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民法432条(履行の請求)

【解説】

AからB・Cが1,000万円の借金をしたとします。BとCがこの貸金の返還債務を負うことになりますが、これは当事者が特に何も取りきめなければ、原則として分割債務になります。

つまり、AがBに500万円の債権、AがCに500万円の2本の債権を持っているのと同じで、Bは自分の義務である500万円だけをAに支払えばよく、CがAに支払うかどうかに関知する必要はないということになります。

この結論は、BやCにとっては都合がよい思います。しかし、みなさんがAの立場ならどう思うでしょうか?

今、BはAに500万円支払ってくれた。ところが、Cが破産して支払えない、あるいは単にAに支払ってくれない、という状況になったとします。Cに対する500万円の債権を回収しないといけません。「2人で一緒に借金しているわけですから、CがAに支払えないのなら、BがCに代わって支払って下さい。」と言いたいところです。

ところが、特段の意思表示がないときは、分割債権・分割債務になりますので、このようには言えません。そのようなときに、Aの気持を実現させてくれる方法があります。それが「連帯債務」です。連帯債務とは、「数人が連帯債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次にすべての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる」という内容の債務です。

要するに、Aは、1,500万円の範囲でなら、B・C・Dに対して、どういうやり方で請求してもよいという意味です。全員に一斉に1,500万円を請求してもよいし、順番にBがダメならC、CがダメならDというふうに請求してもかまいません。もちろん、全額でなくても、各自に500万円ずつ請求してもかまわないということです。

これが連帯債務です。

上図を見て下さい。Aが債権者で、債務者B・C・Dが1,500万円の連帯債務を負っているとします。

最初に説明しましたように、当事者が特別の意思表示をしなければ分割債権・分割債務になるわけですから、連帯債務にしようと思えば、当事者が特別の意思表示をしないといけません。場合によっては、法律の規定で自動的に連帯債務とされる場合もありますが、基本的には当事者が、この債務は連帯債務とする旨の契約をする必要があります。

さて、Aから1,500万円をB・C・Dが3人で借りて、返還債務は、連帯債務とする旨の契約をしたとします。まず、この返還債務を連帯債務とすることにより、連帯債務者は同一内容の債務を負います。

つまり、3人とも1,500万円の債務を負います。しかし、当たり前ですが、Aが有する返還債権は1,500万円ですので、B・C・Dがそれぞれ1,500万円の債務を負うといっても、3人合計で4,500万円をAが受領できるわけではありません。

誰かから1,500万円を回収すればそれで終わりです。たとえば、Aの請求に応じてBが1,500万円全額を弁済したとします。これでAは債権全額の回収に成功したので、CもDも債務を免れます。

しかし、それではBが一人で責任をかぶった形になって面白くありません。連帯債務者は、全員、全額の債務を負いますが、それは債権者に対してです。連帯債務者相互間には、「負担部分」と言って、連帯債務者相互間に最終的な負担の割合があるはずです。

仮にこの負担部分が連帯債務者、各自平等に500万円ずつとします。ちなみに、この負担部分というのは、全員平等である必要はありませんし、負担部分ゼロの連帯債務者というのも認められます。

次に、Aから1,500万円の請求を受けたBは、Aに対して1,500万円の連帯債務を負っている以上、この請求を断ることはできませんので、全額支払ったとします。

しかし、Bは本来の自分の負担部分以上の支払をしたことになります。そこで、Bは1,500万円を支払った後で、CとDに対してそれぞれ500万円と弁済の日以後の利息を「求償」することになります。「求償」というのは難しい言葉ですが、「償(つぐな)」いを「求」めるということです。

もし、Cが破産でもして支払に応じることができない場合は、その分はBとDが債務額の割合に応じてそれぞれ負担することになります。

つまり、BはDに、Cの負担部分の半分の750万円の求償を求めることになります。残りの250万円は、Bが泣いて負担することになります。こうすることによって、Cの破産というリスクをAは回避することができます。これが連帯債務の意味です。