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民法605条(不動産賃貸借の対抗力)

【解説】

1.不動産賃貸借の対抗力

本条は、不動産賃借権の対抗力の規定ですが、賃借権の譲渡・転貸の問題と並んで、賃貸借の中で非常に重要な規定です。

この不動産賃借権の対抗力に関しては、借地借家法に規定があって、民法の原則が変更されていますが、まず、この民法の原則を覚えて下さい。

上図を見て下さい。AがBにある物を賃貸していましたが、Aが賃貸物をCに売りました。Cが新しい所有者になったわけです。そこで、Cが、Aの賃貸人の地位を引き継いで新しい賃貸人になります。

このときに、賃貸人の地位がAからCに引き継がれるのに、Bの承諾は不要です。

問題は、このように新所有者のCがすんなり、自分が新しい賃貸人として、つまり、Bを賃借人として認めてくれれば、そのままBは住み続ければいいわけです。ところが、新所有者のCがBに「自分はBに貸すつもりはない。Bは出て行ってもらいたい。」と言ったらどうするのか?

この場合、Bは自分に賃借権があることをCに対抗(主張)しなければいけません。これが賃借権の対抗力の問題です。

ところで、AからCへ移転したのは、所有権で物権です。Bが有しているのは賃借権で債権です。そして、物権というのは「物」に対する支配で、基本的にすべての人に主張できます。ところが、債権というのは、「人」に対して請求するもので、簡単に言えば、「人」と「人」の約束です。上図の事例でいうと、Cはすべての人に所有権を主張できるが、賃借権はあくまでAとBの約束にすぎないので、BはAには賃借権を主張できますが、Cには主張できないはずです。そこで、上図の事例のような場合も、「売買は賃貸借を破る」という原則があって、BはCに賃借権を対抗できないのが、一応は原則となります。

しかし、それではあまりにBの賃借人としての立場が不安定です。そこで、民法は賃借権というのは、債権ですが、非常に変わった扱いをしています。賃借権も「登記できる」としています。つまり、Bも賃借権の登記をすれば、新所有者のCに賃借権を対抗することができます。逆に言うと、登記がなければ、Bは賃借権をCに対抗できません。これが民法の原則です。

2.賃貸人の地位の主張

それでは、Bが賃借権の登記を備えて、賃借権をCに対抗できる場合ですが、そうなるとCは、賃貸人としてBに賃料を請求していくしかありません。賃借権をBに対抗されるからには、せめて賃料でももらわないとどうしようもありません。

そこで、CがBに賃料請求をすれば、必ず払ってもらえるかといえば、そうでもないんです。つまり、賃貸人の地位を賃借人に主張するための要件です。これは登記が必要です。Cは登記をしていないと、賃貸人の地位を賃借人に主張(例:賃料を請求)できません。これは理由は分かりますでしょうか?

賃借人Bの立場に立って考えて下さい。登記を備えていないCにうっかり賃料を払ってしまいますと、AがDに賃借物を二重譲渡して、Dの方が先に登記を備えた場合、所有権はDのものになるので、Dに賃料を二重払いしないといけない事態になる可能性があります。そこで、確実な所有者としての証拠として、Cは登記を備えておかないといけないわけです。