民法489条(法定充当)
【解説】
本条は、弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも弁済の充当の指定をしないとき、又は弁済を受領する者が指定をしたが、弁済者がそれに対して直ちに異議を述べることによって弁済の受領者の指定が効力を失ったときの弁済の充当について定めた規定です(法定充当)。
具体的な充当の方法について各号に定めてあるので、各号について見ていきます。
(1)債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する(第1号)
この弁済期の到来しているものから充当されるというのは理解しやすいでしょう。
弁済期が到来している債務は、弁済が必要な場合であり、履行されないと債務不履行になる可能性があります。
(2)すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する(第2号)
すべての債務が弁済期にあるか、弁済期にないときは、第1号で決着が付かないので、「債務者のために弁済の利益が多いもの」から先に充当される。
ただ、ご想像のように「債務者のために弁済の利益が多いもの」というのはなかなか判断が難しい場合がありそうです。
いくつか基準を列挙しておきましょう。
①利息について
利息付きの債務と利息のない債務では、利息のある債務が消えてくれた方が債務者にとって有難いというのは分かりやすいです。
同様に、利率の高い債務と低い債務では、利率の高い債務が消えてくれた方が債務者にとって有難い。
②担保の有無
それでは、担保との関連ではどうか?
これは先ほどの利息よりはややこしい問題があります。
まず、保証人がついている債務と保証人のない債務はどうか。
これは、債務者にとっては弁済の利益については差はないとされます。
これは保証人にとっては、大きな問題ですが、主たる債務者にとっては直接利害に関係はないとされます。
これは物上保証人が付いている債務と、付いていない債務についても同様です。
次に、連帯債務と単独債務ではどうか。
これは分かるでしょう。単独債務の方が債務者にとって弁済の利益が大きい。
連帯債務は、最終的には負担部分だけ責任を負えばいいわけですし、連帯債務が消えても、後で求償しなければならないという面倒があります。
次に、抵当権のような物的担保の付いている債務と、付いていない債務ではどうでしょうか。
これも分かると思います。
物的担保が付いている債務が消えてくれる方が債務者にとっては助かります。
担保目的物を自由に処分できるようになるからです。
続いて、手形債務と民事上の債務とでは、手形債務の方が債務者にとって弁済の利益が大きくなります。
手形債務は、それが履行されないときは不渡処分などの不利益があるからです。
更に、同時履行の抗弁権がある債務と、ない債務では、同時履行の抗弁権がある債務の方が弁済の利益は少なくなります。
これも分かると思いますが、同時履行の抗弁権のある債務は、現状では直ちに請求されることはないからです。
(3)債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する(第3号)
債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期の先後で充当の順序を決めます。
つまり、弁済期がすでに到来している場合には、先に弁済期が到来したもの、弁済期が到来していないものどうしでは、弁済期が先に到来すべきものが先に充当されます。
(4)前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する(第4号)
以上でもまだ充当の順序が確定しない場合は、仕方がないので、各債務の額に応じて充当されます。
100万円と50万円の債務がある場合で、弁済額が90万円しかない場合は、この90万円を「100:50=2:1」の割合で配分し、それぞれ60万円と30万円の充当がなされます。