民法436条(連帯債務者の一人による相殺等)
【解説】
1.連帯債務の絶対効~相殺(第1項)
この相殺の意味は、ご存じかと思いますが、お互いが債権を持ちあっているときに、それを「清算」することです。甲が乙に100万円の金銭債権を持っており、乙も甲に100万円の金銭債権を持っている場合に、現金でお金をやり取りしてみても意味がないので、このような場合には、「相殺」という形で清算するわけです。
相殺すれば、双方の債権が消滅します。したがって、Bが、Aに対する1,500円の反対債権でもって相殺すると、Bの債務も全額消えますので、CもDも絶対効で債務を免れます。
これは、相殺する額が債務全部を消滅させるものではない場合でも同様です。たとえば、BがAに対して1,000万円の反対債権を有している場合に、Bが相殺の意思表示をすると、1,000万円の範囲でBの債務が消滅し、同時にこの1,000万円の範囲でC・Dも債務を免れます。結局、500万円が残存債権として残りますので、この500万円について、B・C・Dが連帯債務を負う形になります。
この相殺については、民法にちょっとややこしい規定がありますので、それも覚えておいて下さい。民法の条文は2つありますが、そのうちの一つは、「連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。」(第1項)というもので、これは今説明した単純な絶対効の話です。
2.他の連帯債務者の相殺援用権(第2項)
もう一つは、「この債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる。」(第2項)というものです。
この2つの違いは混乱しないで下さい。よく読み比べてもらえば分かりますが、第1項は、連帯債務者の一人、BならBが、実際に相殺を援用した場合の話です。このときは、連帯債務の全額を相殺したなら、全額について絶対効だ、と言っているわけです。
それに対して後者の方は、「相殺を援用しない間」という表現で分かりますように、Bが反対債権を持っているのに、相殺しない場合の話です。このときは、他の連帯債務者は、Bの「負担部分」について「のみ」相殺を援用できるということを言っています。