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売主の担保責任

【解説】

1.売主の担保責任とは

この「売主の担保責任」についてですが、まず、最初の問題は「担保責任」て何?という単純な質問でしょう。

この担保責任という言葉も、いかにも法律用語で分かりにくい。「売主」の担保「責任」というくらいですから、売主が負う責任だということは分かるでしょう。

上図を見て下さい。売主が、買主に物を売ったときに、売買の目的物に何らかの欠陥があったとしましょう。買主は欠陥のある物を買わされたわけです。買主は、当然売主に文句をいいに行きます。これが担保責任です。

要するに、欠陥のある物を買わされた買主は、売主に文句が言える。これを担保責任というわけです。簡単でしょう。売主の立場から言えば、担保責任を「負う」、買主の立場から言うと、担保責任を「追及する」ということになります。

本サイトの「担保」の法律用語解説を参照してもらえば分かりますが、売主は自分が売却した物について、一定の品質を「確保」する必要があるわけです。この品質を「確保」(担保)する責任が「担保」責任ということです。

2.覚え方

ところで、この担保責任については、いろいろな場合がありますので、覚えることが多くなります。

大雑把な基本的な考え方は簡単なんですが、いろいろ場合分けがあってややこしいんですね。そこで上図の太い文字に注目してほしいんですが、まず、売買の目的物に「何らかの」欠陥があるといいましたが、民法はこの欠陥を6種類定めています。

さらに、買主はどんな場合でも担保責任を追及できるかというとそうでもありません。たとえば買主が悪意(欠陥の存在を知っていた)の場合は、担保責任を追及できないこともあります。したがって、買主の善意悪意というのが問題になります。

さらに、担保責任を追及するといっても、具体的にどういう形で売主に責任を追及していくかについて、民法は解除と損害賠償という方法を規定しています。場合によっては、代金減額請求というのを認めている場合もあります。

以上の3つのポイント、つまり欠陥の種類(6種類)、買主の善意悪意、担保責任の追及手段(3種類)の順列組み合わせを考えていくといろいろ場合分けされて、複雑になるわけです。

個別の内容については、各条の条文解説に譲りますが、覚え方のコツを紹介しておきましょう。この売主の担保責任は一覧表等にして覚えることが多いですが、基本的には、解除であろうが、損害賠償であろうが、代金減額請求であろうが、善意の買主は請求できるが、悪意の買主は請求できません。これで大半は覚えられてしまいます。

そして、悪意の買主でも担保責任が追求できる場合というのは、4つしかありません。この4つを覚えればいい、ということになります。以下にまとめてみましょう。

原則:善意の買主は担保責任を追及できるが、悪意の買主は追及できない。

例外(悪意の買主でも担保責任を追及できる場合)

  1. 「全部他人物売買」の悪意の買主の「解除」
  2. 「抵当権等による制限」がある場合の悪意の買主の「解除」
  3. 「抵当権等による制限」がある場合の悪意の買主の「損害賠償」
  4. 「一部他人物売買」の悪意の買主の「代金減額請求」

このうち、②と③はセットで覚えればいいので、少しラクになります。

3.買主の権利行使の期間制限

もう一つ、全体でまとめて覚えた方がいいものがあります。

「買主の権利行使の期間制限」というものです。

買主の権利行使(解除・損害賠償・代金減額請求のこと)に期間の制限がないものがあります。これをまず覚える。2つですね。「全部他人物売買」と「抵当権等による制限がある場合」です。

さあ、この2つと、残りの権利行使の期間制限がある4つとの違いは何でしょう?

期間制限がない2つは、買主が、売買の目的物を全然手に入れることができない場合です。全部他人物売買は当然ですが、抵当権等の制限がある場合も、競売が実行されますと、買主の手元には何も残らない。ところが、残りの4つは欠陥や問題があろうとも、何らかの形で買主の手元に売買の目的物が残ります。③の瑕疵があろうと、④の地上権の制限があろうと、⑤の数量が足りなかろうと、⑥の一部が手に入らなかろうと、買主は欠陥や問題があろうとも、売買の目的物を手にしています。

ところが、①と②は全く買主の手元に売買の目的物が残りません。そのような場合に、権利行使に期間の制限をつけるのはかわいそうだろう、ということです。逆に言うと、残りの4つは、不完全なものだが、手に入っている。表を見てもらえば分かりますが、この場合の期間制限は1年です。不完全なものを手に入れて、1年間も放ったらかしにしているということは、それはそれなりに「買主は売主に対して不問に付す気だな。」と解釈されても仕方がないということです。これで覚えられますか?

さて、残りの4つですが、この期間制限は「知ってから1年」です。これは数字も含めて正確に覚えておいて下さい。

「一部他人物売買」の悪意の買主の「代金減額請求」だけ、「契約」から1年になっていますが、この場合、買主は悪意ですので「契約」の時から「知っている」ということですよね。だから、実質的には全部、「知ってから」1年です。ただ、試験の問題では、「一部他人物売買」の悪意の買主の「代金減額請求」については、「契約」の時から、という表現で出るので、その点だけ注意すれば済むだけです。

4.売主の無過失責任

この担保責任については、売主の担保責任全部について、売主の「無過失責任」だという点は、覚えておいて下さい。

つまり、売主は欠陥のある物を売った場合、買主から解除とか損害賠償をされるわけですが、結果として売った物に欠陥があれば、売主に過失がなくても(無過失でも)担保責任を負わないといけないということです。

これは、売買というものの信用を維持するためだと言われます。売買契約というのは、最も一般的な契約で、われわれは何気なく店で物を買うわけです。その買った物に欠陥があった場合に、売主が、「それは知りませんでした。過失もありません。責任は負いかねます。」などと言われてしまえば、安心して物が買えません。そのため、売主の担保責任は無過失責任だとされているわけです。