民法708条(不法原因給付)
【解説】
本条は、不法な原因で給付をした者に対して、その給付物の返還請求を否定した規定です。
よく挙げられる具体例でいうと、賭博で負けた者(A)が、勝った者(B)に対してお金を支払った場合に、負けた者から勝った者に対する返還請求を認めないということです。
もともと賭博の勝ち負けでお金を払うという賭博契約は第90条の公序良俗に反して無効です。しかし、賭博契約が無効だからといって、AからBに対して不当利得の返還請求を認めることは、反社会的・反道徳的な行為を理由として法の保護を受けることになり不当だからです。
以上の説明から分かりますように、本条は第90条の規定と表裏をなす規定といえます。第90条は公序良俗違反の契約の内容の実現を禁止するものです。つまり、B(勝った者)からA(負けた者)に対する金銭の請求を否定するものです。それに対して、本条は公序良俗違反の契約が履行された場合に、その結果の回復を否定するものです。つまり、AからBへの返還請求を否定します。
本条の「不法」の意義について、広く強行法規違反を含むという説と、第90条の公序良俗違反に限るとする説の対立があります。先ほどの説明から分かりますように、近時の判例・学説は公序良俗違反に限っています。
さて、この不法原因給付の規定の効果として「返還請求できない」の意味について争いがあります。不法な原因で相手方に給付したことによって、所有権は相手方に移転するのか、所有権は給付者に残り、単に返還請求できないだけなのか、ということです。
判例は、給付者が不当利得に基づく返還請求のみならず、所有権に基づく返還請求も否定しました(最判昭45.10.21)。そして、その反射的効力によって引渡しを受けた者が所有権を取得することになります。
最後に、本条但書の規定で、「不法な原因が受益者についてのみ存したとき」は、不当利得による返還請求を認めていますが、これは当然の規定でしょう。この場合は、給付者の方に反社会性がないわけですから、非難できません。
具体例としては、判例に現れた事例として、祖父(給付者)が孫娘の私通関係を止めさせるために、相手の男(受益者)に贈与した金員の返還請求などです。