※この記事は一般的な条文解説で、宅建等の資格試験の範囲を超えた内容も含みます。当サイトの記事が読みやすいと感じた方は、当サイトと資格試験向け教材の関係をご覧下さい。

宅建業法25条(営業保証金の供託等)

【解説】

1.営業保証金

宅地建物取引業を始めようとすると、免許を取得しないといけません。

それでは、免許を取得すれば宅地建物取引業をすぐに始められるかというと、そういうわけにはいかないんです。

事業を開始する前に、「営業保証金」というお金を最低1,000万円(金額については後に詳述します)は、供託所に供託しないといけません。要するに、営業保証金というのは、事業を開始するにあたって事前に供託しておかないといけないお金、ということになります。

それでは、何のためにこのようにお金を供託しないといけないのか?それは、その宅地建物取引業者と取引をして損害を受けたものを保護するためです。宅地建物取引業者と取引をして、損害を受けたが、その宅地建物取引業者がお金を払ってくれない場合に、その供託金で支払ってもらえるようにしよう、というのが営業保証金の制度です。

また、このように最初にお金を供託させることにより、宅地建物取引業を行うにあたって十分な資力がありますよ、という証拠金のような意味合いもあるようです。

以上のように、宅地建物取引業を始めようとすると、まず免許を取得して、宅地建物取引業者としての適格性をチェックされ、さらに営業保証金を供託することによって取引の相手方を保護するための手段を講じておいて、しかる後に宅地建物取引業を営めることになります。

2.営業保証金の供託(第1項)

それでは、営業保証金の供託の仕方から見ていきましょう。

これは、「宅地建物取引業者が、主たる事務所のもよりの供託所に供託する」ことになります。

まず、最初の「宅地建物取引業者」という言葉に注目して下さい。「宅地建物取引業者」の定義というのは、第2条3号に規定がありますが、宅地建物取引業者は、「免許を受けて宅地建物取引業を営む者をいう。」ということでしたね。 →第2条3号参照

つまり、免許を受けた者が宅地建物取引業者です。この宅地建物取引業者に営業保証金の供託を要求しているということは、営業保証金の供託より先に免許を取得しておかないといけないことを意味しています。

免許の取得→営業保証金の供託

という流れになるわけですね。これは基本として覚えておいて下さい。

次に、「主たる事務所のもよりの供託所」に供託するというのも確認して下さい。すぐ次に説明しますが、営業保証金というのは、本店・支店などの事務所の数で決まります。しかし、支店分の営業保証金もまとめて「主たる事務所のもよりの供託所」に一括して供託します。

3.営業保証金の額(第2項)

それでは次に、供託すべき営業保証金の額は正確にはいくらなのか?

「主たる事務所につき1,000万円、その他の事務所につき事務所ごとに500万円の割合による金額の合計額」(施行令2条の4)ということになります。

主たる事務所…1,000万円
その他の事務所ごと…500万円

これの具体的な意味は、たとえば、本店と3つの支店で宅地建物取引業を行う場合、本店は1つですから1,000万円、支店の分は、500万円×3=1,500万円です。この合計額ですから、2,500万円の営業保証金が必要になります。

そして、先ほど述べましたように、この2,500万円の営業保証金をまとめて「主たる事務所のもよりの供託所」に供託するわけです。

次に、これも重要ですが、営業保証金の金額は、「事務所」を基準に決定されるという点です。「案内所」などは、いくら設けても営業保証金の額は増えません。

ところで、この金額についてですが、宅地建物取引業法という法律では具体的に定めず、「宅地建物取引業者の取引の実情及びその取引の相手方の利益の保護を考慮して、政令で定める額とする。」というように宅地建物取引業法施行令に委任しています。

そして、この金額というのは、営業保証金の還付が行われる事案の多くは、買主である消費者が売主に対して支払った手付金、中間金等の金銭の返還に関するものになります。

したがって、営業保証金の額は、少なくとも一物件の取引の際に支払われる手付金、中間金等の額を担保する額でなければならないことになります。

そして、主たる事務所については、一物件の平均価額を2,500万円程度とみて、その4割の1,000万円という金額に決まったようです。

さらに、その他の事務所については、営業の規模も一般的には小さいと考えられるので、主たる事務所に対する供託額の2分の1の額としています。

実際に、過去に還付が行われた事案をみると、債権額が1,000万円以下のものが全体の約9割を占めているので、主たる事務所にかかる供託金だけで全体の9割程度の事案は救済されるので、これで大丈夫だろうと言うことです。

この点について、主に間貸しの仲介を中心として業務を行っている業者に対しても1,000万円というのは負担が過重ではないかという意見もあったようですが、物件の価額が高額化することに伴って高額の権利金等が支払われる賃貸借契約が増加していること、また主として賃貸借の仲介を行っている業者であっても、顧客の求めに応じて宅地建物の売買等の仲介を行っている場合が少なからずあるので、特に賃貸の仲介だからと言って特に区別はしないことになっています。

4.有価証券の場合(第3項)

次に、この営業保証金というのは、「金銭」で供託するのが普通かもしれませんが、有価証券で供託することもできます。「営業保証金は、国債証券、地方債証券その他の一定の有価証券をもって、これに充てることができる。」この有価証券ですが、有価証券にもいろいろ種類があり、それぞれに信用度が異なります。そこで、有価証券の評価額に違いがあります。

国債証券…額面金額
地方債証券又は政府が保証契約をした債券…額面金額の100分の90
その他の債券…その額面金額の100分の80

そして、この供託が認められる有価証券ですが、一般に有価証券といえば、株券、手形、小切手というのを頭に思い浮かべる人が多いかと思いますが、この株券、手形、小切手というのは、営業保証金の供託が認められる有価証券に含まれていません。価格の変動があったり、不渡りの危険があるからだと思われます。

5.営業保証金の供託の届出(第4項、第5項)

免許を取得して、営業保証金を供託しても、まだ、宅地建物取引業は始められません。営業保証金を供託すれば、次に供託した旨を免許権者に届け出ないといけません。

免許権者は、宅地建物取引業者を監督しますので、その免許権者に営業保証金を供託しましたよ、ということを届け出なさい、ということです。以上をまとめると、以下のようになります。

免許の取得
  ↓
営業保証金の供託
  ↓
営業保証金を供託した旨の届出
  ↓
事業の開始

6.営業保証金の供託をしない場合(第6項、第7項)

以上が通常の宅地建物取引業の事業の開始の流れですが、宅地建物取引業の免許を取得したけれども、いつまで経っても営業保証金を供託しないという人が現れます。

このように免許は取得したが、営業保証金を供託しない=事業が開始できない、という状態を長期間放置していますと、その宅地建物取引業者が他の者に名義貸しをするなどの弊害が考えられます。そこで、このような事態に対する対処が宅地建物取引業法に規定されています。

まず、「国土交通大臣又は都道府県知事は、免許をした日から3月以内に宅地建物取引業者が営業保証金を供託した旨の届出をしないときは、その届出をすべき旨の催告をしなければならない。」

ここのポイントは、「3月」です。

それ以外にも、この規定には実は落とし穴があります。それは、3ヶ月以内に「届出」をしないと、催告されてしまうという点です。つまり、3ヶ月以内に「供託」ではないということです。供託→供託した旨の届出、という流れになりますが、3月以内に営業保証金を供託していても、届出が3ヶ月以内に行われていないときは、催告されてしまいます。

もう一つ。催告を「しなければならない」という点です。つまり、この催告は必要的なものであって、催告することが「できる」ということではありません。

次に話を進めますと、免許取得から3ヶ月以内に届出がなくて催告を受けても、まだ営業保証金を供託しない人というのも出てきます。そのような人に対する措置です。

「国土交通大臣又は都道府県知事は、前項の催告が到達した日から1月以内に宅地建物取引業者が営業保証金を供託した旨の届出をしないときは、その免許を取り消すことができる。」

今度は、免許取消です。ポイントは、「1ヶ月」、「届出」(営業保証金の「供託」ではない)というのは、催告の場合と同様です。

ただ、この免許取消は、免許を取り消すことが「できる」ということで、任意的なものだということは気を付けておいて下さい。この免許取消処分というのは、圧倒的に「必要的」な場合が多い。つまり、「取り消さなければならない」というスタイルですね。このような「取り消すことができる」という免許取消処分事由は数が非常に少ないので注意が必要です。

なお、任意的な免許取消だとすると、免許が取り消されない場合もあります。そうすると、免許は取得したが、営業保証金を供託した旨を届け出ない者が長期間放置される可能性があるのではないかという心配があります。

しかし、そのあたりはうまくできていて、「免許を受けてから1年以内に事業を開始せず、又は引き続いて一年以上事業を休止したとき」というのは免許取消処分事由です。そして、この免許取消処分は「必要的」なものですから、いずれにしろ1年経てば決着が付くことになります。