民法467条(指名債権の譲渡の対抗要件)
【解説】
1.債権譲渡の債務者に対する対抗要件(第1項)
次からが、債権譲渡で最も重要なところですが、「債権譲渡の対抗要件」といわれる問題です。
上図を見て下さい。債権譲渡の対抗要件の問題は、債務者に対する対抗要件と、第三者に対する対抗要件の問題があります。
まず、債務者に対する対抗要件ですが、要するに普通の債権譲渡で、債権譲渡が一つしかない場合です。普通に債権譲渡が一つしかないから、何の問題もないかというとそうでもないのです。
債権譲渡というのは、要するに債権の売買のことですが、普通の物の売買と異なって、債権譲渡というのは債権を持っているだけでは意味がありません。債務者に支払ってもらうということが必要になります。
上図で、Cは何の問題もなく債権を譲り受けたからといって、債務者からすんなり支払ってもらえるかというとそうでもないですよね。債務者の立場に立って考えれば、すぐ分かります。
債務者は、昨日までは債権者はAだと思っているわけです。したがって、Aが債権の取り立てに来れば、すんなり払ってくれます。
ところが、債権を取り立てに来たのは、Cという見ず知らずの人です。Cから「Aから債権を譲り受けました。私にお支払い下さい。」と言われても、債務者のBとしては、「そうですか。」と言って、すぐに支払うわけにはいかないでしょう。
Cとしては、債権を譲り受けたことを債務者Bに対抗(主張)できないといけません。したがって、この問題を債務者に対する対抗要件の問題というのです。
それでは、この債務者に対する対抗要件は、具体的にはどのようなものか?民法を見てみましょう。「債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。」
つまり、譲渡人Aが債務者Bに通知するか、債務者が承諾することが、債務者に対する対抗要件になるわけです。一般に、「通知・承諾」と省略して言ったりします。
この通知も承諾も、要するに債権譲渡があったことを、債務者に「教えてあげる」ということです。債務者としては、債権者Aから通知があって、「あの債権はCに譲りましたので、Cに支払ってあげて下さい。」と言われると、安心してCに支払うことができます。
また、債権者から通知がなくても、債務者自身が、「Cに譲渡されたことは知っているよ。」というのであれば(債務者の「承諾」)、これは債権者から通知して教えるまでもなく、債権譲渡を債務者に対抗できます。
この債務者の承諾は、債権の譲渡人(A)に対して行っても、譲受人(C)に対して行ってもかまいません。この「債務者」の、債権譲渡に対する「認識」が重要なんですね。
ここで非常に重要なのは、この債権譲渡の通知は、「譲渡人」から通知する必要があるという点です。「譲受人」からの通知では、対抗要件になりません。
これも債務者の立場になって考えれば、よく分かります。今まで、債権者はAで、Aに支払えばいいと思っていた債務者が、ある日突然、見ず知らずのCという人から通知を受け、「あの債権は私(C)が譲り受けたので、私に支払ってほしい。」という通知が来ても、ちょっと信じられません。Cが勝手に通知している可能性があるからです。このような虚偽の通知を防ぐ必要があります。
この通知・承諾については、他にいろいろな問題があります。
まずは、簡単なものから。この通知・承諾というのは、特定の形式は要求されていないので、口頭でもかまいません。もちろん、実際には、書面にしておかないと、後で揉めたときに困りますので、書面にするのが普通ですが、法律的には口頭でもかまいません。この点については、後の「第三者に対する対抗要件」のところで、関連する話が出てきます。
次に、債権譲渡の通知は、譲受人が譲渡人に「代位」して通知することはできません。しかし、譲受人は譲渡人の代理人として通知することはできます。
また、ややこしい話です。この2つの違いは、要するに「代位」と「代理」の違いです。「代位」というのは、「代わって」という意味です。譲受人が譲渡人に代わって通知したとしても、譲受人が通知していることに変わりがありません。
これに対して、「代理」というのは、代理人が行った行為の効果は、本人に帰属する。つまり、最終的に本人が行った行為になるわけです。したがって、譲受人は、たとえ譲渡人の代理人として行った通知でも、それは譲渡人が行った通知になるわけです。
また、この債権譲渡の通知は、「事前の通知」は認められません。債権譲渡がある前に、事前に譲渡する旨の通知をしても、これを債務者に対抗することはできません。
もう一つ、保証と関連する話ですが、「主たる債務者に債権譲渡の通知をすれば、債権譲渡を保証人に対抗できる。」というものです。
保証人は付従性というものがありました。つまり、主たる債務者に対して生じた事由は、保証人にも効力がある、という話です。つまり、主たる債務者に対して通知しておけば、その債権譲渡の通知の効力は、保証人にも影響を及ぼし、保証人にも通知したことになるわけです。
これは、逆は真ならずで、保証人に対して債権譲渡の通知をしても、主たる債務者に債権譲渡を対抗することはできません。これも保証の勉強のところでやりましたね。保証人について生じた事由は、弁済のようなものを除いて、原則的に主たる債務者には影響を及ぼさないわけです。
2.債務者以外の第三者に対する対抗要件(債権の二重譲渡)(第2項)
債権譲渡の「債務者以外の第三者に対する対抗要件」という話に移ります。
上図を見て下さい。簡単に言うと、債権の二重譲渡です。「第三者」とは、債権の二重譲受人のような人のことを指します。この場合の対抗要件は、第一譲受人Cと第二譲受人Dとの優劣を決める問題です。
不動産の二重譲渡で、登記で優劣を決めるという話と同じです。
債権は、不動産のように登記で決めるというわけにはいきません(実は、債権譲渡も登記制度がありますが、このような単純な債権譲渡に適用されるものではありません。)。
それでは、CとDの優劣はどのようにして決めるのか?民法を見ると、「通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。」としています。
債務者に対する対抗要件は、通知・承諾でしたが、この通知・承諾には特に形式は要求されていないという話をしたと思いますが、この債務者以外の第三者に対する対抗要件も、同じ通知・承諾ですが、それは「確定日付」のある通知・承諾でないといけません。
この「確定日付」のある通知・承諾とは、どういうものか?一番一般的な例は、内容証明郵便による通知がそれにあたります。内容証明郵便というのは、郵便局がその内容を証明してくれるだけではなく、その郵便に確定日付を付けるという意味もあります。また、「公正証書」でも、確定日付を付けるという方法があります。具体例として、この2つを軽く覚えておけばいいでしょう。
ということで、第三者に対する対抗要件は、確定日付ある通知・承諾になるわけですが、不動産の二重譲渡の場合ですと、登記で優劣を決めましたが、登記というのは基本的に一人が登記すると、別の人が同じ不動産に同じ内容の登記をしようとしても登記官が受け付けてくれません。
しかし、債権の二重譲渡の場合ですと、債権者が内容証明郵便などを郵送するだけですから、二重三重に確定日付ある通知が発送される可能性があります。したがって、確定日付ある通知・承諾を持っている人が複数いる可能性があります。この場合の優劣はどのように決めるのでしょうか。
これは、確定日付ある通知・承諾が先に債務者に「到達」した譲受人が優先します。「確定日付」の前後で優劣を決めるのではないので注意して下さい。
たとえば、上図の事例をもとに説明すると、AはCに債権を譲渡した旨の確定日付ある通知を4月1日に発送し(確定日付は4月1日)、その通知は4月4日に債務者Bに到達した。一方、AはDに債権を譲渡した旨の確定日付ある通知を4月2日に発送し(確定日付は4月2日)、その通知は4月3日に債務者Bに到達したとします。
確定日付を基準に考えると、Cが優先しますが、債務者への到達を基準にするとDが優先します。これは、債務者への到達日を基準に考えますので、最終的にはDが優先します。
この確定日付ではなく、債務者への到達の先後で優劣を決める理由というのは分かりますでしょうか。
そもそも、なぜ債務者への通知・承諾が債権譲渡の対抗要件になるのかというと、債務者に債権譲渡があったことを教えてあげる、つまり債務者に認識させてあげるというのが理由でした。そうであるならば、債務者の認識を基準に第三者に対する対抗要件の優劣を決めるべきだということになります。
そして、債務者が債権譲渡を認識できるのは、確定日付が付いた日ではなく、債務者に到達したときに、債務者が債権譲渡を認識できるわけですから、債務者への到達日を基準に考えるわけです。
次に、確定日付ある通知というのは、具体的には内容証明郵便などだといいましたが、内容証明郵便も郵便ですので、郵便物は一度に何通も届くことがあります。ということは、AのCへ譲渡したという通知と、Dへ譲渡したという通知が同時に債務者の手元に届く可能性があります。いわゆる同時到達の問題です。このときにどうするのか?
判例は、同時に到達しているので、二重譲渡の譲受人の双方が請求できるとしています。簡単に言えば、両方勝ちというわけです。ちなみに、両方請求できるといっても、債務者Bは二重に支払う必要はありません。一方に支払えば免責されます。
3.「第三者」の意義
さて、今までは説明の便宜上というのか、理解のしやすさから「債務者以外の第三者に対する対抗要件」の「第三者」を二重譲渡の場合を例に述べてきました。しかし、「第三者」は、債権の二重譲渡の場合だけではありませんので、他の「第三者」の例を見てみましょう。
それは、債権を差し押さえた譲渡人の債権者がその例になります。上図を見て下さい。Aが、一方でCに債権を譲渡し、その旨の確定日付ある通知をBに送ったが、他方でAの債権者DがAのBに対する債権を差し押さえたとします。
DがAの債権を差し押さえることにより、AのBに対する債権は、Dに移転する形になります。この差押えがなされると、裁判所からBへ差押命令というのが送達されます。
そして、Dは直接Bから取り立てることができるようになります。これが債権の差押えの基本的な仕組みです。そして、Dが差し押さえることによって、債権がAからDへ移転するということは、A→C、A→Dへ債権が二重譲渡されたのと同じ形になります。
この場合は、C・Dの優劣はどうして決めるかというと、AがCへ債権を譲渡した旨の確定日付ある通知と、差押命令の送達のどちらが先に債務者Bに到達するかで決めるわけです。