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民法921条(法定単純承認)

【解説】

1.法定単純承認

本条は、相続人が一定の行為等をした場合に単純承認をしたものとみなす法定単純承認について規定されていますが、趣旨は各号によって異なるので、それぞれについて説明します。

2.相続財産の処分(第1号)

相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます。

相続財産の処分は、単純承認をした場合でなければできない行為であり、単純承認の黙示の意思表示があると考えられますし、第三者も単純承認があったものと信ずるからです(大判大9.12.17)。

この「処分」というのは、相続財産を毀滅させるような事実上の処分と、相続財産を売却するような法律上の処分の両方を含みます。

なお、「処分」は、限定承認や相続放棄の前になされたものであることが必要です。限定承認や相続放棄の後になされた場合は、本条第3号の「私にこれを消費した」場合の問題になります。

ただし、保存行為や第602条に定める期間を超えない賃貸(短期賃貸借)は、この処分に含まず、保存行為等をしても、単純承認とはみなされません(本号但書)。

3.限定承認又は相続の放棄をしなかったとき(第2号)

限定承認と放棄については、民法にその手続の規定がありますが、単純承認については特に手続に関する規定はなく、通常は何の手続も取らず、本号の単純承認になることが多いと思われます。

4.相続財産の隠匿等(第3号)

相続人が、限定承認をした場合は、相続財産を限度として債務や遺贈を弁済しなければいけません。また、相続を放棄した場合は、相続人のために相続財産を管理する義務があります(940条)。
したがって、限定承認や相続放棄をした後に、相続財産の隠匿等のような背信行為をしたときは、一種の制裁として、単純承認をしたものとみなされます。