民法899条(共同相続の効力)
【解説】
1.共同相続の効力
相続人が数人いる場合は、相続財産は基本的に共有になります(民法898条)。
共有ということになると、物権の「共有」の規定によると、持分は均等と推定されますが(民法250条)、相続財産においては相続分によって決まると定めたのが本条です。
条文では、相続分に応じて被相続人の「権利」「義務」を承継するとなっていますが、まず「権利」である「債権」について説明していきます。
(1)債権
①可分債権
まず金銭債権のような可分債権は、相続分に応じて相続開始と同時に法律上当然に共同相続人に分割されるというのが判例です(最判昭29.4.8)。
②不可分債権
不可分債権については、遺産分割までは分割帰属することはなく、各債権者はすべての債権者のために履行を請求することができます(民法428条)。
(2)債務
①可分債務
可分債権の場合と同じで、判例は、金銭債務のような可分債務も、法律上当然に分割されて各相続人は相続分に応じて責任を負えばよいとしています(大決昭和5.12.4)。
②連帯債務
債務の中でも連帯債務については、判例は連帯債務の相続についても分割主義をとっており、原債務は当然分割され、各共同相続人は相続分に応じて承継した債務の範囲を負担部分として、本来の連帯債務者と連帯責任を負うとしている(最判昭34.6.19)。
具体的には、Aに対してB及びCが1,000万円の連帯債務を負っているとします。
そして、連帯債務者の一人のBが死亡して、甲及び乙がそれぞれ相続分が1/2として、Bを相続したとします。
この場合は、判例の考え方によると、甲及び乙は1,000万円の連帯債務を分割して承継し、甲=500万円、乙=500万円の連帯債務をCとともに負うことになります。
まとめると、
甲=500万円、乙=500万円、C=1,000万円の連帯債務を負うことになります。
③不可分債務
相続された債務が不可分債務の場合は、遺産分割の前後を通じて、各相続人が全部について履行の責を負うことになります。
つまり、不可分のままということです。
【判例に現れた不可分債務の具体例】
- 被相続人が譲渡した不動産の引渡債務(大判昭10.11.22)
- 土地所有権移転登記義務(最判昭36.12.15)
- 不動産明渡義務(大阪高判昭32.7.12)
- 農地の売買について売主の負担する知事に対する許可申請協力義務(最判昭38.10.1)
- 賃料支払義務(大判大11.11.24)
- 賃貸物を使用収益させる賃貸借契約上の債務(最判昭45.5.22)