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民法460条(委託を受けた保証人の事前の求償権)

【解説】

1.委託を受けた保証人の事前求償権

本条は、主たる債務者から委託を受けた保証人について、一定の場合に事前の求償権を認めた規定です。

もともと保証人が、主たる債務者から委託を受けて保証人になるというのは、保証人が債権者と保証契約を締結することの委任ということになります。この保証契約の締結は、当然に債権者に対する弁済を予定しています。

そして、委任契約の場合、受任者(この場合、保証人)には、費用前払請求権というのがありますので、委任事務である弁済を行うに当たって、事前の求償というのができそうです。

しかし、保証人が常に事前の求償権を行使できるとすると不都合なので、本条で事前の求償権を行使できる場合を1号から3号に制限する特則規定をおいた、と考えるのが通説です。

保証人が常に事前の求償権を行使できるとするのは不都合だというのは、たとえば、

①主たる債務者が自ら弁済できる場合には、一旦事前の求償権を認めて、保証人が弁済するというのは迂遠であって、主たる債務者が自ら弁済すれば済むだけです。

②また、前払いを受けた保証人が保証債務を履行しない危険もあります。

③常に前払いを認めると、本来は主たる債務者は弁済期までは元本を使用することができますが、この元本使用を不可能とする場合が生じえます。

④保証人が前払いを受けることによって、主たる債務者の資力が失われた場合は、債権者にとっても保証人をつけた意味がなくなります。

2.事前求償ができる場合

それでは、具体的に委託を受けた保証人が事前求償できる場合を見ていきましょう。

①主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき(第1号)。

主たる債務者が破産手続開始の決定を受けているのに、債権者がその破産財団の配当に加入しないということは、明らかに保証人に弁済を期待しているからです。

債権者が、保証人に保証債務の履行を迫ってくるのは確実なので、保証人には事前の求償権を行使することができるわけです。

しかし、この場合、主たる債務者は破産手続開始の決定を受けているので、保証人が破産債権者として権利を行使することになります。

②債務が弁済期にあるとき。ただし、保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は、保証人に対抗することができない(第2号)。

債務が弁済期にあるときは、保証人に履行の請求が来る可能性が高くなるので、事前の求償権を行使できます。

これについては、「保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は、保証人に対抗することができない」と規定されています。

つまり、第2号の「弁済期」は保証契約締結時の弁済期が基準となります。

保証人は、保証契約締結時の弁済期を基準に、その時の主たる債務者の一般財産を考えて保証契約を締結します。

しかし、債権者が主たる債務者に期限を猶予するということは、当初の弁済期には弁済できない状態になっており、主たる債務者の信用が悪化している可能性が高い。

保証人がそれに付き合わされて、求償権の行使の時期を遅らせるべきではないというのがその趣旨です。

なお、この規定は、主たる債務者と保証人の間の効力を規定するものであって、債権者と保証人の間の効力を規定するものでありませんので、債権者が主たる債務者に対して期限の猶予をした場合でも、保証人に請求することができるのは、当初の期限ではなく、猶予された方の期限になります。保証債務には付従性がありますので、期限の猶予の効力は、保証債務にも及んでいるからです。

③債務の弁済期が不確定で、かつ、その最長期をも確定することができない場合において、保証契約の後十年を経過したとき(第3号)。

「債務の弁済期が不確定で、かつ、その最長期をも確定することができない場合」というのは、具体例が分かりにくいでしょうが、無期の年金債務を保証した場合などがそれに該当します。

このような場合は、保証人はいつ債務を免れるか不明であるというだけでなく、将来主たる債務者の資力に変更が生じる可能性があるので、保証契約後10年を経過すれば、事前の求償権を行使することを認めたものです。

④過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受けたとき(459条1項)

これは、本条に規定されているものでありませんが、この場合も理論上当然に事前求償が認められているとされます。

⑤保証委託契約に特約がある場合

これも、直接本条に規定されているわけではありませんが、主たる債務者と保証人の間の保証委託契約において、特約で事前の求償権を認める場合が規定されている場合は、そのような特約も認められる。