※この記事は一般的な条文解説で、宅建等の資格試験の範囲を超えた内容も含みます。当サイトの記事が読みやすいと感じた方は、当サイトと資格試験向け教材の関係をご覧下さい。

宅建業法3条(免許)

【解説】

1.免許制度

宅地建物取引業を行うには「免許」が必要です。

この「免許」と言うのは、法的には「許可」といわれるもので、ある業務を営むことを一般的に法律で制限・禁止した上で、一定の要件を満たす者だけその制限・禁止が解除され、その業務を営むことができることになるというものです。

ただ、宅地建物取引業法25条に規定されていますように、宅地建物取引業の免許を取得すれば、すぐに業務を営めるというわけではなく、営業保証金を供託し、供託した旨の届出をしなければ、宅地建物取引業の事業を開始することができません。

つまり、免許を取得したということは、宅地建物取引業を営むことができる地位を取得したにすぎず、実際の事業の開始には営業保証金の供託及びその届出が必要だということです。

なぜ、宅地建物取引業についてこのような免許制度が取られているのでしょうか。

不動産というのは、非常に高額な商品です。多くの人にとって、マイホームを買うというのは、一生で一番大きな買い物になるでしょう。

また、不動産というのは、その権利関係が非常に複雑であり、不動産を売買したり、その媒介をしたりするには、専門的な知識と豊富な取引経験が必要であり、誰でも自由に宅地建物取引業を営むことを認めるわけにはいきません。

そこで、悪質な業者を排除し、このような業務に携わるについて適格な者に限って業務が営めるよう免許制度が取られているわけです。

なお、一旦免許が与えられたとしても、宅地建物取引業の適正を図るために、不正な取引等に対しては損害賠償等の民事上の責任だけでなく、宅地建物取引業法は監督官庁の指示処分、業務停止処分、免許取消処分等の行政上の措置をとったり、罰則などの制裁を課すことができるようになっています。

2.免許権者(第1項)

宅地建物取引業を行うとすると、免許が必要なわけですが、どこに免許を申請しに行けばいいでしょうか。これは場合を分けて考えないといけません。

結論から言うと、「宅地建物取引業を営もうとする者は、二以上の都道府県の区域内に事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあっては国土交通大臣の、一の都道府県の区域内にのみ事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあっては当該事務所の所在地を管轄する都道府県知事の免許を受けなければならない。」ということになります。

要するに、一つの都道府県内だけに「事務所」を設置する場合は、その都道府県知事の免許、2以上の都道府県に「事務所」を設置する場合は、国土交通大臣の免許が必要だというわけです。

これはしっかり覚えておかないといけませんが、話としてはそんなに難しいものではないと思います。

この免許を与えた国土交通大臣又は都道府県知事を免許権者といいます。

つまり、免許権者は国土交通大臣の場合と都道府県知事の場合があるわけですが、この大臣免許と知事免許は効力としては同じであり、大臣免許の方が格が上であるというようなことはありません。また、規模の大小により決まるというわけでもありません。

3.事務所

免許権者のところで問題なのは、免許権者を決定するのは「事務所」が基準になっています。

この免許権者に限らず、宅地建物取引業法では「事務所」というのがいろいろな場面で基準となっています。

そこで、この「事務所」の意味が問題になります。本条では「本店、支店その他の政令で定めるものをいう。」となっていますが、本店・支店というのは比較的分かりやすいですが、「その他の政令で定めるもの」というのが分からないですね。それも含めて説明します。これは覚えておいて下さい。

この「事務所」は3つあります。この3つは覚えて下さい。

① 本店(主たる事務所)
② 支店(従たる事務所)
③ 継続的に業務を行なうことができる施設を有する場所で、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くもの

(1) 本店及び支店

まず、本店・支店ですが、これは説明しなくても分かると思います。主たる事務所・従たる事務所という表現で出てくることも多いです。

宅地建物取引業者の免許を株式会社のような営利社団法人が受ける場合には、基本的には本店または支店の登記がなされているものがこれに当たります。

公益社団法人のような団体が宅地建物取引業を営むこともありますが、その場合はその本拠地である主たる事務所、その他の従たる事務所が「事務所」に該当します。

もっとも、支店の登記があっても支店としての実体を備えていない場合には、事務所には該当しないとされます。

実体上支店といえるためには、一定の範囲内で本店から独立して取引上の決定がなされることが必要で、このためには少なくとも支店には代理権および一定の範囲での独立した決定権を有する者(すなわち支店長)が必要です。したがって、このような人間を欠いている場合は、支店の登記があっても事務所としては取り扱われません。

(2) 継続的に業務を行なうことができる施設を有する場所で、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くもの

一番分かりにくいのは、これでしょうね。必ずしも名称だけで決まるわけではありませんが、これをイメージとして分かりやすく言えば、俗に「営業所」といわれているものがこれに当たります。

③のポイントは、「施設」と「使用人」の要件です。継続的に業務を行うことができる「施設」を有する場所で、宅地建物取引業にかかる契約を締結する権限を有する「使用人」を置くという要件を満たしたものが、本店・支店以外でも事務所として認められます。

「継続的に業務を行なうことができる施設」というのは、テント張りの案内所等の移動の容易な施設は除かれます。

「宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人」というのは、支店における支店長や支配人に相当する者で、このような者が常時勤務することが必要です。

ただ、営業所長、店長というような肩書を有している者がいても、売買等の契約を締結する権限がなく、契約を締結するようなときは、近くの本店または支店で行うことになっている場合には、「事務所」に該当しないことになります。

なお、以上の実質的な要件があれば、事務所に該当するのであり、商業登記簿に登載されているかどうかは問いません。

(3) 案内所等

宅地建物取引業者は、この事務所以外にも、宅地建物の分譲を行う際には、「案内所」などを設置して営業を行いますが、この「案内所」は「事務所」には該当しません。したがって、免許権者を決定する際には考慮しません。これは注意して下さい。

(4) その他の問題

さて、この事務所に関して、もう一つ混乱しやすい難しい問題があります。この事務所というのは、基本的には「宅地建物取引業」を営んでいる事務所が、宅地建物取引業法上の事務所に該当します。よく宅地建物取引業以外にも建設業も兼業しているような会社があります。

今、本店がA県にあり宅地建物取引業を営んでおり、支店がB県にあり、支店でも宅地建物取引業を営んでいます。この会社の免許権者は誰でしょうか?これは簡単です。本店も支店も宅地建物取引業を営んでいるので「事務所」に該当し、それが複数の都道府県にまたがっているので、国土交通大臣免許です。

次に、本店がA県にあり宅地建物取引業を営んでいるが、B県の支店は宅地建物取引業を営んでいない場合の免許権者は誰か?これも簡単でしょう。支店では宅地建物取引業を営んでいない以上、宅地建物取引業法上の事務所は、本店だけなので、A県知事免許です。

ちなみに、支店では「自ら貸借」しかしていない場合は、「自ら貸借」は宅地建物取引業ではありませんので、支店は事務所に該当しません。自ら貸借が宅地建物取引業に当たらないというのは、こういう形でさりげなく問われる場合があるので、気を付けて下さい。

この手の問題で一番ひっかかりやすいのは、A県の本店では宅地建物取引業を営んでいないが、B県の支店では宅地建物取引業を営んでいる場合です。この場合に、B県知事免許が必要だ、と答えたらそれは間違いになります。

本店では宅地建物取引業を営んでいなくても、支店で宅地建物取引業を営んでいれば、この場合の本店は宅地建物取引業法上の「事務所」に該当します。

理由は、本店は支店を統括しているので、本店自身は宅地建物取引業を営んでいなくても、宅地建物取引業法上の事務所として扱うのが適当だからです。

したがって、この場合は国土交通大臣の免許が必要ということになります。

(5) 宅建業法上「事務所」が基準になっている場合

この「事務所」の概念は、免許権者が誰かというだけでなく、宅地建物取引業法上いろいろな場面で重要な基準となっています。

そこで、宅地建物取引業法上、「事務所」が判断の基準となっている場合をまとめておきましょう。

① 免許権者(3条1項)
② 免許換えの手続が必要か(7条)
③ 宅地建物取引業者名簿に登載すべき事項、その変更の届出の有無(8条、9条)
④ 専任の宅地建物取引士の設置義務(15条1項)
⑤ 営業保証金の額の算定、供託場所(25条、26条、29条)
⑥ クーリング・オフできる場所(37条の2)
⑦ 報酬額の掲示(46条4項)
⑧ 従業著名簿の備付け(48条3項)
⑨ 業務に関する帳簿の備付け(49条)
⑩ 標識の掲示(50条1項)
⑪ 事務所の所在地の不確知による免許取消処分(67条)

4.免許の地域的な効果

次は、免許の地域的な効果ですが、これは全国です。

たとえ、都道府県知事免許であっても、免許を受けた都道府県だけでなく、全国で営業できます。これは当たり前です。都道府県知事免許の宅地建物取引業者でも、普通に隣県などの物件を扱っています。

ただし、免許を受けた都道府県以外で10区画又は10戸以上の一団の宅地建物の分譲を行う場合に、契約の申込み等を受ける案内所を設置するときは、宅地建物取引業者は免許権者だけでなく、案内所の所在地を管轄する都道府県知事に「届出」を行う必要はあります。 →宅地建物取引業法50条2項参照

このように、免許権者は事務所の設置場所によって決まるにもかかわらず、宅地建物取引業者の営業活動は全国に渡っているので、免許権者だけで宅地建物取引業者の営業活動のすべてを把握し、適切な指導監督をすることは事実上困難ですから、「国土交通大臣はすべての宅地建物取引業者に対して、都道府県知事は当該都道府県の区域内で宅地建物取引業を営む宅地建物取引業者に対して、宅地建物取引業の適正な運営を確保し、又は宅地建物取引業の健全な発達を図るため必要な指導、助言及び勧告をすることができる。」とされています。 →宅地建物取引業法71条参照

つまり、A県知事免許の宅地建物取引業者が、B県で営業を行う場合には、B県知事も指導、助言及び勧告をすることができます。

5.一身専属性

また、宅地建物取引業の免許は「一身専属的」です。これは免許を受けた者のみに一身専属的に帰属して、免許の承継(相続、譲渡等)は認められません。

たとえば、個人で宅地建物取引業の免許を受けた者が、法人成りして、個人から法人へ変わったような場合です。この場合でも、個人と法人は別人格ですから、法人として免許を取り直さないといけません。

また、建設業の許可しかない株式会社Aが、宅地建物取引業者Bを吸収合併し、宅地建物取引業も営もうとする場合、Aは新たに免許を受けないと宅地建物取引業を営むことはできません。

6.免許の有効期間(第2項)

免許には、有効期間が定められています。

これは、免許を取得するときには、免許の基準(5条)を満たしているとしても、これは時の経過により変化します。

この免許の基準に適合しなくなった場合には、免許取消処分に処することは当然として、一定期間ごとに定期的に免許の資格要件に合致するどうかを判断することが必要になるからです。

この免許の有効期間は、5年です。この数字はしっかり覚えて下さい。

7.免許の更新(第3項)

免許の有効期間は5年ですが、有効期間が満了しても宅地建物取引業を続けるのが普通でしょうから、宅地建物取引業を継続する場合には、5年ごとに免許を更新するという形になります。

この免許を更新する際の手続として気を付けないといけないのは、「免許の更新を受けようとする者は、免許の有効期間満了の日の90日前から30日前までの間に免許申請書を提出しなければならない。」ということです。

明日免許の有効期間が来るので、今日更新申請するというのでは、免許権者は困ってしまいます。遅すぎず、早すぎずという期間が「90日前から30日前」です。これも数字を覚える。

8.有効期間満了後も処分がなされない場合(第4~5項)

このように免許の更新は、期限が決まっていますが、宅地建物取引業者の方は、この更新申請の期間を守ったけれども、免許権者の方の更新の処分が遅れた場合の規定が第4項です。

免許権者が審査に手間取った場合には、このようなこともあり得ます。

というのは、免許の審査においては、事務所が法定の要件を満たしているかどうか、免許申請者またはその役員等が一定の欠格要件に該当していないかどうかなど、関係行政機関からの情報の収集等を不可欠とすることも多く、欠格要件に該当する疑いの強い業者や事務所数の多い業者などについては慎重な審査を要することもあるためです。

そうだとしても、免許の更新を申請したが、免許権者が審査に手間取って、免許の有効期間が満了しても新しい免許が下りてこない。こうなると宅地建物取引業者は業務が行えません。

そこで、従来の免許のまま業務を行っていいですよ。ただ、新しい免許は、新しい免許が下りた日からではなく、「従前の免許の有効期間の満了の日の翌日」から起算して5年だということです。

9.免許手数料等(第6項)

宅地建物取引業者になろうとする者が免許を取得する際には、お金が必要となります。

法律では、国土交通大臣免許の場合が規定されていて、下記のようになっています。