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宅建業法33条の2(自己の所有に属しない物件の売買契約締結の制限)

【解説】

1.自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限

これは非常に簡単に言えば、他人物売買のことです。民法でも、売主の担保責任のところで、他人物売買というのが出てきます。

民法の復習をしますと、民法上他人物売買というのも有効でした。他人物売買も有効で、ただ売主が買主に所有権を移転できない場合は、売主に担保責任が発生するだけだということでした。

しかし、宅地建物取引業法では、売主が宅建業者で、買主が宅建業者でない場合は、このような「自己の所有に属しない」宅地建物の売買はできないことになっています。

このような物件の売買契約を認めると、買主は物件を取得できない可能性が高いからです。

また、悪質な業者が他人に所有権が属している宅地建物をあたかも自己の所有に属するかのように偽って一般消費者に売却したような場合、すでに支払われた手付金や内金を返還できないなど売主の担保責任が全うできない場合が多くなります。

なお、自己の所有に属しない売買契約において、その契約は通常の売買契約が禁止されるだけでなく、「予約」契約も禁止されます。

予約も契約の一種であり、当事者間において将来本契約を締結するという法的拘束力を生じさせるばかりでなく、その段階で通常申込証拠金や手付金などの金銭も授受されるので、消費者被害の防止を全うする見地から、自己の所有に属しない物件の売買の予約も禁止されます。

2.「自己の所有に属しない」

そして、「自己の所有に属しない」という意味ですが、今まで説明してきたように他人物売買が典型例です。

しかし、宅地建物取引業法はそれだけでなく未完成物件も「自己の所有に属しない」物件だとしています。というのは、未完成物件というのは、完成物件はまだこの世に存在していないわけですから、誰のものでもない。ということは、売主である宅建業者のものでもない、という考えです。

このように宅建業者が自ら売主で、買主が宅建業者でない場合、原則として未完成物件を売却できないという点は押さえておいて下さい。

3.自己の所有に属しない物件の売買契約締結の制限の例外~取得契約

上図を見て下さい。真の所有者Cの不動産を、宅建業者Aが宅建業者でないBに売却するという事例です。このような契約を締結してはいけないというのが、本条です。AB間で売買契約を締結できないという意味です。

また、先ほどの条文のカッコ書きで「予約も含む」というのがありました。つまり、AB間では、売買の本契約も締結できないし、売買の予約契約も締結できないという意味です。

ただ、これには例外があります。「宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているとき」です。

これは簡単に言うと、売主Aが、真の所有者Cから物件の「取得契約」を締結している場合は、AB間で売買契約(予約契約も)を締結できるということです。売主である宅建業者Aが、真の所有者Cから物件の取得契約を締結していれば、Bが物件を取得できる可能性がグッと高まります。

また、このような取得契約を締結している宅地建物取引業者は、一般消費者に他人の物件を売り付けるというような悪質な動機は持っていないと考えられます。

次に、このAC間の取得契約について、宅建業法の条文では、AC間の取得「契約」の存在を要求しているのみですから、この取得契約には登記・引渡・代金支払は不要で、これらがなくても契約さえしていれば、AB間で売買契約を締結することができます。

なお、民法で勉強しますが、もともと物権の所有権移転時期は、意思表示のときだったと思います(民法176条)。つまり、売買契約のときに不動産の所有権は移転します。

したがって、もし真の所有者と売主の宅地建物取引業者の間に取得契約(典型的には売買契約)があれば、契約をした時点で所有権が宅地建物取引業者に移転するので、これは他人物ではなくなり、AB間の売買契約も他人物売買ではなくなることになります。

しかし、通常不動産の売買契約においては、引渡しや登記、または代金支払のときに所有権が移転する、という特約が結ばれています。現実の世の中の不動産の売買契約のほとんどでこのような特約があるものと思われます。

ならば、CA間で売買契約が行われただけでは、取得契約はあるけれども、所有権はまだCの下にあることになるので、この規定の意味があるわけです。

4.取得契約が予約の場合

宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約を締結できませんが、宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているときは、例外的に売買契約を締結できます。

この条文のカッコ書きの部分を見て下さい。「予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。」という部分です。

つまり、CA間の取得契約は「予約も含む」ので、取得契約が予約契約でも、AB間で契約できます。

このように取得契約に「予約」を含めているのは、本契約の場合と同様、予約も契約の一種で法的拘束力があるからです。

この予約というのは、AC間でも出てきますし、AB間でも出てくるので混乱しないようにして下さい。

AC間で予約契約があれば、AB間でも予約契約を締結できるし、AC間で予約契約もなければ、AB間で予約契約を締結することもできないという意味です。つまり、予約契約だからといって特別な扱いはしないということです。

また、取得契約が予約であれば、AB間の売買契約も予約でなければならないということもありません。

5.取得契約が停止条件付の場合

宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約を締結できませんが、宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているときは、例外的に売買契約を締結できます。

次は、この条文のカッコ書きの「予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。」という部分の後半です。

CA間の取得契約が「その効力の発生が条件に係るもの」である場合は除かれているので、この場合はAB間の売買契約を締結することはできません。

「その効力の発生が条件に係るもの」というのは、停止条件付の契約が典型例です。

具体的には、所有者が東京へ転勤すれば宅地建物取引業者へ売り渡すとか、所有者が代替地を取得することができれば売却するとか、借地権付建物の売買で、借地権の譲渡につき、土地所有者の承諾が得られたときに売却するというような場合です。

この停止条件というのは、条件が成就するまでは契約の効力が停止しているものでした。

そして、「条件」というのは、それが成就するかどうか不確実なものを指します。確実に到来するのであれば、それは「期限」です。条件というからには、それが成就するかどうか不確実です。

したがって、取得契約が停止条件付であれば、その契約の効力が生じるかどうか、不確実だということになります。このような取得契約を締結していても、買主は物件を取得できるかどうかは不確実です。したがって、CA間の取得契約が停止条件付の場合は、AB間の売買契約を締結することはできないということになります。

この「その効力の発生が条件に係るもの」には、いわゆる「法定条件」といわれるものも含まれます。法定条件の具体例としては、農地法5条の都道府県知事の許可を条件とした宅地見込み農地の売買契約などがあります。

次に、この「その効力の発生が条件に係るもの」には、解除条件付契約は含まれないというのが通達です。つまり、取得契約が解除条件付の場合であっても、宅地建物取引業者は自ら売主として宅地建物取引業者でない買主に売却できるということです。

解除条件というのは、条件の成就により契約の効力が失われる場合です。

たとえば、ローン特約のように金融機関の融資が受けられないときは売買契約の効力は失われるというような場合です。

ただ、この通達については、反論もあるでしょうね。

確かに、解除条件付契約の場合は、一応は契約の効力は発生しています。

しかし、解除条件もそれが成就するかどうかは不確実なわけですから、解除条件が成就して、いつ契約の効力が失われるか分からないので、買主が物件を取得できない可能性があるからです。

少なくとも、取得契約が解除条件付というのは、望ましくないことだけは事実でしょう。

いろいろ考えはあるでしょうが、かつての通達に取得契約は解除条件付でもよいというのがある以上、試験などでは、この通達の考えで答えるしかないでしょう。

以上、予約契約や停止条件付売買契約の話が出てきてややこしくなりましたので、まとめておきます。

6.自己の所有に属しない物件の売買契約締結の制限の例外~再転売契約

宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約を締結できませんが、宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているときは、例外的に売買契約を締結できます。

この取得契約が転売契約であったとしても、AはBと売買契約を締結することができます。

たとえば、この不動産がDの所有で、CがDと取得契約を締結し、そのCとAが取得契約を締結しているというような場合です。

これについても問題が多いと思いますが、再転売契約による場合は、転売契約による場合に比し所有権移転がなされる確実性は低下するが、①法的拘束力の点では差異はない、②取得契約の中に本契約より確実性の劣る予約契約も含ませているからです。 →詳解 宅地建物取引業法

なお、この点については宅建試験の過去問にも出題されていて、取得契約は再転売契約でもよいという形で出題されています。(平成3年・問42・肢4、平成17年・問35・肢1)

7.自己の所有に属しない物件の売買契約締結の制限の例外~その他の例外

自己の所有に属しない物件の売買契約締結の制限には、所有者と取得契約を締結している場合以外にも、「その他宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得できることが明らかな場合」には、例外的に売買契約を締結してよいという例外があります。

つまり、売主である宅地建物取引業者が取得契約を締結している場合以外でも、宅地建物取引業者が物件を取得できることが確実であるならば、買主である宅建業者でない者も、物件を取得できる可能性が高いので、売買契約を締結してよいというわけです。

それはどのような場合かについて、いくつか宅地建物取引業法施行規則に規定がありますが、ここでは、保留地予定地に関する規定を見ておきましょう。

「当該宅地が土地区画整理法の規定により土地区画整理事業の施行者の管理する土地(「保留地予定地」という。)である場合において、当該宅地建物取引業者が、当該土地区画整理事業に係る換地処分の公告の日の翌日に当該施行者が取得する当該保留地予定地である宅地を当該施行者から取得する契約を締結しているとき。」

難しい条文です。しかも、これは土地区画整理法の理解が必要ですが、下図を見て下さい。

今、土地区画整理事業が施行されている区域内のDという人が所有している土地があったとします。ここが保留地予定地であったとします。

保留地というのは、土地区画整理法に出てきますが、換地処分がなされると最終的に施行者が取得することになっています。そして、施行者が保留地を取得して、それを誰かに売却してお金を得ます。そのお金で土地区画整理事業の費用等にあてるわけです。

ということは、Dから施行者Cへの所有権の移転は、土地区画整理法という法律で定められていることですから、移転は確実だ。そして、施行者Cから宅建業者Aが取得契約を締結しているなら、Aが所有権を取得するのは確実だ。それならば、買主Bは所有権を取得できるであろう。ということでAB間の売買契約を締結してもよいというのが、先ほどの条文です。

これは、単純に宅建業者Aが、施行者Cと取得契約を締結しているから、ABの売買契約が締結できるというふうに考えるのは正しくないと思います。それならば、取得契約のある場合として特別に法に規定を設ける必要はないからです。

この取得契約というのは、「所有者」と締結していないと意味がありません。所有者でない者と取得契約を締結しても、確実に物件を取得できるとは言えないからです。

この土地区画整理法の場合、換地処分がなされるまでは所有者はDです。したがって、宅建業者Aは現在の所有者でない施行者Cと取得契約を締結しているわけです。しかし、施行者が保留地予定地を取得できるのは、土地区画整理法という法律で認められているので確実です。したがって、この場合は例外的に宅建業者AはBと売買契約を締結してよいという規定です。

8.未完成物件の場合の例外

次に、未完成物件の場合も「自己の所有に属しない」という話をしましたが、この場合にも例外が規定されています。

それは、「当該宅地又は建物の売買に関して手付金等の保全措置が講じられているとき」です。

この手付金等の保全措置というのが取られていますと、買主Bは、物件を取得できない場合でも、売主である宅建業者Aに支払った手付金等が確実に返ってきます。それならば、AB間で売買契約を締結してもよいだろうということになります。

9.未完成物件の売買契約の締結について

今の「未完成物件の場合に、手付金等の保全措置が講じられているときは売買契約を締結できる」という話と関連して、未完成物件の売買契約の締結について考えてみます。

最初に、未完成物件の売買契約を締結できないという話をしました。

しかし、他方で宅地建物取引業法36条の「契約締結時期の制限」で、未完成物件については、許可等の処分がないと契約できないという規定があります。逆に言うと、未完成物件でも許可等の処分があれば契約できるということです。

これとの関係はどうなるのか?ということです。

「自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限」は、宅地建物取引業者が「自ら売主」の場合の話です。ところが、「契約締結時期の制限」はそのような制限がありません。

したがって、「契約締結時期の制限」というのを基本に考えて下さい。

とにかく、どのような取引態様であれ、許可等の処分がなければ、未完成物件については売買契約を締結することはできません。自ら売主の場合でも同じです。

そして、許可等の処分があれば、未完成物件でも売買契約を締結することができますが、宅地建物取引業者が自ら売主で、宅地建物取引業者以外の者が買主である場合は、許可等の処分があったとしても、売買契約を締結することができないんだ、というのが「自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限」です。

ただ、「自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限」にも例外がありますので、手付金等の保全措置を講じていれば、例外的に売買契約を締結できるという話です。つまり、未完成物件について宅建業者が売主で、買主が宅建業者でない場合は、

許可等の処分
  ↓
手付金等の保全措置

この2つをクリアして初めて、売買契約が締結できることになります。