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民法715条(使用者等の責任)

【解説】

1.使用者責任とは(総論)

使用者責任というのは、たとえば、宅地建物取引業者Aに従業員Bがいて、このBの虚偽の説明で、顧客Cに損害が生じたとします。

まず、用語ですが、雇っている人、この例では宅地建物取引業者Aを「使用者」といいます。これは分かりやすいでしょう。雇われている人、この例では従業員Bを「被用者」といいます。これは用語ですので覚えて下さい。

「使用者」責任というくらいですから、この従業員Bの不法行為について使用者のAが責任を負うというのが使用者責任です。

従業員の不法行為について、なぜ使用者が責任を負うのか、ということについては、「報償責任」の原則に基づくんだと言われます。なんだか難しい話ですが、「報償責任」というのは、使用者は、被用者を使って手広く事業の範囲を広げ、利益を上げているではないか。それならば被用者の不法行為責任も取るべきだ、という考え方です。つまり、儲けるときだけ被用者を使いながら、不法行為責任の話になると、それは被用者の責任で、私(使用者)は知らないというのは勝手だ、という考えです。

また、被害者救済という観点からは、先ほどの被用者は、従業員つまりサラリーマンですが、不動産取引の被害というのは、場合によっては何千万円、あるいは億単位になる可能性もあります。このような高額の賠償をサラリーマンが支払えるとも思えません。被害者としては、やはり会社を相手にしたい。

2.事業の執行

この被用者の不法行為について使用者が責任を負うというのは、被用者の行為が「事業の執行について」第三者に損害を与えた場合に限ります。

これは当たり前の話で、社員が、会社の休日に、全くの私用で、自分の車を運転し、事故を起こしたというような場合にまで、会社が責任を負う必要は全くありません。

ただ、この「事業の執行について」というのも微妙で、厳密には被用者の職務行為そのものではないが、相手から見れば、その被用者の職務行為だと思うような行為もありますよね。そのような行為について、「それは職務行為ではない」という理由で会社に免責を認めることになれば、被害者としては救済されません。

そこで、判例は「行為の外形から判断して被用者の職務行為に属すると認められるもの」は、「事業の執行について」といえるとしています。外形標準説といいます。

3.使用者の免責

ただ、この使用者責任も使用者に全く責任がない場合は、使用者は責任を負う必要はありません。「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」には使用者責任は生じません。

しかし、この点については判例などは滅多なことでは、この使用者の免責を認めませんので、基本的には被用者の不法行為があれば、使用者は責任を負うと考えてもらえばいいでしょう。

4.使用者と被用者の責任の関係

この被用者の行為について、使用者が責任を負うというのは、その当然の前提として、被用者自身に不法行為が成立していることが前提です。たとえば、被用者に過失もなくて、被用者自身に不法行為が成立しない場合は、使用者も責任を負いません。

また、使用者が責任を負うからといって、被用者が免責されるわけでもありません。つまり、使用者の責任と被用者の責任は併存します。

さらに、この両者は「連帯」して、被害者に賠償する義務があります。これが一番被害者の保護になるわけですよね。被害者としては、直接の不法行為者である被用者でも、使用者でも好きな方に全額賠償請求をすることができます。

この「連帯」して債務を負担するというのは、いわゆる「連帯債務」とは異なります。というのは、連帯債務には絶対効というのがあって、たとえば1人の債務が時効消滅したような場合には、その者の負担部分については、他の連帯債務者も債務を免れてしまうので、被害者の保護にならない場合があります。

そこで、このような場合を不真正連帯債務といって、通常の連帯債務と異なり、弁済のような債権が満足するもの以外は絶対効を生じません。

5.使用者から被用者への求償

そして、被害者の多くは、やはり使用者に全額の賠償請求をするでしょう。それを受けて使用者が、被害者に全額賠償した場合は、使用者は「信義則上相当な範囲」で被用者に求償することができます。

被用者の不法行為だからといって、使用者は賠償した全額を求償できるわけではありません。求償できるのは、あくまで「信義則上相当な範囲」に限ります。被用者が不法行為をするについては、会社にも悪い点があったであろう。それは、社員教育が不十分なのか、会社が強引に取引をまとめるようプレッシャーをかけたのかは知りませんが、それなりに会社にも落ち度があるのなら、その分は差し引いて被用者に求償しなさい、という意味です。ここに出てくる「信義則」というのは、分かりにくいですが、そんなに重く考える必要はありません。「信義則」というのは、信義誠実の原則を短くしたものです。この信義誠実の原則は民法全般に適用される法原則で、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」ということです。ここの使用者責任の場合では、「妥当な範囲内で」くらいに軽く考えておけば十分でしょう。