宅建業法22条の2(宅地建物取引士証の交付等)
【解説】
1.宅地建物取引士証
宅地建物取引士証というのは、宅地建物取引士であるということを証明するもので、自動車の運転免許証やパスポートなどと同じく一種の身分証明書です。
このように宅地建物取引士証というのが要求されているのは、宅地建物取引士でない営業マンが他の宅地建物取引士から名義を借りて、宅地建物取引士であるかのように重要事項の説明等の事務を行うような不正を防ぐためです。
上図を見て下さい。宅地建物取引士になるには、登録→宅地建物取引士証の交付、という手続を踏むという話をしました。このうち、登録は一度登録すれば一生有効なもので、宅地建物取引士の資格のベースになるようなものです。
そして、比喩的に言うと、その上に乗っかる形で、宅地建物取引士証の交付を受けて、はじめて宅地建物取引士になるわけですね。この宅地建物取引士証は、有効期間というのがあって「5年」です(第3項)。
そして、宅地建物取引業者の「免許」に相当するのは、宅地建物取引士では「登録」になりますが、実はこの点は違いがあります。
宅地建物取引業者の免許は、免許そのものが5年という有効期間があります。ところが、宅地建物取引士の登録は、有効期間がない代わりに、宅地建物取引士証に5年という有効期間があるという形になります。
次に、この宅地建物取引士証は、「宅地建物取引士の登録を受けている者は、登録をしている都道府県知事に対し、宅地建物取引士証の交付を申請することができる。」ということになります。
ポイントは、「登録をしている都道府県知事」に宅地建物取引士証の交付を申請するという点です。つまり、試験地の都道府県知事=登録をする都道府県知事=宅地建物取引士証を交付する都道府県知事、というのが基本になります。
A県で試験を受けて合格した人は、A県知事の登録を受け、A県知事から宅地建物取引士証の交付を受けるということです。
なお、この宅地建物取引士証は公文書になりますので、それを偽造したときは公文書偽造罪にあたり、虚偽の申立てにより不実の記載をされたときは公正証書等不実記載罪にあたることになります。
2.宅地建物取引士証の記載事項
ここで宅地建物取引士証の記載事項について軽く見ておきます。
① 宅地建物取引士の氏名、生年月日及び住所
② 登録番号及び登録年月日
③ 宅地建物取引士証の交付年月日
④ 宅地建物取引士証の有効期間の満了する日
ここで、覚えておくのは①くらいで結構ですが、さらに重要なのは記載事項になっていない部分です。
それは「宅地建物取引士の勤務先」が記載事項になっていない、という点です。これをよく覚えておいて下さい。
宅地建物取引士資格登録簿の記載事項には、業務に従事する宅地建物取引業者が記載事項になっていましたが、宅地建物取引士証にはこれは不要です。
3.宅地建物取引士証の書換え交付
この書換え交付というのは、宅地建物取引士証の記載事項に変更があったときに行うものです。
「宅地建物取引士は、その氏名又は住所を変更したときは、変更の登録の申請とあわせて、宅地建物取引士証の書換え交付を申請しなければならない。」
ここは「氏名又は住所」がポイントで、宅地建物取引士の氏名と住所というのは、宅地建物取引士証の記載事項でした。
「勤務先」が変更になっても、書換え交付は必要ありません。
というのは、「勤務先」というのは宅地建物取引士証の記載事項ではなかったからです。
これは、勤務先については、転々と変更されることが多いので、その都度宅地建物取引士証の再発行を行うことは、それに要する事務負担に比してメリットが少ないという理由のようです。
ただ、注意して欲しいのは、宅地建物取引士の勤務先は、宅地建物取引士登録簿の記載事項ではありますので、変更の登録は必要です。
まとめると、宅地建物取引士の勤務先が変更されれば、変更の登録は必要ですが、宅地建物取引士証の書換え交付は不要だということです。
4.宅地建物取引士証の再交付
宅地建物取引士証の書換え交付に似たものとして「宅地建物取引士証の再交付」というのを説明します。
まず、宅地建物取引士証の再交付というのは、宅地建物取引士証を「亡失し、滅失し、汚損し、又は破損」したときに行うものだというのを押さえて下さい。
そして、「汚損又は破損を理由とする宅地建物取引士証の再交付は、汚損し、又は破損した宅地建物取引士証と引換えに新たな宅地建物取引士証を交付して行うもの」とされます。「亡失、滅失、汚損、破損」の中でも、「汚損、破損」は元の宅地建物取引士証が手元に残っています。したがって、その手元に残っている宅地建物取引士証と引換えに新たな宅地建物取引士証を再交付してくれるわけです。
これに対して、「宅地建物取引士は、宅地建物取引士証の亡失によりその再交付を受けた後において、亡失した宅地建物取引士証を発見したときは、速やかに、発見した宅地建物取引士証をその交付を受けた都道府県知事に返納しなければならない。」ということになります。
「亡失」した場合は、元の宅地建物取引士証が後で出てくる可能性があります。その時は、「発見した宅地建物取引士証」を返納します。新たに再交付された宅地建物取引士証の方を返納するわけではありません。
5.宅地建物取引士証の交付を受けるための講習(第2項)
この宅地建物取引士証の交付を受けようとする者は、都道府県知事の指定する講習を受講しなければいけません。
ここのポイントは、「都道府県知事」が指定する講習だという点です。登録をするために必要な2年の実務経験に代わる講習(登録実務講習)は、「国土交通大臣」が指定する講習でした。この違いに注意して下さい。
次のポイントは、「申請前6月以内」の講習という点です。
ただ、この宅地建物取引士証交付前の講習については、免除される場合があります。
1.試験に合格した日から1年以内に宅地建物取引士証の交付を受けようとする者
2.登録の移転に伴い宅地建物取引士証の交付を受けようとする者
1.についてですが、宅地建物取引士証は有効期間が5年でした。ということは、5年ごとに新しい宅地建物取引士証の交付を受けるわけですから、5年ごとに、この都道府県知事が指定する講習を受講しないといけないということです。何のためにこの講習を受講しないといけないかというと、宅地建物取引士証の交付を受けて5年も経てば、法律の改正等があるので、一番新しい法律を勉強してもらおうというわけです。
ということは、試験に合格した日から1年以内の人は、最新の法律を勉強して宅建試験に合格したばかりですから、この講習は不要だろうということです。
次に、2.ですが、宅地建物取引士証は、登録をしている都道府県知事から交付を受けます。つまり、登録をしている都道府県知事=宅地建物取引士証を交付する都道府県知事です。
ということは、登録の移転をすれば、この関係が崩れることになります。したがって、A県知事で登録し、宅地建物取引士証の交付を受けた者が、B県に登録の移転をすれば、A県から交付を受けた宅地建物取引士証は、その効力を失います(第4項)。
しかし、これではこの宅地建物取引士は、宅地建物取引士としての事務(仕事)をすることができませんので、B県知事に宅地建物取引士証の交付を申請することになります。
この場合についての規定が第5項です。
「登録の移転の申請とともに宅地建物取引士証の交付の申請があったときは、移転後の都道府県知事は、(A県知事の)宅地建物取引士証の有効期間が経過するまでの期間を有効期間とする宅地建物取引士証を交付しなければならない。」と規定しています。
ここのポイントは、B県知事は「(A県知事の)宅地建物取引士証の有効期間が経過するまでの期間を有効期間とする宅地建物取引士証」を交付するという点です。
分かりにくい表現ですが、「(A県知事の)宅地建物取引士証の有効期間が経過するまでの期間を有効期間とする宅地建物取引士証」というのは、ズバリ「残存期間」という意味です。
A県知事の宅地建物取引士証を3年間使っていたとします。そして、B県に登録の移転をするとともにB県の知事の宅地建物取引士証の交付を申請すると、B県知事の宅地建物取引士証の有効期間は、A県知事の宅地建物取引士証の有効期間の残存期間、つまり2年の有効期間の宅地建物取引士証を交付することになります。
ここで、先ほどの宅地建物取引士証の交付前の講習が免除される場合の2.というのが関係してきます。登録の移転に伴いB県知事から宅地建物取引士証の交付を受ける場合、これも一応宅地建物取引士証の交付ですから、講習を受けないといけないはずです。しかし、先ほどの説明から分かりますように、B県知事が交付する宅地建物取引士証は、残存期間を有効期間とする宅地建物取引士証になりますので、登録の移転前後の宅地建物取引士証の有効期間は、併せて5年になります。したがって、B県知事から宅地建物取引士証の交付を受ける際に、講習を受けなくても、5年ごとに講習を受ける形になるので、問題はないということです。
この登録の移転に伴う宅地建物取引士証の交付については、「登録の移転の申請とともに宅地建物取引士証の交付の申請があった場合における宅地建物取引士証の交付は、当該宅地建物取引士が現に有する宅地建物取引士証と引換えに新たな宅地建物取引士証を交付して行うものとする。」(施行規則14条の14)という規定があります。「引き換え」という点がポイントです。
6.宅地建物取引士証の返納(第6項)
宅地建物取引士証は、登録をしていることを前提に交付されるものです。登録もしていないのに宅地建物取引士証の交付だけ受けるということはできません。
したがって、登録が消除されますと、宅地建物取引士証というのは都道府県知事に返納しないといけません。
また、宅地建物取引士証自体が効力を失った場合も、これを宅地建物取引士証の手元に残しておくと悪用されるので、やはり都道府県知事に返納しないといけません。
また、宅地建物取引士証の再交付で、亡失した宅地建物取引士証を発見した場合に、発見した宅地建物取引士証を返納するのも宅地建物取引士証を返納する場合の一つです。
これは「速やかに」ということで具体的な時期の制限はありません。
なお、この場合は宅地建物取引士証を「返納」、つまり都道府県知事に「返す」ということですから、「宅地建物取引士証を廃棄」してもダメです。
返納の制度は、知事印の押されている公文書の悪用を防ぐ趣旨ですから、廃棄で知事がその事実を確認できません。
7.宅地建物取引士証の提出(第7項・第8項)
次に、宅地建物取引士証の提出です。このあたりは、似たような言葉が出てきてややこしいですが、先ほどの「返納」と区別して下さい。「返納」というのは、無効になった宅地建物取引士証を返す、という意味です。
これに対して、宅地建物取引士証の「提出」は事務禁止期間中に要求されるもので、この場合宅地建物取引士証自体が無効になっているわけではありませんが、事務禁止期間中の宅地建物取引士に、宅地建物取引士証を持たしておくと、それを使って重要事項の説明などの事務を行う危険がありますので、都道府県知事に「提出」させて、都道府県知事が、その宅地建物取引士証を預かっておくというものです。以上、この「提出」は、事務禁止期間中に要求されるものだという点を押さえて下さい。
もう一つは、宅地建物取引士証の提出先です。提出するのは「交付を受けた都道府県知事」です。
実は事務禁止処分というのは、登録した知事だけではなく、事務を行った地の都道府県知事も処分権者になります。たとえば、A県知事の登録を受けた宅地建物取引士が、B県で事務を行った際に不正な行為があった場合、B県知事が当該宅地建物取引士に対して事務禁止処分を課すこともできます。この場合、宅地建物取引士証を提出するのはA県知事です。宅地建物取引士証を交付しているのはA県知事ですから、そちらの方に提出するのであり、事務禁止処分をしたB県知事に提出するわけではありません。
次に、事務禁止期間が終了すると、都道府県知事は、宅地建物取引士証を返してくれます。
ここのポイントは、まず、提出者(宅地建物取引士)から「返還の請求」があった場合に返還するという点です。宅地建物取引士としては、黙っていても宅地建物取引士証は返してくれません。あくまで自分から返還の請求をしないといけないという意味です。都道府県知事が、気を利かして返してくれることはありません。
もう一つは、「直ちに」という点。特に期間の制限はありませんが、これは当然でしょうね。