民法541条(履行遅滞等による解除権)
【解説】
1.履行遅滞等による解除権
履行遅滞の契約の解除は、相手方が履行遅滞の状態にあるからといって、いきなり解除することはできません。相手が履行遅滞の状態になった後、相当の期間を定めて催告し、それでも履行がない場合にはじめて解除できます。
これは、相手方に最後の履行のチャンスを与えるという趣旨です。履行遅滞というのは、前に説明しましたが、履行が可能です。可能なのに遅れているだけです。そして、契約の解除というのは、契約の効果をひっくり返してしまうという重要な行為です。それならば、いきなり解除ではなく、催告という手続を一つ間に入れることによって、相手方に最後の履行のチャンスを与えようというわけです。
2.相当の期間
ところで、この解除するための催告ですが、「相当の期間」というのは、どれくらいの期間なのか、というのはあまり気にしないで下さい。ケース・バイ・ケースです。
金銭債務の場合ですと通常2~3日といわれます。
この点について問題になるのは、相当の期間が1週間くらいが相当であるにもかかわらず、「2日以内に履行せよ」と催告した場合です。
これは、2日を経過しただけでは、解除できないというのは理解できると思います。ところが、「2日以内に履行せよ」と催告しながらも、相手の履行がなく、10日経過後に解除したような場合です。つまり、催告期間が不相当に短いときでも(この例では2日)、催告の時より起算して客観的に相当の期間を経過したにもかかわらず(この例では1週間以上経過)、相手方の履行がないときです。
この場合、この解除は有効とされます。これは、たしかに催告期間は短かったかもしれませんが、結局、相手方は履行に相当な1週間を経過しても履行していないという事実を重視するわけです。
この催告についても、さらに覚えて欲しいことがあります。それは、催告と解除の意思表示を同時に行った場合です。
通常は、相当の期間を定めて催告し、その期間内に相手が履行しないのを待って、解除の意思表示をします。つまり、催告→相手の不履行→解除の意思表示、という流れになるわけです。
しかし、これは面倒だということで、最初の催告のときに、「3日以内に履行せよ。履行しない場合は、改めて解除の意思表示をしなくても、契約を解除する。」という通知をするわけです。
この通知の中には、「3日以内に履行せよ」という催告の部分と、「その期間内に履行しない場合は、契約を解除する」という解除の意思表示の両方が含まれています。
このような催告と解除の意思表示を同時に行うことも有効とされます。要するに、相当の期間を定めた催告と、その期間内に相手が履行しない、という事実が重要なんですね。
3.期限の定めがない債務の場合
債務の履行に確定期限の定めがある場合、期限の到来によって債務者は直ちに履行遅滞に陥るので、普通に一度相当の期間を定めて催告をして、その催告の期間内に履行がなければ解除すればよいことになります。
しかし、期限の定めのない債務の場合、債権者が請求、つまり催告をして始めて相手方は履行遅滞に陥ります。 →民法412条3項参照
この場合に債権者がこの契約を解除するには、さらに解除のための催告を行う必要があるのか?
つまり、相手方を履行遅滞に陥れるための催告と、解除のための催告の二度の催告が必要になるのかが問題になります。
これについては、結局は同じことを2回行うことになるので、債権者に不当な重複を強いるということで、判例は二度催告する必要はないとしています。