民法524条(承諾の期間の定めのない申込み)
【解説】
1.承諾の期間の定めのない申込み
本条は、承諾期間の定めのない申込みについて規定しているが、承諾期間を定めて申込みを行った場合には、521条に規定がある。 →521条参照
つまり、承諾期間内は申込者は申込みを撤回することはできず、また、期間内に承諾が到着しなければ、申込みは効力を失い、契約は不成立となる。
それでは、承諾期間を定めなかった場合には、いつまで申込みを撤回することができるのかが本条の規定である。
つまり、承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに「相当な期間」を経過するまでは、撤回することができないのである。
これは、契約を申し込んだ者が、申込みに際して承諾期間を定めなかった場合に、いつまでも申込みを撤回することができず、申込みに拘束されるのは気の毒だからです。
そこで、「相当な期間を経過するまでは撤回することができない」ということは、「相当期間経過後は撤回することができる」ということになります。
2.撤回の効力発生時期
それでは、相当期間経過後の撤回の効力はいつ発生するかですが、これは意思表示の一般原則どおり到達主義、つまり、撤回の到達によって効力が発生します。
ただ、承諾については発信主義が取られているので(526条1項)、承諾が発信されるまでに、申込みの撤回の意思表示が相手方に到達していることが必要です。
3.承諾適格
ところで、承諾期間を定めない申込みは、承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過後は撤回することができるが、相当期間経過後もこの申込みが撤回されないままの場合、相手方はこの申込みに対して承諾することができるのかが問題になります。
たとえば、ある物の売却を申込み、この場合の承諾に必要な相当な期間が1週間だったとします。
この申込みの撤回がなされないまま、10日後に承諾の返事が来た場合などです。
これについて立法者は、相当期間経過後は申込みの撤回をすることができるが、これは申込みの効力そのものを消滅させる趣旨ではない、と考えていたようです。
したがって、上記の例では契約は成立することになります。
しかし、上記の例で、2年後の承諾の返事が来た場合はどうでしょう。
これは、申込みから承諾までの期間が長すぎます。
このような場合には、立法者も申込みから長期間経過後の承諾で契約を成立させるつもりはなかったようですし、当事者の意思としても、そのような長期間申込みの意思を有していたとは考えられません。
したがって、学説では妥当な期間の経過後には申込みの効力は失われ、申込みの承諾適格は消滅すると考えています。