宅建業法31条の3(宅地建物取引士の設置)
【解説】
1.宅地建物取引士(第1項)
本条は、宅地建物取引士の設置義務について規定したものです。
もともと宅地建物取引業の免許を取得するには、試験や実務経験などは不要なので、この宅地建物取引士制度がなかった頃は紛争が多発していました。
それでは、この宅地建物取引士の話の前提として、「宅地建物取引士」の定義について説明しましょう。
第1項の途中のカッコ書きに、宅地建物取引士は「第22条の2第1項の宅地建物取引士証の交付を受けた者をいう」となっています。
つまり、宅地建物取引士というのは、「宅地建物取引士証の交付を受けた者」です。
したがって、いくら宅建試験に合格している人でも、宅地建物取引士証を持っていない者は、宅地建物取引士ではありません。
宅建試験に合格しただけの人は、「宅地建物取引士資格試験合格者」といいます。
そして、試験に合格した人で一定の要件(「登録の基準」といいます。)を満たした人は、宅地建物取引士として都道府県知事の登録を受けることができます。
この宅地建物取引士の登録をした人を「宅地建物取引士資格者」といいますが、この段階でもまだ「宅地建物取引士」ではありません。
この登録した人で、一定の講習を受講して(免除される場合もあります。)、宅地建物取引士「証」の交付を受けて初めて「宅地建物取引士」ということになります。
したがって、「私は宅地建物取引士です。」という人に対しては、「宅地建物取引士証を見せて下さい」(宅地建物取引士証の提示義務)と言えばいいわけです。
「宅地建物取引士」と名乗るからには、必ず宅地建物取引士「証」の交付を受けているはずです。
もっとも、実際の取引の場面ではなく、普通の話のなかで宅地建物取引士という場合には、試験に合格していれば、気楽に宅地建物取引士だと言いますが…
さらに、この宅地建物取引士の中でも、成年者で事務所等に常勤して専ら宅地建物取引業に従事する者として設置された宅地建物取引士を「専任の宅地建物取引士」と言います。
宅地建物取引士証の交付を受けて、正式な宅地建物取引士でも、この専任の宅地建物取引士でないものは、「一般の宅地建物取引士」という言い方をしたりもします。
2.宅地建物取引士の設置
「宅地建物取引業者は、その事務所等ごとに、一定の数の成年者である専任の宅地建物取引士を置かなければならない」というのが、宅地建物取引士の設置義務です。
要するに、事務所等ごとに、成年者である専任の宅地建物取引士が必要だというわけです。
これは、事務所等に常駐の宅地建物取引士がおらず、非常勤の宅地建物取引士だけが断片的に業務を行っていたのでは、責任の所在が不明確になるおそれがあるからです。
また、常駐の宅地建物取引士がいなければ、購入者等消費者が求めるときにいつでも対応しうる態勢にあるとは限らないので、消費者に迷惑をかけ、ひいては取引の公正を害することにもなりかねません。
さらに、案内所等においても物件の説明等重要な業務が日常行われており、その業務の適正な運営を図る必要があります。
そして、事務所等に必要な宅地建物取引士は「成年者」である「専任」の宅地建物取引士です。
3.「成年」
まず、「成年者」という点からですが、「成年者」というのは、いうまでもなく20歳以上の者です。基本的に未成年者というのは、この専任の宅地建物取引士になることはできません。
この未成年者については、宅地建物取引業に関し営業の許可を受けて成年者と同一の能力を有する者は、登録を受けて宅地建物取引士証の交付を受けることにより宅地建物取引士となることはできます。
しかし、このような成年者と同一の能力を有する未成年者であっても、「専任」の宅地建物取引士になることはできません。
やはり、専任の宅地建物取引士として活動する場合には、実質的には相当の責任を負うことが必要となるので、成年者でなければならないということです。
ただ、民法で勉強したように20歳未満の者でも、婚姻すれば「成年者」とみなされました(民法753条)。このような婚姻した者は、20歳未満でも専任の宅地建物取引士になることができます。
未成年者の扱いについてその他に問題となるところは、宅地建物取引士の「登録」のところで再度詳しく述べます。
4.「専任」
次は、「専任」という点ですが、これはその事務所等に常時勤務し、もっぱら宅地建物取引業務に従事することを意味します。
パートやアルバイトでは、「専任」とはいえません。
また、他の会社に勤務していたり、自宅から事務所等へ通勤するには時間的に不可能な場合も常勤とはいえません。
さらに、その宅地建物取引業者の役員をしていても、非常勤の役員では「専任」の宅地建物取引士にはなりえません。
この「専任」の宅地建物取引士は、「事務所等ごと」に置かなければいけませんので、他の宅地建物取引業者だけでなく、同じ宅地建物取引業者内でも他の事務所との兼任はできません。
最後に、宅地建物取引業を営む株式会社においては「監査役」というのは、この専任の宅地建物取引士に選任することができません。
というのは、もともと監査役は、会社の取締役や支配人その他の使用人等を兼任することはできません。そして、専任の宅地建物取引士というのは、会社の使用人の立場になるからです。
5.宅地建物取引士の設置場所~事務所「等」
それでは、成年者である専任の宅地建物取引士を設置しないといけない「事務所等」とはどのような場所でしょうか。
この専任の宅地建物取引士を設置しないといけない「事務所等」は、実はココだけでなく、クーリング・オフや標識の掲示など後で勉強するところに関連してきます。そのときに、この「専任の宅地建物取引士の設置場所」の話が出てきます。
したがって、この専任の宅地建物取引士の設置場所をしっかり勉強しておけば、以後の関連個所の理解が非常にラクになります。
それでは、具体的に「事務所等」を説明しましょう。
まず、「事務所」は以下の3か所です(施行令1条の2)。
① 本店(主たる事務所)
② 支店(従たる事務所)
③ 継続的に業務を行なうことができる施設を有する場所で、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くもの
ところが、専任の宅地建物取引士は「事務所」だけでなく、事務所「等」ということになっています。宅地建物取引業法でこの「等」というのがいくつか出てきますが、これがクセモノです。
それでは、専任の宅地建物取引士の設置義務のある事務所「等」というのは具体的にどのような場所でしょうか。
以下の1.~4.の場所で、「宅地若しくは建物の売買若しくは交換の契約(予約を含む。以下同じ。)若しくは宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介の契約を締結し、又はこれらの契約の申込みを受けるもの」です。
- 継続的に業務を行うことができる施設を有する場所で事務所以外のもの
- 宅地建物取引業者が一団の宅地建物の分譲を案内所を設置して行う場合にあっては、その案内所
- 他の宅地建物取引業者が行う一団の宅地建物の分譲の代理又は媒介を案内所を設置して行う場合にあっては、その案内所
- 宅地建物取引業者が業務に関し展示会その他これに類する催しを実施する場合にあっては、これらの催しを実施する場所
1.ですが、「継続的に業務を行なうことができる施設を有する場所」で、「宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くもの」であれば、それは事務所の③になります。つまり、継続的に業務を行うことができるという「施設」に関する要件と、契約締結権限を有するという「使用人」に関する要件の2つを満たせば、事務所の③に該当します。このうち、「使用人」に関する要件は満たさないが、継続的に業務を行うことができるという「施設」に関する要件を満たせば、事務所「等」に該当するというわけです。この場合も専任の宅地建物取引士の設置が必要です。
次に、2.と3.はまとめて覚えればいいでしょう。ズバリ「案内所」です。2.は宅地建物取引業者が自ら売主として設置する案内所、3.は代理・媒介業者として設置する案内所ということです。ちなみに、この2.と3.に出てくる「一団の宅地建物」というのは、具体的には10区画または10戸以上の宅地建物の分譲になります。
最後の4.ですが、これは「展示会」などのイベント会場などのことです。よく宅地建物取引業者は、展示会場、住宅の相談説明会などと、イベントをやりますよね。そういう場所にも専任の宅地建物取引士を設置しなさいということです。
まとめると、
1.継続的に業務を行うことができる「施設」
2.自ら売主の「案内所」
3.代理・媒介の「案内所」
4.展示会場など
となります。
ただ、気を付けていただきたいのは、この1.~4.の場所で「契約の締結や契約の申込みを受ける場所」に限定されている点です。
たとえば、案内所でもパンフレット等を置いているだけで契約の締結等を行わないのなら、その案内所には専任の宅地建物取引士は設置する必要がありません。
もともと宅地建物取引士というのは、いずれ説明しますが、重要事項の説明等の「契約」にまつわる場面に登場します。したがって、契約の締結も契約の申込みの受付もしないような場所には、専任の宅地建物取引士の設置も不要です。
なお、ここでは「申込みを受ける場所」というのも対象となっていますので、案内所等において売買等の契約の申込みを受けるが、実際の契約の締結はその案内所ではなく事務所で行うという場合であっても、専任の宅地建物取引士の設置が必要となります。
また、「契約の締結や契約の申込みを受ける場所」であるならば、たとえば、別荘の現地案内所などで、週末だけ営業を行うような案内所であっても、専任の宅地建物取引士を置く必要があります。
6.宅地建物取引士の設置~法定数
それでは、専任の宅地建物取引士は事務所等にどれくらいの人数を置かないといけないでしょうか。これは「事務所」と事務所「等」に分けて考えます。
事務所…宅地建物取引業者の業務に従事する者の数に対する宅地建物取引士の数の割合が5分の1以上となる数
事務所「等」…宅地建物取引業者の業務に従事する者の数に関係なく1名以上
まとめると以下のようになります。
つまり、まず事務所では5人に1人以上の割合です。
5人に1人以上の割合ですから、業務に従事する者が1人のときは、専任の宅地建物取引士は1人。5人のときも1人。6人のときは2人。12人のときは3人です。分かりますね。
ただ、問題になるのは、5人に1人という場合の「5人」の方の分母になる「業務に従事する者」の意味です。
これは、「宅地建物取引業」の業務に従事する者という意味ですが、これについては、国土交通省が通達している「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」に説明があります。
その中の「他の業種を兼業している者の場合について」という項目の中で、「代表者、宅地建物取引業を担当する役員(非常勤の役員及び主として他の業種も担当し宅地建物取引業の業務の比重が小さい役員を除く。)及び宅地建物取引業の業務に従事する者が含まれ、宅地建物取引業を主として営む者にあっては、全体を統括する一般管理部門の職員も該当することとする。」
つまり、一般管理部門(経理部、人事部、総務部など)や補助的な事務に従事する者であっても、「宅地建物取引業を主として営む者」は含まれるので注意して下さい。
次に、「事務所等」では、業務に従事するものが何人いても(5人でも、10人でも、20人でも)、専任の宅地建物取引士は1人いれば大丈夫です。
少しややこしい問題としては、宅地建物取引業者Aが、一団の宅地建物の分譲を行おうとして、宅地建物取引業者Bにその販売代理を委託したとします。そして、業者Aと業者Bが共同で案内所を設置して、契約の申込み等を受け付けることにしました。
この場合、この案内所には専任の宅地建物取引士を1人置かなければいけません。
さあ、この場合自ら売主の業者Aから一人、代理業者Bから一人、合計2名の専任の宅地建物取引士を設置する必要があるのか?というとそうではありません。宅建業法には、案内所等には専任の宅地建物取引士は一人でいいと書いているわけですから、業者Aか業者Bか、どちらでもよいから一人の専任の宅地建物取引士を設置すればよいことになります。
この場合、業者Aにも業者Bにも、専任の宅地建物取引士の設置義務はありますが、どちらかが一人設置すれば、他方の業者も専任の宅地建物取引士の設置義務を果たしたことになります。
一人も設置しなかった場合は、両方の業者が専任の宅地建物取引士の設置義務に違反したことになります。以上は、業者Aと業者Bが共同で案内所を設置した場合です。
この専任の宅地建物取引士の設置義務というのは、案内所等を設置した業者に義務付けられます。したがって、共同で設置した場合は、先ほどのように両者の関係が問題になるわけです。業者Aか業者Bか、一方だけが案内所を設置した場合は、案内所を設置した業者にのみ専任の宅地建物取引士一人の設置が義務付けられます。
たとえば、業者Bが案内所を設置した場合は、業者Bに専任の宅地建物取引士一人の設置義務があり、業者Aには専任の宅地建物取引士の設置義務はありません。
最後にまとめると、案内所等を設置した宅地建物取引業者に専任の宅地建物取引士一人の設置義務があり、業者が共同で案内所等を設置した場合は、その両者に専任の宅地建物取引士一人の設置義務があるが、どちらかの宅地建物取引業者が専任の宅地建物取引士一人を設置すればよい、ということになります。
7.役員等のみなし規定(第2項)
専任の宅地建物取引士の設置について設置場所、法定数というのを説明しました。これについて、宅地建物取引業者の役員等は専任の宅地建物取引士とみなす規定があります。
宅地建物取引業者が個人である場合はその宅地建物取引業者自身、法人である場合は役員が宅地建物取引士の資格を持っていれば、それは成年者である専任の宅地建物取引士とみなすという規定です。
ここでいう役員の中には、監査役は含まれません。
監査役は、使用人との兼務が禁止され、そもそも専任の宅地建物取引士になることができないからです。
この規定の注意点は、ちょっと細かい話ですが、法人の場合、「役員」は専任の宅地建物取引士とみなされますが、「政令で定める使用人」は専任の宅地建物取引士とはみなされないということです。
宅地建物取引業法の規定は、「役員」と「政令で定める使用人」というのは、セットで出てくることが多いですが、ここはセットで考えてはダメです。あくまで、専任の宅地建物取引士とみなされるのは、「役員」だけです。
なお、本条で「自ら主として業務に従事する事務所等」というのは、宅地建物取引業者(法人である場合にはその役員)が、ある事務所において専任に近い状態、すなわちもっぱらその事務所に常勤し、その者の職務の大半が宅建業にあてられている状態をいうものとされます。
8.法定数の宅地建物取引士の不足(第3項)
専任の宅地建物取引士は、「事務所」には5人に1人、事務所「等」には1人、専任の宅地建物取引士を設置しなければいけません。
しかし、社員が退社したり、死亡したり、病気で事務を行うことができなくなったり、宅地建物取引士証の有効期間が満了して更新されていなかったり、登録が消除されたりして、この法定数の専任の宅地建物取引士の数が足りなくなる場合があります。
そういう場合は、すぐに宅地建物取引業法に違反するというわけではなく、直ちに宅地建物取引業者を廃業しなければならなかったり、免許を取り消されたりということはありません。
このように専任の宅地建物取引士の数が足りなくなれば、2週間以内に補充すればよいわけです。
ただ、条文では「適合させるため必要な措置を執らなければならない」と書いてあるので、何も新たに専任の宅地建物取引士を設置するという方法だけに限定する必要はありません。
それ以外に、その事務所の従業者の人数を減らすという方法もあります。
たとえば、ある事務所に7人の従業者がいて、2人の専任の宅地建物取引士を設置していたが、そのうちの一人が退社したような場合、従業者の数が6人になってしまうわけですが、その従業者の中で専任の宅地建物取引士でない従業者の一人を他の事務所に移転させるなどして、従業者の数を5人にすれば専任の宅地建物取引士は一人でいいので、「5人に1人」という基準に適合させることができます。