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民法424条(詐害行為取消権)

【解説】

1.詐害行為取消権とは

債権者代位権と同様に、債権の保全のための制度が詐害行為取消権です。

上図を見て下さい。AがBに対して債権を有していますが、Bは他にめぼしい財産はなく、不動産が唯一の財産です。にもかかわらず、BはCに対してこの唯一の財産である不動産を贈与したとします。これでは、Bは無資力となり、AはBから支払を受けることができません。このような債務者の詐害行為に対してAが、BからCへの贈与契約を取り消すのが詐害行為取消権です。

ここで、用語の確認をしますが、A=債権者、B=債務者はよく分かると思いますが、Cを受益者といいます。また、受益者から譲り受けた者を転得者といいます。

2.詐害行為

それでは実際に債権者を害する行為というのはどういうものでしょうか。先ほどの贈与というのはよく分かります。タダで財産を人に贈与すれば、Bの財産が減少するのは明白です。

それでは、Bが不動産を相当の対価を得て売買した場合はどうでしょうか?

これは一見詐害行為にならないように思えます。というのは、Bは土地を失うことになりますが、それに見合う金銭を取得しているからです。

しかし、判例はこのような場合も詐害行為になるといいます。というのは、不動産と金銭では、金銭の方は消費しやすいからだといいます。したがって、相当の対価を得た不動産の売買契約も詐害行為に該当します。

3.詐害の意思

この詐害行為取消権ですが、債権者が債務者の行為を取り消すには、債務者に「詐害の意思」というのが必要です。詐害の意思というのは、要するに債権者を害する意思のことで、贈与契約などにより無資力になり債権者に弁済できなくなることが分かっていることです。

それだけではなくて、受益者・転得者が悪意であることも必要です。債務者の詐害の意思と受益者の悪意の両方が必要です。

4.詐害行為取消権の行使

この詐害行為取消権の行使は、裁判所に請求してしなければならないことになっています。

詐害行為に該当するかどうかは、不動産の売却の例からも分かりますように、なかなか判断が難しいので、裁判所に請求しないといけないんですね。

5.取消債権者の債権

債権者取消権は、債務者の責任財産の保全を目的とする制度ですから、取消債権者の債権は金銭債権でなければいけません。

ただ、判例は特定物債権であっても、その不履行の際には損害賠償請求権(金銭債権)となるので、当該債権の目的物を債務者が処分することによって無資力となるような場合は、その損害賠償請求権保全のために債権者取消権が認められるとされています(通説・判例)。

判例で現れた事例でいうと、AがBに対して8万円の債権を有していたが、これを担保するためにB所有の不動産(10万円以上、古い判例なので不動産の価格が安い)に抵当権を設定しました。そして、Bはその当該不動産をCに対して3万円で譲渡したという事例で、BがAに対して当該不動産を代物弁済した場合です。

この場合に、CがBのAに対する代物弁済を取り消すことを判例は認めたわけです。

8万円の被担保債権のために10万円以上の不動産を代物弁済に供することによって、本来は少なくとも2万円以上はBの手元に残ったはずです。この代物弁済によってBは無資力になったとして、債権者取消権を認めたわけです。

6.取消債権者の債権の成立時期

取消債権者が有する債権は、詐害行為がなされる前に成立している必要があります。

債務者の行為がなされた後、成立した債権では、債権者を害する行為とはいえないからです。

そして、詐害行為の当時、取消債権者の債権が「成立」していれば、弁済期が到来している必要はありません。