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民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)

【解説】

1.工作物責任とは

この工作物責任については、関係者がいろいろ出てきてややこしいので、まず頭の中を整理して覚えておいて下さい。ということで、まず具体例から紹介していきましょう。

上図を見て下さい。AがBと請負契約を締結し建物を建築したとします。Aが建物の所有者です。Aはその建物を現在Cに賃貸中です。Cが占有者ということになります。しかし、請負人Bの工事の仕方が悪く、建物の外壁が壊れ、通行人のDがケガをしたという事例です。このような「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じた」場合の不法行為責任を工作物責任といいます。

2.占有者の第一次的責任(過失責任)

こういう場合に誰が責任を負うのかというと、第一次的には占有者(先ほどの事例ではC)が責任を負います。

ただ、この占有者の責任は、過失責任で、「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」は、責任を免れます。たとえば、建物の外壁にヒビが入っているのを知っていたのに、それを修理したり、所有者に通知したりしていなかったなどの過失があれば、占有者が責任を負いますが、そのような過失がなければ責任を負いません。

3.所有者の第二次的責任(無過失責任)

それでは、占有者に過失がない場合は、誰が責任を負うのかというと、それは所有者が負います。

この所有者の責任について気を付けておいて欲しいのは、まず、占有者に過失があって責任を負うときは、所有者は責任を負う必要はないということです。

次に、この所有者の責任は無過失責任であるという点です。これは重要です。占有者は、自分に過失がなければ、責任を免れることが可能ですが、所有者はいくら自分に過失がないといっても免責されません。

4.請負人の責任

しかし、先ほどの事例では、もともと請負人であるBの工事が原因で瑕疵が生じています。このような場合の請負人の責任はどうなるのでしょうか?

まず、ケガをしたDが直接Bに対して損害賠償を請求できるでしょうか?これはできます。根拠は、一般不法行為責任です。つまり、Bの工事についての故意・過失で、最終的にはDがケガをしたわけです。したがって、DはBに対して不法行為責任を追及できます。

それならば、占有者の第一次的責任だの、所有者の第二次的責任だのと、ややこしいことを言わず、ズバリBが責任を負えばいいではないか、となりそうですが、そうはいきません。

実は、不法行為責任というのは、立証責任が被害者側にあります。つまり、Dは一般の不法行為責任をBに問おうとすると、Bの故意・過失を立証しないといけません。工務店でも建築会社でもないDに、工事についての過失を立証するというのは非常に難しい。

そこで、占有者に第一次的責任、所有者に第二次的責任を認め、さらに所有者には「無過失」責任を負わせることによって、Dはとにかく所有者からは絶対に賠償してもらえるとしたのが工作物責任です。

5.占有者又は所有者の求償権

占有者が第一次的な過失責任、所有者が第二次的な無過失責任を負うという話でしたが、この占有者又は所有者が被害者に対して賠償した場合であっても、根本的には請負人Bの仕事に瑕疵があったために、外壁が崩れたわけです。

この場合には、被害者に賠償した占有者又は所有者は、この請負人に対して求償権を行使することができます。

「損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。」というわけです。つまり、被害者に対しては、最終的に所有者に無過失責任を負わせることによって、絶対に賠償をしてもらえるようにしつつ、請負人のような真の責任者に対しては、所有者又は占有者から求償権という形で請求させているわけですね。