宅建業法27条(営業保証金の還付)
【解説】
1.営業保証金の還付~宅地建物取引業者
営業保証金というのは、宅地建物取引業者と取引した者が、その宅地建物取引業者からお金を払ってもらえないような場合に、営業保証金から弁済を受けることによって、その者を保護しようという制度です。
このように、営業保証金から弁済を受けることを営業保証金の「還付」といいます。
この還付についても、いろいろ問題がありますね。まず、最初のポイントは「宅地建物取引業者」という点です。宅地建物取引業者とは、免許を受けた者でしたよね。
Aという宅地建物取引業者が、免許を取得しました。
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本当はダメなんですが、営業保証金を供託する前にフライングで事業を開始して、Bという者と宅地建物取引業に関して取引をしました。
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その後、営業保証金を供託して届出もしました。
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その後、Cという者と宅地建物取引業に関して取引をしました。
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現在、BもCも、Aから取引に関する支払をしてもらっていません。
さあ、この事例でBとCは、営業保証金から還付を受けることができるでしょうか?
Cは還付を受けることができるが、Bは還付を受けることができない、と考える人もいるでしょう。確かに、Bは、本来Aが事業を開始できないときに取引をしています。しかし、それはAが悪いんであって、Bが悪いことをしているわけではないですよね。
供託の届出をしていない間に事業を開始した宅地建物取引業者Aは、免許権者から監督処分も受けますし、罰則もあります。Aは確かにこの点について、お咎(とが)めを受けます。だからと言って、Bを保護しない理由はないでしょう。Bも被害者です。
先ほども指摘しましたように、「宅地建物取引業者」と取引した者は、還付を受けることができます。そして、Aも「免許」を受けています。「免許」を受けている以上、Aも立派な?宅地建物取引業者です。そのAと取引したBは、還付を受けることができます。Cも当然還付を受けることができます。以上、先ほどの正解は、BもCも還付を受けることができる、ということになります。
2.宅地建物取引業に関する取引
次のポイントは、「宅地建物取引業に関する取引により生じた債権」についてだけ、還付を受けることができるという点です。
宅地建物取引業以外に関する債権については、還付を受けることができません。
そして、「宅地建物取引業」というのは、宅地建物取引業法の最初で説明しましたが、自ら売買・交換、代理・媒介して売買・交換・貸借ということでした。
宅地建物取引業に関する債権は、たとえば宅地建物の代金債権とか、宅地建物の取引に関して宅地建物取引業者に対して有することとなった不法行為に基づく損害賠償請求権などです。
宅地建物取引業「以外」の債権の具体例は、要するに宅地建物取引業以外は全部ということですが、具体例上げると、下記のようなものです。
- 広告会社が宅地建物取引業者に対して有する広告代金債権
- 宅地建物取引業者が金融機関から不動産融資を受けたことによる貸付債権
- 雇人の賃金
- リフォームに関する債権
- 宅地建物の管理に関する債権
3.宅地建物取引業者による還付請求
次のポイントは、還付を受けることができる者から宅地建物取引業者が排除されていることです。つまり、宅地建物取引業者は営業保証金から還付を受けることができません。
これは、最初に営業保証金の制度は、宅地建物取引業者と取引した者を保護する制度だと書きましたが、宅地建物取引業者と取引して一番保護しなければならないのは、一般消費者です。宅地建物取引業者は不動産取引に精通していますので、営業保証金の制度のこともよく知っています。
そこで、宅地建物取引業者が営業保証金の還付を受けてしまうと、一般消費者に回ってこないという事態が生じかねません。そこで、消費者保護の観点から宅地建物取引業者は還付を受けることができないとしています。
4.還付の金額
最後のポイントは、還付を受けることができる金額は、「宅地建物取引業者が供託した営業保証金」の範囲内です。
たとえば、本店と支店2つを有する宅地建物取引業者の場合は、営業保証金の金額は、1,000万円+500万円×2(支店数)=2,000万円です。宅地建物取引業者に対して宅建業に関して有している債権が、3,000万円の者がいたとしても、その者が還付を受けることができる金額は、2,000万円です。もともと供託所には、2,000万円しかないわけですから、3,000万円の還付を受けることは無理です。
もちろん、債権が1,000万円のときは、還付額は1,000万円で全額の弁済を受けることができます。
要するに、債権者は必ずしも営業保証金から全額の弁済を受けることができるとは限らないということです。
なお、取引の相手方等が宅地建物取引業保証協会の供託した弁済業務保証金について還付請求する場合、保証協余の認証を受ける必要があります(業法第64条の8第2項)。
しかし、営業保証金の還付には、認証手続のようなものはなく、その代りに供託所に還付を受けることができる権利を託する書面(確定判決等)等を添付して請求する必要があります。