民法494条(供託)
【解説】
債務者が弁済しようとしたが弁済者がそれを受領しなかった場合はどうなるでしょうか。
「弁済」と「弁済の提供」は分けて考えますので、債務者としては本旨に従った弁済の提供はしたが、債権者がそれを受領してくれなかったので、「弁済」はできなかったという場合です。
この場合、債務者としては、弁済の提供はしているので、債務不履行の責任を問われることはありません。これは当然のことで、債務者としては、やるべきことはやっていて、債権者がそれに協力してくれないだけです。
しかし、現実には弁済していないので債務は消滅しません。したがって、債務者としては債務不履行の責任を問われることはないが、債務は存続しているという中途半端な状態が続くことになります。
債務不履行の責任を問われることはないので、「それでいいではないか」ということにはなりません。債務が存続している以上、その債務のための担保は消滅しませんし、目的物の保管の煩わしさが残ります。
そこで、債務者としては債務そのものを消したいと考えます。そのときに利用するのが「供託」です。
これは、金銭などの弁済の目的物を供託所に供託して、債務を消滅させ、後はそれを債権者が取り戻すという制度です。これで債務者としては、すっきりします。
そしてこの供託というのは、「弁済者」が行うことができます。ということは、利害関係のある第三者も供託できるということになります。
ところが、この供託という制度は、どんな場合でも債務者は供託をすることができるというわけではありません。供託できる場合というのが規定されています。次に、その供託できる場合というのを見てみましょう。
①債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないとき
これは先ほどの例で説明した通りです。
②弁済者が過失なく債権者を確知することができないとき
これは、弁済者が誰に弁済してよいか分からない場合は、弁済者としては困ってしまいます。そこで、供託ができるというわけです。
しかし、弁済者が債権者を確知できない場合というのはどういう場合なのか?という疑問が湧くと思います。
その例としては、債権譲渡の譲渡人が債権譲渡の事実を否定しているような場合です。債権譲渡の譲渡人・譲受人間で譲渡の事実を争っている場合は、債務者としては譲渡人と譲受人のどちらに弁済してよいか迷ってしまいます。そういう場合は、債務者は供託して債務を免れ、後は譲渡人と譲受人で勝手に争ってもらい、譲渡人・譲受人間でどちらが債権者か決着がついたときに、その債権者が供託所から金銭などを取り戻せば済むだけです。