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宅建業法37条の2(クーリング・オフ)

【解説】

1.クーリング・オフ

この「事務所等以外の場所においてした買受けの申込みの撤回等」というのは、俗にクーリング・オフといわれているものです。

ところで、このクーリング・オフですが、クーリング・オフといえば、訪問販売などでもおなじみのものです。宅地建物取引業法のクーリング・オフも、考え方は基本的には訪問販売などと同じです。

クーリング・オフというのは、無条件解約と訳されます。通常、当事者が納得した上で契約すると、一方当事者の都合で契約を解除することはできません。しかし、訪問販売などでは、クーリング・オフといって8日以内ならば消費者側が、一方的に相手方の債務不履行がなくても解約をすることができるわけです。

これは消費者だからといって当然認められるものではありません。消費者といえども、判断能力を持った立派な大人です。自分の都合だけで、消費者だという理由だけで一方的に解除・解約できるものではありません。たとえば、英会話の教材を購入したとします。広告等を見て、自分で店に足を運んで購入した場合は、基本的にクーリング・オフをすることはできません。

ところが、訪問販売のように、相手方から押しかけてきて、売りつけたような場合には、「購入意思が安定的ではない」という理由でクーリング・オフが認められます。この「購入意思が安定的ではない」という表現はクーリング・オフでよく使われますが、意味は分かりますよね。自分で店に足を運んでいくような場合は、人に強制されたわけではなく、自分の判断で購入しています。まさに安定した購入意思を有しているわけです。

しかし、訪問販売のような場合は、もともとは英会話の教材を購入する意思を持っていなかった人のところに訪問し、英語ができることの有利さや、教材の良さを説明して、お客さんをその気にさせていくわけです。このような場合は、購入意思が安定的だとは言えない、というわけです。よく後で後悔して、やっぱり契約をやめたいと考えるわけですよね。そこで、一定期間内に限って一方的な解除・解約が認められるわけです。これがクーリング・オフ制度です。

この考え方は、宅建業法でも同じです。ただ、宅建業法では「店舗」ではなく、「事務所等」という表現になります。

事務所等で契約した場合は、購入意思が安定しているが、事務所等以外の場所(料亭、レストラン、喫茶店など)で契約した場合は購入意思が安定していないということでクーリング・オフが認められるわけです。

宅建業者の中には、料亭で接待したり、温泉旅行に招待したりして、相手を断りにくくして契約書にハンコを押させてしまうような業者もいます。このような場合にクーリング・オフを認めようというわけです。クーリング・オフ制度もいろいろな問題をこれから説明していきますが、制度の大枠は、今説明したとおりで、そんなに難しいものではありません。

事務所等で契約…クーリング・オフできない
事務所等以外で契約…クーリング・オフできる

ということです。

なお、このクーリング・オフは、「自ら売主」の制限です。

代理・媒介の場合には適用されません。

これは、従来、訪問販売や、旅行招待販売といって、お客さんを旅行等に招待し、断りにくくした上で販売するなどの方法で、強引に土地や建物を売りつける事例が多かったことから、クーリング・オフ制度が作られたわけですが、宅地建物取引業者が自ら売主としてではなく、一般消費者間の取引を単に媒介するような場合は、売主も宅地建物取引業者でない、買主も宅地建物取引業者でないという場合ですから、買主がクーリング・オフできるとすると、宅地建物取引業者でない売主が困ってしまいます。

そこで、一般消費者間の取引を媒介するような場合は、クーリング・オフの規定は適用されないとされています。

また、媒介において業者が得る利益は単に媒介報酬のみなので、利益という観点から見ても、多額の経費をかけてこのような状況設定を行うことはないと思われるという理由もあるようです。

この基本を頭に入れた上で、後は細部を一つずつ勉強していくことになります。

2.「事務所等」の意義

まず、クーリング・オフ制度の条文について、最初の確認ですが、このクーリング・オフの規定は、宅地建物取引業者が「自ら売主」の場合の規定です。

したがって、売主は宅建業者でない非業者、買主も非業者、ただ媒介業者として宅建業者が間に入っているような場合には、買主はクーリング・オフできません。売主は、宅建業者ではないからです。

また、「自ら売主の制限」は、宅建業者相互間の取引には適用されませんので、買主が宅建業者でない場合しかクーリング・オフできません。

次に、クーリング・オフできるかどうかは、「事務所等」で買受けの申込み又は売買契約を締結したかどうかがポイントになります。

ちなみに、クーリング・オフの対象は、売買契約の締結だけでなく、買受けの申込みも含みます。違いは分かりますよね。売買契約は、両当事者が合意しています。買受けの申込みは、買主の購入の申込みのことで、この申込みに対して売主である業者が承諾をして売買契約が成立することになります。

さて、その「事務所等」というのは、具体的にどのような場所か。「等」という言葉が付くので曲者です。

まず「事務所」というのは、以下の3つの場所で問題がありません。

①本店(主たる事務所)
②支店(従たる事務所)
③継続的に業務を行なうことができる施設を有する場所で、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くもの

この3つの場所で買受けの申込みや売買契約を締結した場合は、クーリング・オフすることができません。

問題は、事務所「等」ですから、事務所以外のどのような場所で契約した場合に、クーリング・オフできなくなるのかです。簡潔にまとめて言うと、「専任の宅地建物取引士の設置義務のある場所」と覚えればアッという間に大部分は覚えられます。

具体的に一つずつ見ていくことにします。

最初の[参照条文]の施行規則第16条の5の規定を見て下さい。

大きく「一」と「二」に分かれていますが、「一」が専任の宅地建物取引士の設置義務のある場所のことで、「二」はクーリング・オフ固有の話です。

まず、「一」から見ていきます。なお、「一」については、専任の宅地建物取引士の設置義務のある場所ですから、イ~ホはすべて契約の締結等を予定している場合でないといけないというのは、思い出して確認しておいて下さい。

(イ) 当該宅地建物取引業者の事務所以外の場所で継続的に業務を行うことができる施設を有するもの

これは、専任の宅地建物取引士の設置義務のある場所で説明したのと全く同じです。

(ロ) 当該宅地建物取引業者が一団の宅地建物の分譲を案内所(土地に定着する建物内に設けられるものに限る。)を設置して行う場合にあっては、その案内所

これは、宅地建物取引業者が自ら売主の場合の案内所のことで、専任の宅地建物取引士の設置義務のある場所のところと同じです。

ただし、「土地に定着する建物内に設けられるものに限る」というのは、クーリング・オフ固有の話です。「土地に定着する建物」というのは、そのままの意味ですが、よくテント張りのような案内所を設ける業者があります。あのようなテント張りの案内所は、ここの案内所から除かれます。

なぜ、このような土地に定着しないテント張りのような案内所が除かれるかというと、よく悪質な業者が、移動の容易なテント張りの案内所等を設け、そこで契約の申込みを受けたり、契約をしたりして、後でお客さんがクレームを言いに来たり、契約の解約をしに来たりしたときには、別の場所に移動していなくなっていたりすることがあるからです。

このようないい加減な場所で契約等をしたとしても、クーリング・オフできます、ということになります。

土地に定着しないテント張りの案内所=いい加減な場所=クーリング・オフできる、という話です。

クーリング・オフの最初に説明しましたように、事務所等=クーリング・オフできない、事務所等以外=クーリング・オフできるということです。これがよく頭の中で混乱するという人がいますので、注意して下さい。

この土地に定着しない案内所の例は、テント張りですが、逆に土地に定着する案内所の具体例として、モデルルーム、モデルハウスというのを押さえておいて下さい。モデルルーム、モデルハウスは、ちゃんと住める家ですので、これは土地に定着しています。

(ハ) 当該宅地建物取引業者が他の宅地建物取引業者に対し、宅地又は建物の売却について代理又は媒介の依頼をした場合にあっては、代理又は媒介の依頼を受けた他の宅地建物取引業者の事務所又は事務所以外の場所で継続的に業務を行うことができる施設を有するもの

これは長い文章で読みにくい文章かもしれませんが、まとめると「代理・媒介業者の事務所等で契約しても、クーリング・オフできませんよ」という意味です。

上図を見て下さい。自ら売主Aが宅地建物取引業者で、宅地建物取引業者Bに媒介を依頼した場合の事例です。

今までわれわれが勉強してきた「事務所等」は、自ら売主の宅地建物取引業者Aの「事務所等」のことを指しています。しかし、他の宅地建物取引業者に媒介を依頼する場合もありますよね。その場合の代理・媒介業者の「事務所等」も、お客さんから見れば、自ら売主か、代理・媒介業者かの違いはあるものの立派な不動産屋の事務所等です。まさに不動産取引を行う場所ですよね。こういう場所で契約すれば、クーリング・オフできません。

(ニ) 当該宅地建物取引業者が一団の宅地建物の分譲の代理又は媒介の依頼をし、かつ、依頼を受けた宅地建物取引業者がその代理又は媒介を案内所(土地に定着する建物内に設けられるものに限る)を設置して行う場合にあっては、その案内所

これは先ほどの(ハ)の続編です。代理・媒介業者が設置した案内所でも、「土地に定着する」ものであれば、そこで契約すればクーリング・オフできない、という話です。

(ホ) 当該宅地建物取引業者(当該宅地建物取引業者が他の宅地建物取引業者に対し、宅地又は建物の売却について代理又は媒介の依頼をした場合にあっては、代理又は媒介の依頼を受けた他の宅地建物取引業者を含む。)が専任の宅地建物取引士を置くべき場所(土地に定着する建物内のものに限る。)で宅地又は建物の売買契約に関する説明をした後、当該宅地又は建物に関し展示会その他これに類する催しを土地に定着する建物内において実施する場合にあっては、これらの催しを実施する場所

やたら長い文章ですが、これは、自ら売主の宅地建物取引業者と、代理・媒介業者をまとめて記載しています。自ら売主であれ、代理・媒介であれ、宅地建物取引業者の「展示会場等」で契約等をすればクーリング・オフできませんよ、という意味です。

以上、話がややこしそうですが、まとめてみましょう。

先ほどの図をもう一度見て下さい。「自ら売主」の左側の「事務所等」を見て下さい。ここは、専任の宅地建物取引士の設置義務のある場所と同じです。

そして、大きくイコールで、下に媒介業者の左側にも「事務所等」というのがありますが、この自ら売主の業者の「事務所等」と媒介業者の「事務所等」というのは全く同じです。

要するに、自ら売主であれ、代理・媒介業者であれ、宅地建物取引業者の「事務所等」で契約等をすれば、それはしっかりした場所で契約等をしているので、クーリング・オフできません、ということです。

ただ、専任の宅地建物取引士の設置義務のある場所と違うのは、案内所と展示会場等が土地に定着するものに限定されているという点だけです。

3.「事務所等」~自宅・勤務先

「当該宅地建物取引業者の相手方がその自宅又は勤務する場所において宅地又は建物の売買契約に関する説明を受ける旨を申し出た場合にあっては、その相手方の自宅又は勤務する場所」で契約等をした場合も、クーリング・オフできません。

今までは、「事務所等」で専任の宅地建物取引士の設置義務のある場所と重なる部分を説明しました。今度は、「事務所等」でも、完全にクーリング・オフ固有の部分を説明します。

これは簡単に言えば、自宅、勤務先で契約等をすればクーリング・オフできません、ということです。

これは、宅地建物取引業者の相手方(つまり買主)の自宅、勤務先というのは、いわば買主のホームグランドです。こういう場所で契約等をした場合は、冷静に判断して購入意思も安定しているだろう、という意味です。

ただ、気を付けてもらいたいのは、あくまでクーリング・オフできなくなる自宅・勤務先というのは「買主が申し出た」場合に限ります。業者側から申し出た場合は、たとえ自宅・勤務先で契約等をしたとしても、クーリング・オフできます。

業者側から申し出るということは、言い換えれば業者が自宅・勤務先に押し掛けるということです。

業者が勤務先なんかに押し掛ければ、とにかく帰ってもらうために、買主は契約書にハンコを押しかねません。そういう場合は、クーリング・オフできます。

注意して欲しいのは、、自宅・勤務先以外の、たとえば喫茶店とかレストランとかは、買主が申し出ようが、業者が申し出ようがクーリング・オフできるという点です。「買主が申し出た場合の喫茶店」などは、買主が申し出ているのでクーリング・オフできないのではないかと考えがちですが、それは間違い。

ここは一律、場所で分けています。自宅・勤務先以外なら、誰が申し出ようがクーリング・オフできます。気を付けて下さい。

4.「事務所等」~その他の注意点

この「事務所等」について、注意して欲しい点が2点あります。

(1) 買受けの申込みの場所と契約の場所が異なる場合

まず最初は、申込みの場所と契約の場所が異なる場合の問題です。たとえば、事務所等において買受けの申込みをし、事務所等以外の場所において売買契約を締結したような場合です。

これは買受けの申込みだけを見ると、クーリング・オフできない。

しかし、売買契約の時点でみるとクーリング・オフできます。

結局この場合、クーリング・オフできるのか、できないのか、どちらなんだという問題です。

今あげた例の場合ですと、はっきり宅建業法に条文があります。クーリング・オフできないということです。

これは、買受けの申込みをした時点、つまり意思決定をしたときには、宅地建物取引業法の事務所等で行っているので、購入意思が安定的だ、ということです。

つまり、買受けの申込みの場所と売買契約の場所が異なり、クーリング・オフできるかできないか判断が分かれるような場合は、買受けの申込みの場所、すなわち意思決定の場所でクーリング・オフできるかどうかを決めるということです。

(2) 専任の宅地建物取引士の不在等

次は、クーリング・オフができない事務所等は、基本的には専任の宅地建物取引士の設置義務のある場所です。

そして、このクーリング・オフ制度の適用の有無については、原則として、その場所が専任の宅地建物取引士を設置しなければならない場所であるか否かにより決まります。

つまり、実際に契約等のときに専任の宅地建物取引士が不在である場合はもちろん、専任の宅地建物取引士を設置していなかった場合であっても、その違反はその違反として責任を問われることはあっても、クーリング・オフの適用については、クーリング・オフできないということになります。

この専任の宅地建物取引士の設置義務のある場所というのは、後で出てきますが「届出」というのが要求されています。

ただ、この届出がなされていなくても、それが専任の宅地建物取引士の設置義務がある場所であれば、ここで契約等をすれば、やはりクーリング・オフはできません。

以上まとめると、クーリング・オフ制度の適用の有無については、その場所が専任の宅地建物取引士を設置しなければならない場所であるか否かにより決まり、実際に専任の宅地建物取引士がいるか否か、その旨の届出がなされているか否かによって決まるものではないということです。

5.クーリング・オフできなくなる場合~8日の経過

さて、今までの話をまとめてみましょう。宅地建物取引業者が売主で、宅地建物取引業者でない者が買主の場合、事務所等以外の場所で契約等をすると、買主はクーリング・オフできるという話です。

しかし、いつまでもクーリング・オフできるとしたのでは、売主である宅地建物取引業者の方も困ってしまいます。クーリング・オフするには、時間の制限があります。

「買受けの申込みをした者又は買主(申込者等)が、国土交通省令の定めるところにより、申込みの撤回等を行うことができる旨及びその申込みの撤回等を行う場合の方法について告げられた場合において、その告げられた日から起算して8日を経過したとき」は、クーリング・オフできなくなります。

まず、「8日」という数字は覚えて下さい。この「8日」というのは、訪問販売等でも同じですので、ご存知の方も多いかもしれません。しかし、それで油断してはいけません。もっと詰めて見ていく必要があります。

まず、8日というのは、「告げられた日から起算」するという点です。つまり、初日を算入します。

民法で、期間については「初日不算入」の原則というのがありました。その例外です。

このクーリング・オフの期間が8日に定められたというのは、8日にすると必ず土曜・日曜が含まれることになるので、家族等で相談できる機会があるということのようです。つまり、初日不算入でも7日あればいいわけです。

そして、「告げられた日から起算」するということは、業者から「告げられなかった」場合は、8日の起算が始まらないので、期間がずっと伸びていくことになります。

つまり、宅地建物取引業者としては、できるだけ早く告げてしまって、早く8日が経過するのを待つのが賢明な方法ということになります。

したがって、このクーリング・オフできるということを「告げる義務」というのは、宅地建物取引業者にはありません。宅地建物取引業者に、「告げる」ことを義務付けなくても、告げなければ自分で自分の首を絞める形になるからです。宅地建物取引業者はクーリング・オフできることを「告げなければならない」という文章は、間違った文章ということになります。

次は、宅地建物取引業者が買主に対してクーリング・オフできる旨を告げる方法です。

「申込みの撤回等を行うことができる旨及びその申込みの撤回等を行う場合の方法について告げるときは、一定の事項を記載した書面を交付して告げなければならない。」

つまり、口頭で告げるだけではダメで、「書面」を交付して告げる必要があります。

なお、このクーリング・オフというのは、買主が無条件で、つまり売主に債務不履行がなくても解除できるものです。したがって、今説明した8日が経過した後も、売主に債務不履行があるときには、買主はクーリング・オフはできませんが、売主の債務不履行による解除をすることはできます。

6.クーリング・オフできなくなる場合~履行の完了

次に、クーリング・オフできなくなる場合として、履行行為が完了した場合というのがあります。

クーリング・オフできる旨を告げられてから8日経過しますと、それだけでクーリング・オフできなくなります。

そして、8日が経過しない場合でも、履行行為が完了しますとクーリング・オフできなくなります。

履行行為というのは具体的には、「申込者等が、当該宅地又は建物の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払ったとき」です。

「引渡し」「かつ」「代金の全部の支払」があれば、クーリング・オフできなくなります。これは正確に覚えて下さい。

「かつ」ですから、引渡と代金全部の支払の両方が終了した場合にクーリング・オフができないので、片一方だけだと、まだ8日が経過していなければクーリング・オフできます。

また、代金「全部」の支払という点も確実に覚えて下さい。残代金の支払いが一部でも残っていると、まだクーリング・オフできます。

また、ここでは「登記」というのを問題にしていません。ということは、登記が移転していない場合でも、登記が移転している場合でも、「引渡かつ代金全部の支払」がなされているかどうかだけで判断します。

7.参考~「代金の全部を支払ったとき」について(ローン等の場合)

この「引き渡し」かつ「代金の全部の支払い」があればクーリング・オフできない、というのは、基本的には割賦販売やローンの場合でも同じと考えられます。

たとえば、自ら売主のA(宅建業者)と買主B(宅建業者でない)が、売買代金2,000万円で不動産の売買契約を締結したとします(もちろん事務所等以外で契約)。

この場合、たとえば4回払いの割賦で売買代金を支払う場合、3回までしか支払っていない場合は、代金の全部が支払われていないわけですから、まだクーリング・オフができます。

もっとも、割賦販売の定義は、「代金の全部又は一部について、目的物の引渡し後『一年以上』の期間にわたり、かつ、二回以上に分割して受領することを条件として販売すること」とされていますので、宅建業者がクーリング・オフの告知をしていれば、軽く8日を経過してしまいますので、上記の例で「代金の全部を支払っていない」という理由で買主がクーリング・オフできるのは、宅建業者がクーリング・オフの告知をしていないような特殊な場合になると思われます。

また、ローンというのは、買主と銀行との金銭消費貸借の契約ですから、基本的に宅建業者は関係ないので、買主が銀行からお金を借りて、売主に2,000万円を支払い、引渡しも終わっていればクーリング・オフできなくなります。

8.申込みの撤回等(第2項)

クーリング・オフができる場合の、申込みの撤回等ですが、これは「書面により」行わないといけません。

クーリング・オフの意思表示があったかどうか、また、クーリング・オフには日数の制限もあるので、クーリング・オフの意思表示がいつ行われたかが問題となる場合があるので、書面という形で明確な証拠に残しておくことが妥当だからです。

したがって、書面といっても、この書面に証拠力を持たせるために内容証明郵便で行うことが望ましいことは言うまでもありません。

以上、結局、売主がクーリング・オフできる旨を買主に告知するのも「書面」、買主がクーリング・オフの意思表示をするのも「書面」ということになります。

そして、この「申込みの撤回等は、申込者等が書面を発した時に、その効力を生ずる。」とされています。つまり、申込みの撤回等は、発信主義が取られているということです。

民法で勉強しますが、意思表示というのは一般に書面が相手方に到達したときに効力が発生する到達主義が取られています。

しかし、この申込みの撤回等は、例外で発信主義が取られていることになります。

このように発信したときに効力が生じますから、買主が申込みの撤回等の発信をすれば、宅地建物取引業者の移転などで到達しなかった場合でも、撤回等の効力が生じることになります。

9.損害賠償等(第1項、第3項)

最初の方で、クーリング・オフというのは、「無条件解約」と訳されるというような話をしたと思います。

この「無条件」というのは、「一切の経済的な負担を負わない」という意味です。金銭的な負担を負うことなく無条件で解約できるということです。クーリング・オフするのに金銭的に損害を受けるのならば、クーリング・オフをするのをためらってしまいます。

したがって、宅地建物取引業者は、申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができません。

また、申込みの撤回等が行われた場合においては、宅地建物取引業者は、申込者等に対し、速やかに、買受けの申込み又は売買契約の締結に際し受領した手付金その他の金銭を返還する必要があります。

この点について、旅行招待販売における旅費の負担をどうするのかという問題があります。

旅費等の負担関係が当初から明確にされているときはそれに従うことになりますが、あらかじめそれが明確になっていないときは、「旅行招待」と銘打っている以上、そのための費用は業者の負担になると考えられます。

10.クーリング・オフに関する特約(第4項)

本条第1項~第3項のクーリング・オフの規定で、宅地建物取引業法は一般消費者を守っているわけですから、これらの規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効となります。

具体例としては、いくらでも考えられますが、たとえば、買主に不利なものとして

  • 事務所等以外の場所で契約しても解除できない
  • 申込の撤回等ができる期間が8日間より短い
  • クーリング・オフしても宅地造成が完成しているときは手付金を返還しない
  • 申込の撤回等を行うと買主は違約金を支払わなければならない
  • 適用除外となる場所(つまり、事務所等の範囲=クーリング・オフできない場所)を拡大するような特約

そして、これは消費者保護の規定ですから、逆に買主に有利な規定は有効です。

たとえば、適用除外となる場所を事務所に限るような特約、クーリング・オフできる期間を10日とするような特約は有効です。

ところで、本条は、買主に不利な特約を定めた場合には、その特約を無効にするにとどまり、本条に違反する行為をした宅地建物取引業者に対して業務停止処分や免許取消処分が課されたり、罰則が科されることはありません。(ただ、指示処分はすべての宅地建物取引業法違反に対して課されるので、指示処分が課される可能性はあります。)