不履行があった場合に備えて、損害賠償額を予定しておくものです。

この損害賠償額の予定というのは、不動産の取引においては、非常によく利用されるものです。

特に、大量かつ定型的な取引であるマンションの分譲等では、個々の契約で債務不履行があるたびにいちいち損害額の立証を行っていたのでは非常に面倒です。

この損害額の立証というのは、意外にややこしいものです。

そこで、あらかじめ損害賠償額を当事者間で定めておけば債権者にとって非常に便利です。

これは、債権者にとってだけでなく、債務者(特に買主)にとってもメリットがあります。

それは、予定された額さえ支払えば、それ以上の額の支払を請求されることはなく、予想外に多額の損害賠償をしなければならないという事態を防ぐことができます。

ただ、宅地建物取引業者が、この損害賠償額の予定を高額にして、買主を必要以上に契約にしばりつけようとするというのでは、買主は困りますので、このようなことを防止するために、この損害賠償額の予定は売買代金の2割とするのが本条の規定です。

2.規制の内容

この損害賠償額の予定等の制限については、10分の2という数字をまずしっかり覚えて下さい。

この2割という数字ですが、買主の債務不履行による契約の解除の場合に、宅地建物取引業である売主が受ける損害は、一般的なケースで考えると、実損額が売買代金の3割以上にも達するような場合は極めて稀であるというところから定められているようです。

次に、この損害賠償額の予定と違約金については、当事者の債務の不履行を理由とする「契約の解除」に伴うものに限定されているということに注意して下さい。

債務不履行があったけれども、契約を「解除していない」場合は、履行遅滞になり、遅延賠償(履行が1日遅れればいくら払うというような場合)というのが生じますが、この「遅延賠償額」については、本条の制限の対象にはなりません。

これは、このような遅滞の場合には、遅延賠償とともに、本来の債務の履行も請求でき、さらに契約を解除した場合には、その解除に伴う損害賠償も請求できるので、本条では解除がなされた場合の損害賠償額の予定や違約金に限っています。

次に、この10分の2というのは、損害賠償の予定額と違約金の「合算」で考えるというのは非常に重要です。

損害賠償額の予定が2割、違約金が2割だと、合計4割になってしまいます。これは宅地建物取引業法違反です。

また、この規定は「自ら売主の制限」ですから、宅地建物取引業者相互間の取引では、これらの金額は2割に限定されません。

次に覚えてほしいのは、この2割の制限は、損害賠償の額を予定したり、違約金を定める場合の規定です。そのような定めを最初からしていないのならば、この2割という制限はかからないということです。

損害賠償額の予定や違約金の定めがない場合は、どうするかといえば通常の債務不履行と同じ扱いです。つまり、実損額を証明して、その損害賠償を請求するわけです。その実損害が2割を超えていても賠償請求できます。

3.損害賠償額の予定等に関する特約

損害賠償額の予定等は、2割が限度ですが、この規定に反する特約は、代金の額の10分の2をこえる部分について、無効とされるという点を押さえておいて下さい。

2割を超える損害賠償額の予定や違約金を定めた場合、全体に無効になるのではなく、2割を超える部分のみが無効になるので、2割までは有効になります。

そして、2割を超える部分が無効である以上、たとえば損害賠償額の予定を3割と定め、その定めにしたがって3割の損害賠償を支払ったときは、売主である宅地建物取引業者は、法律上の原因なく利得を得ていることになるので、買主は不当利得としてその返還を請求することができます。