宅建業法5条(免許の基準)
【解説】
1.総論
「免許の基準」というのは、宅地建物取引業の免許の申請をしてきた人に免許を与えるかどうかの基準という意味です。
宅地建物取引業の免許制度は、宅地建物取引業者としてふさわしくない者を排除するためです。免許の申請をしてきた人すべてに免許を与えていたのでは、免許制度の意味がありません。そこで、宅地建物取引業者としてふさわしくない者を列挙し、これに該当する者には免許を与えないようにしたのが、この免許の基準です。この免許の基準は、「欠格事由」と表現することもあります。
この免許の基準というのは、いろいろあってこれからそれを一つずつ解説していきます。簡単にまとめれば、宅地建物取引業者としてふさわしくない者です。
そして、この宅地建物取引業者の免許の基準というのは、非常に重要です。というのは、この免許の基準は、宅地建物取引業者の免許の取消事由と非常に似ています。免許の取消事由というのは、宅地建物取引業者に対する監督処分の一種ですが、宅地建物取引業者の免許を取り上げてしまうという処分です。どういう場合に免許を取り上げるかというと、宅地建物取引業者としてふさわしくなくなった場合です。
要するに、免許の基準は、最初に免許を取得する、いわば入口の部分で宅地建物取引業者としてふさわしくない者を排除する制度で、免許の取消は、宅地建物取引業者が業者としてふさわしくなくなったときに、免許を取り上げるもので、いわば出口の部分です。
このように、入口か出口かの違いがありますが、宅地建物取引業者としてふさわしくない者を排除するという機能では共通します。したがって、免許の基準と免許の取消事由は非常に似ています。この免許の基準をしっかり勉強していれば、同時に免許の取消事由の多くを覚えたことになります。
それだけではありません。宅地建物取引業法では、宅地建物取引業者に免許の基準があるように、宅地建物取引士にも「登録の基準」といって宅地建物取引士としてふさわしくない者を排除する規定があります。
宅地建物取引士というのは、宅地建物取引業者の中にいて、重要事項の説明等の業務を行うものですから、宅地建物取引業者としてふさわしくない者は、同時に宅地建物取引士としてもふさわしくない場合が多くなります。つまり、免許の基準と登録の基準も似ている。
さらに、宅地建物取引士の登録に対しても、監督処分として「登録の消除」という、宅地建物取引業者でいえば免許の取消処分に該当するものもあります。この登録の消除事由も、免許の基準に似ています。つまり、免許の基準≒免許取消処分事由≒登録の基準≒登録の消除処分事由となるので、免許の基準をしっかり勉強していれば、後の3つは、その違いさえ覚えれば、非常にラクに学習することができます。その意味でも、この登録の基準というのは、大変重要です。
それでは、登録の基準を一つずつ確認していくことになりますが、この登録の基準は大きく、形式的な基準と実質的基準があります。
以上を前提に登録の基準を一つずつ見ていきます。
2.免許申請書等の虚偽の記載等(第1項)
この基準は、「免許申請書若しくはその添付書類中に重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けている場合」であり、免許の基準の中でも形式的な基準です。
免許の申請書及びその添付書類は、その者に対して免許を与えるかどうかを判断するための資料ですから、申請書や添付書類に虚偽の記載があったり、重要な事項の記載が欠けていれば、免許権者が宅地建物取引業者としてふさわしいかどうかの判断が的確にできません。
したがって、これらの書類に虚偽記載等があれば、免許を拒否することになっています。
3.成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの(第1号)
これは比較的理解しやすいのではないかと思います。
成年被後見人は、単独で行った行為は日常生活に関する行為以外は取り消せますので、取引の安全を害します。
当然、宅建業は日常生活に関する行為とはいえませんので、宅建業に関する行為はすべて取り消せることになります。
また、被保佐人は「不動産の権利の得喪を目的とする行為」については、取引の都度、保佐人の同意を要することになりますので、これも取引の安全を害します。
また、破産者は破産財団に属する財産の処分権能を有しません。
これらの理由で上記の者は免許を取得することができないことになります。
この破産者については、破産者は復権を得れば、「翌日」から免許を取得できる点に注意して下さい。後で宅地建物取引業者が免許を取り消されれば「5年間」は免許を取得することができない、というような規定が出てきます。この一定の事由に該当すれば、5年間は免許を取得できないという規定はいくつかあります。それと混乱しないようにして下さい。破産者は復権を得れば、5年間待つ必要はなく、翌日から免許を取得することができます。
ちなみに、先ほどの破産者の復権というのは、簡単に言うと破産者が免責されて、債務を支払わなくてよくなることです。
なお、この翌日から免許を取得できるというのは、成年被後見人・被保佐人でも同様で、成年被後見人・被保佐人の審判が取り消されて普通の人に戻った場合でも、5年間待つ必要はなく、審判の取消の翌日から免許を取得することができます。
その他、この免許の基準を見て感じることは、未成年者というのも列挙されていないことです。未成年者は、未成年者であるというだけで、宅地建物取引業者の免許がもらえないということはありません。
未成年者でも宅地建物取引業者の免許を取得することは可能です。
ただ、この場合は法定代理人が免許の欠格事由(免許の基準のこと)に該当しないか問題になることがありますが、未成年者については後でまた出てきますので、そのときに詳細は述べます。
4.免許取消処分を受けた者(第2号)
法律の条文というのは難解ですよね。この条文も難しい。
この規定は簡単にいえば、宅地建物取引業の免許を取り消されたものは、5年間は免許をもらえません、という規定です。これは当然の規定です。
免許取消というのは、宅地建物取引業者としてふさわしくないから、免許を取り消されたわけです。その同じ人(又は法人)が、次の日に免許の申請をしても、免許を与えるわけにはいきません。5年間は免許をもらえない、という意味です。5年間は謹慎して下さい、ということです。
これによって、宅地建物取引業者の資質を確保しようとしているわけです。
次に、この免許を取り消された者は5年間免許をもらえないという規定は、この宅地建物取引業者が免許を取り消されたのが、「不正な手段で免許を取得した」、「業務停止処分事由に該当し情状が重い」、「業務停止処分に違反した」という3つの理由のどれかで免許を取り消された場合に限ります。
実は、免許取消事由というのはいろいろあります。そのいろいろある免許取消事由の中でも、上記の3つの場合だけ、5年間免許がもらえないということになります。これは、いろいろある免許取消事由の中でも、この3つは宅地建物取引業者として悪質だということです。したがって、この3つ以外の理由で免許を取り消された場合は、5年を待つことなく免許を取得することができます。
たとえば、免許取消事由の中で「1年間業務を休止した」という規定があります(業法第66条第1項第6号)。これは上記3つのどれにもあてはまりません。したがって、1年間業務を休止したことによって免許を取り消された場合は、他の欠格事由に該当しない限り、5年を待つことなく免許を取得することができます。
他に、破産で免許取消された場合(業法第66条第1項第7号)、免許の有効期間が満了した場合なども同様です。
また、役員が禁錮以上の刑に処せられたことを理由とする免許取消しは、法66条1項3号の規定に基づくものですから、その役員が退任しているのであれば、5年を待たずに直ちに免許を受けられます。
5.免許取消処分を受けた法人の役員
次に、その免許を取り消された法人である宅地建物取引業者の役員も同様です。
役員というのは、その会社の重要な決定に当たっていた者です。宅地建物取引業者が免許を取り消されたことについて責任があります。
したがって、たとえば宅地建物取引業者のA法人が免許を取り消された場合、A法人自身が5年間免許をもらえないだけでなく、A法人のa取締役などの役員も5年間宅地建物取引業の免許を取得できません。
A法人が免許を取り消されたので、そのAで役員をしていたaが、今度は個人として宅地建物取引業を行おうとして、a個人として宅地建物取引業の免許を申請しても5年間は免許をもらえないという意味です。
この役員については、「聴聞の期日及び場所の公示の日前60日以内に当該法人の役員」であった者も含まれるという点も気をつけて下さい。
これは宅地建物取引業法違反の後、直ちに役員を辞任して責任を免れようとするのを防ぐという趣旨です。
なお、この「聴聞の期日及び場所の公示の日前60日以内に当該法人の役員」というのは、文字通りの意味であり、聴聞の期日及び場所の公示日から起算して、その前に遡ること60日の間に役員であった者であり、公示日から免許取消処分の間に役員であった者は含まれないと考えられます。
これは聴聞の公示日後に会社の建て直しのために役員が就任する場合もあるからです。
最後に、ここの聴聞は、あくまで免許取消処分に関する聴聞です。業務停止処分のための聴聞は含まれていないので注意して下さい。
6.「役員」の意義
宅地建物取引業法が法人である場合について、宅地建物取引業法には「役員」という概念が多く登場します。
ここでは、その「役員」の概念についてまとめてみます。
この「役員」というのは、宅地建物取引業法では多義的に使われていますので、かなり複雑に感じる人も多いかと思います。
段階を負って順番に見ていきましょう。
7.業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者(15条2項等)
宅地建物取引業法15条2項の法人の「役員」について、専任の宅地建物取引士とみなすという、みなし規定があります。
ここで使われている「役員」の概念は、宅地建物取引業法では一番狭い概念です。
ここに監査役は含まれます。
8.(取締役等と)同等以上の支配力を有する者(5条1項2号等)
次に、もっと広い概念で、免許の基準に出てくる「役員」概念があります。
「業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問、その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。以下この条、第十八条第一項、第六十五条第二項及び第六十六条第一項において同じ。」となっています。
「業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者」だけでなく、「相談役、顧問、その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、上記の者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む」としています。
これは通常の「役員」という意味よりもかなり広くなります。
これは株式会社の取締役などとして名前が現れていなくても、相当数の株式を保有して会社をいわゆる黒幕的な存在として支配している者も含めようという趣旨です。
なお、ここでいう「役員」には、監査役そのものは入りません。
ここの役員概念は、免許の基準でも免許取消処分でも、役員が法人とともに連座責任を負わされる規定ですが、連座責任を負わされるのは、会社の業務執行の意思決定に携わっているからです。
監査役は、取締役等の業務や会計についてチェックする役割であって、法人の意思決定は行いません。
ただ、監査役でも、取締役等と同等以上の支配力があれば、支配力のある役員として、これに該当することはあり得ます。
9.各種の記載事項(4条1項2号等)
「(取締役等と)同等以上の支配力を有する者」と比べるとある意味では狭くなりますが、別の意味では広くなる「役員」の概念として、各種の名簿の記載事項等で出てくる「役員」の概念があります。
これは、「(取締役等と)同等以上の支配力を有する者」というのは含みませんが、監査役を含む概念です。
名簿の記載事項等では、会社で重要な役割を果たしている人は記載しなければいけませんので、監査役も入るわけです。
イメージで描けばこんな感じでしょうか。
最後にまとめの図表を入れておきます。
10.免許取消処分前に廃業の届出等(第1項2号の2)
前号の条文以上に難解な気がしますが、前に説明したように免許の取消処分を受けたものは、5年間は再度免許を取得することはできません。
また、その免許取消処分を受けた者が法人の場合は、役員も同様に5年間は免許を受けることができません。
ところで、この免許取消処分というのは、ある日突然処分がなされるということはありません。処分がなされる前に「聴聞」(ちょうもん)というのが開かれます。
これは、不利益な処分を受ける者に対して、弁明の機会を与えるものです。業者の言い分を聞いてくれるわけです。この業者の言い分を聞いた上で、免許取消処分がなされます。
ということは、免許取消処分を受ける宅地建物取引業者は、事前に免許が取り消されるかもしれないということが分かることになります。そこで、業者が自分から先手を打って廃業(先ほどの条文の表現でいうと、「宅地建物取引業の廃止」)すると、免許取消処分を免れることができます。
免許取消処分というのは、あくまで「宅地建物取引業者」に対する処分です。廃業して宅地建物取引業者でなくなっている者に対して免許を取り消すというのはおかしな話です。
しかし、このようにして免許取消処分を免れたものが、5年を待たずに免許を取得できるというのはおかしい、ということになります。
そこで、免許取消処分の聴聞が公示された場合に、合併したり、破産以外の理由で解散したり、廃業した宅地建物取引業者は、廃業等の届出の日から5年間は免許を取得することができないという規定です。
頭に入りやすいように簡単にまとめますと、免許取消処分を受ければ5年間は免許をもらえない。免許取消処分を免れるために廃業等の届出をしても、届出の日から5年間は免許をもらえません、という規定です。
なお、ここでは宅地建物取引業者の廃止(廃業)だけでなく、「解散」というのも入っていますが、免許取消処分を免れる目的で解散の決議をし、その旨届け出た後にこの決議を撤回して、その法人を存続させることがあり得ますので、廃業と同様5年間免許を受けることができないとしています。
そして、この解散については11条1項4号を見てもらえば分かりますが、合併と破産による解散を除いています。
これは、合併の場合は新設合併にせよ、吸収合併にせよ、合併した会社は存続しなくなり、個人でいうと死亡というのと同様、同じ会社が再度免許を取得しようとする事態は発生しなくなるからです。
また、破産の場合は、一般的にやむを得ずに破産するものであり、免許取消処分を免れるために破産するという事態は定型的に考えられないからです。
最後に、本条については「解散又は宅地建物取引業の廃止について相当の理由がある者を除く」となっていますが、これは先ほどの趣旨から分かりますように、免許取消処分を免れるような解散又は廃業ではなく、「相当な理由」がある解散・廃業であれば、免許を与えてよいからです。
この「相当の理由」があることの立証は、解散または廃業をした者がする必要があります。
11.免許取消処分前に廃業の届出等をした場合の役員等(第2号の3)
免許取消処分がなされた場合、その法人の役員も5年間は免許を取得できないという話をしましたが、それと同じで廃業等の届出をして免許取消処分を受けなかった場合でも、役員は届出の日から5年間は免許を取得できないという規定です。
つまり、第2号の2は、第2号の3とワンセットの規定になります。
12.禁錮以上の刑に処せられた者(第1項3号)
この号と次号は、刑罰を受けた者に対する基準です。
簡単に言うと、刑罰を受けたような者は、反社会的なことをしたわけだから、宅地建物取引業者として不適格だという話です。
本号は、「禁錮以上の刑を受けた者」の話です。
刑罰は種類があって、軽い順から
科料→拘留→罰金→禁錮→懲役→死刑
となっています。
死刑に処されたものが、宅地建物取引業の免許を申請するとは思えないので、「罰金→禁錮→懲役」という部分が重要。これは覚えて下さい。
ちなみに、禁固と懲役の違いは、懲役は「刑事施設に拘置して所定の作業を行」うことが義務付けられていて、禁固には義務付けられていない点です。つまり、刑務所でいろいろな作業が行われますよね。あれが義務付けられているかどうかの違いです。
話を戻して、禁錮以上の刑、つまり禁錮と懲役に処せられたものは、5年間は免許がもらえないという点を覚えて下さい。
この場合、禁錮以上の刑に処せられた犯罪が限定されていない点がポイントです。
禁錮以上の刑であれば、宅建業法の規定に違反した場合はもちろん、それに限定されず、宅地建物取引業とは関係ないような犯罪であっても、5年間は免許を取得することができません。
たとえば、刑法、道路交通法、公職選挙法、国土利用計画法等、どんな法令の規定に違反しても禁錮以上の刑を受ければダメです。
5年間というのは、「刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日」から5年です。
「刑の執行を終わり」とは、現実に刑の執行が完了した場合のことで、簡単に言えば刑務所を出てから5年です。判決の確定からではありません。
また、「刑の執行を受けることがなくなった」とは、刑の執行が免除された場合をいいます。
刑の時効が完成した場合(刑法第31条、第32条)、恩赦として刑の執行の免除を受けた場合(恩赦法8条)がありますが、仮出獄中における刑期満了等の事由により刑の執行の免除を得た場合も含みます。
13.一定の犯罪で罰金刑に処せられた者(第3号の2)
この規定は、まず「罰金刑」に関するものだ、という点を押さえておいて下さい。
3号は禁錮以上の刑
3号の2は罰金刑
これらの犯罪を犯した者は、5年間は免許をもらえません、という規定です。
ただ、禁錮以上の刑というのは重いので、反社会性が強い。したがって、宅地建物取引業に関係ないような、どんな犯罪でも、禁錮以上の刑に処せられたならば、5年間は免許をもらえない。
ところが、罰金刑というのは、それに比べると軽い。したがって、宅地建物取引業に関係するような「一定の犯罪」で罰金刑に処せられた者だけ、5年間は免許をもらえないとしています。つまり、犯罪が限定されています。
問題は、この「一定の犯罪」というのはどういうものかです。大雑把にいえば宅地建物取引業に関係するような犯罪ということですが、大きく3つに分けることができます。
一つは、宅地建物取引業法違反で罰金刑を受けた場合です。これはよく分かる。
二つ目は、暴力的な犯罪で罰金刑に処せられた場合です。宅地建物取引業というのは、どうしても暴力団などが絡んできます。こういう者を排除しようという趣旨です。具体的には、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定に違反したことにより、又は刑法の傷害罪、傷害現場助勢罪、暴行罪、凶器準備集合及び結集罪、脅迫罪、暴力行為等処罰に関する法律の罪、ということになります。
ここで、気を付けてもらいたいのは、ここには過失犯というのはふくまれていないことです。過失犯というのは、誰でも不注意で起こしてしまう可能性のある犯罪です。たとえば、過失傷害で罰金刑に処せられたとしても、5年を待たずに免許を取得することができます。
次に、三つ目ですが「背任罪」です。背任罪というのは、刑法上の犯罪ですが、先ほどのものとは異なり、暴力的とは言えません。ちなみに、背任罪というのは、人から仕事を頼まれた者が、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を与えたような場合です。宅地建物取引業というのは、高額な商品を扱うので、人の信頼を裏切るような背任罪を犯した者は、宅地建物取引業者として不適切だということです。
これら以外の罪(例えば業務妨害の罪・道路交通法違反)により罰金の刑に処せられても、本号には該当しませんので、他の欠格要件に該当しない限り、免許を受けることができます。
なお、罰金以外の「科料」や「過料」については、欠格事由(免許の基準)に該当しないというのも確認しておいて下さい。
「科料」というのは罰金の軽いもの、「過料」というのは行政罰で、刑罰ではありません。
14.執行猶予の問題
この3号と3号の2の刑罰については、執行猶予の扱いについて気をつけて下さい。執行猶予というのは、ご存じだと思いますが、裁判で有罪だと認定されても、実際に刑務所に入ったりする必要はなく、その刑罰の執行が猶予される場合です。
この執行猶予期間中は、免許を受けることはできません。しかし、執行猶予が取り消されることなく、執行猶予期間が満了しますと、「刑の言渡しは、効力を失う」ことになります。刑が言い渡されていなかったことになるので、5年を待つことなく、猶予期間満了の翌日から免許を取得することができます。
ちなみに、罰金についても執行猶予というのがありますので、注意して下さい。罰金の執行猶予というのは、罰金の納付が猶予されるということです。
15.恩赦等
執行猶予期間が満了したものと似たものとして、大赦・特赦というのもありますが、大赦、特赦を受けた場合は、刑の執行を免除されるのではなく、刑の言渡しの効力が失われますから(恩赦法3条、5条)、その日の翌日から免許を受けることができます。
すなわち、そもそも刑に処せられなかったこととなります(また実際上も刑の言渡しが失効すると、戸籍役場において保管される犯罪人名簿から抹消されるので、行政庁としては、もはや刑の言渡しを受けた事実を知る手段がない)。
16.上訴期間中
次に、上訴期間中の扱いです。
裁判では、三審制がとられているので、地方裁判所で有罪になっても、高等裁判所に控訴したり、最高裁判所に上告したりできます。
このように上訴期間中というのは、刑はまだ確定しておらず、上の裁判所で逆転で無罪になることもあります。したがって、上訴期間中は免許を受けることができます。
もちろん、上訴期間中に免許を受け、上の裁判所で有罪が確定すれば、刑罰に処せられた場合として、免許取消処分に処せられます。
17.免許の申請前5年以内に宅地建物取引業に関し不正な行為等(第1項4号)
これは内容的には非常に分かりやすい話です。
このような者に免許を与えることが不適当であることは明白です。
この不正又は不当な行為は、宅地建物取引業に関して、宅地建物取引業者として不正または著しく不当な行為をしただけでなく、免許を得ていない当時にこのような行為をしたことがある者等もこれに該当します。
ただ、この条文は、具体例のイメージがわかないという人が多いでしょうね。
【具体例】
- 過去に国土利用計画法第23条の届出をしないで売買を行う
- 免許の申請前に無免許で営業
- 無免許営業者と提携して業務行為
- 取引の相手方の無知や不注意に便乗して不当な取引行為を行った
- 免許を受けている期間中に何度も業務停止処分を受けた者、指示処分違反を繰り返した者
- 不当な行為により取引の関係者に対して重大な損害を与えた者
- 宅地建物取引業者の使用人等として悪質な宅建業法違反を行っていた者
18.宅地建物取引業に関し不正な行為等をするおそれが明らかな者(第1項5号)
これも内容的には非常に分かりやすい。やっぱり具体例でみたいところです。
たとえば、役員が指定暴力団の構成員であったり、宅地建物取引業やこれに類似した事業(例えば建設業等)に関して、詐欺、脅迫等の不正な行為をしたり、重大な契約違反等の不誠実な行為をしたことがあり、今後もそのような行為を繰り返すおそれが明らかに認められる者等です。
19.成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が欠格事由に該当(第1項6号)
これは、未成年者に関する規定です。前に未成年者は、免許を取得できるという話をしました。
ただ、この未成年者については気を付けないといけないことがあります。
それは、この未成年者を「営業に関し成年者と同一の行為能力を有する」未成年者と、「営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない」未成年者に分けて考えることです。
民法6条で、「営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。」という規定があります。
つまり、未成年者は法定代理人から営業を許可されると、一人で契約等を行うことができます。
したがって、このような「営業に関し成年者と同一の行為能力を有する」未成年者は、未成年者自身が免許の基準に該当するかどうかで免許を与えるかどうかを判断され、未成年者であること自体が免許を与えることの障害にはなりません。
ところが、このような営業の許可を得ていない未成年者、つまり「営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない」未成年者は、自分では単独で契約等をすることができませんので、法定代理人が代わりに契約したり、法定代理人の同意が必要になります。
したがって、このような未成年者が免許の申請をした場合は、法定代理人が宅地建物取引業者としてふさわしいかどうか、つまり免許の基準に該当するかどうかで免許を与えるかどうかを判断することになります。
ただし、20歳未満の者で婚姻した者は、成年に達した者とみなされるので(民法第753条)、成年者と同一の行為能力を有することになります。
20.法人でその役員等のうちに第1号から第5号までのいずれかに該当(第1項7号)
法人の場合は、法人自身だけでなく、役員の中に免許の基準にひっかかる者がいれば、その法人は免許を取得することができません。
役員は、法人内において重要な地位を占めているわけですから、法人自身が免許の欠格事由に該当するのに等しいといえるからです。
たとえば、A法人が免許の申請をしたが、その法人の中にたとえば禁錮以上の刑に処せられて、その執行が終了した時から5年を経過しない役員がいた場合は、A法人は免許を取得することができないということです。
これは役員だけでなく、「政令で定める使用人」も同様です。
「政令で定める使用人」とは、支店の支店長のような人のことを指します。
また、本号は、役員または政令で定める使用人の欠格事由についてだけ問題にしており、「専任の宅地建物取引士」というのは問題にしていないので、専任の宅地建物取引士が欠格事由のいずれかに該当したとしても、他の欠格要件に該当しない限り、免許を受けることができます。
なお、法人の相談役等の役員が「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」により都道府県公安委員会が指定した暴力団の構成員であり、その支配力を大きく受ける株式会社等の法人の場合、この役員は具体的には欠格事由のどれにも該当していないので、本号により免許が取得できないということにはなりませんが、「宅地建物取引業に関して不正または不誠実な行為をするおそれが明らかな者」(第5号)に該当して、その法人は、免許を受けることができません。
21.2号と本号の関係
ところで、第5条1項の免許の欠格事由の規定で、第2号に法人が一定の事由で免許取消処分を受けた場合は、その役員は5年間免許を受けることができないという規定がありました。
第2号の3の免許取消処分の聴聞の公示日後の廃業等の際の役員も同趣旨の規定で、今からの記述がそのまま当てはまります。
この第2号の規定では、「役員」は出てきますが、「政令で定める使用人」というのは出てきません。
つまり、法人が免許取消処分を受けたときの政令で定める使用人は、5年を待つことなく免許を取得することができます。
ところが、本号では政令で定める使用人というのも対象になっています。
また、免許取消処分事由は、政令で定める使用人も対象になっています。
第66条1項3号「法人である場合において、その役員又は政令で定める使用人のうちに第五条第一項第一号から第三号の二までのいずれかに該当する者があるに至ったとき」
たとえば、甲社があって、その法人には役員A、政令で定める使用人Bがいます。
この甲社が不正の手段により免許を取得したということで免許取消処分を受ければ、甲社自身だけでなく、役員Aは5年間免許を受けることができませんが、政令で定める使用人Bは5年を待つことなく免許を受けることができます。
ところが、乙社が宅地建物取引業の免許を取得しようとするときに、役員が欠格事由に該当すれば免許を取得できないだけでなく、政令で定める使用人が欠格事由に該当する場合にも、免許を取得することができません。
22.個人で政令で定める使用人のうちに第1号から第5号までのいずれかに該当(第1項8号)
前号は法人の場合でしたが、個人で宅地建物取引業を営んでいる場合であっても、その政令で定める使用人が免許の基準のいずれかに該当する場合は、その個人も免許を取得することができません。
政令で定める使用人は、「宅地建物取引業者の使用人で、宅地建物取引業に関し事務所の代表者であるもの」(施行令2条の2)を指し、具体的には支店長のような人です。
23.事務所について専任の宅地建物取引士の設置義務を欠く者(第1項9号)
宅地建物取引業者の事務所には、5人に1人以上の割合で、また事務所以外の案内所等には、業務に従事する者の数に関係なく、1人の専任の宅地建物取引士を設置する必要があります。
当然、最初に免許を取得しようとする段階でも、この専任の宅地建物取引士を設置しておかないといけません。この専任の宅地建物取引士の数が足りない者に免許を与えるわけにはいきません。
したがって、新たに免許を受けようとする者は、自ら宅地建物取引士の資格を有していて、それで法定数の要件を満たしている場合は問題ないとしても、そうでない場合は、あらかじめ事務所を設置して、その事務所で働く専任の宅地建物取引士になるべき者と雇用契約を締結するなどして、免許がおり次第営業を開始しうる状態にあることが必要ということになります。