民法423条(債権者代位権)
【解説】
1.債権者代位権とは
債権者代位権は、詐害行為取消権とともに債権の保全(確保)の制度です。債権の保全といえば、担保物権がありましたが、別の方法による保全です。
早速上図を見てもらいましょう。AがBに対して100万円の金銭債権を持っていたとします。貸金債権でも何でも構いません。他方、BはCに対して100万円の債権を持っていますが、他にめぼしい財産を持っていないとします。しかし、BとしてはCに対する債権を回収すれば、Aに100万円を支払うことが可能なはずです。
しかし、Bが一向にCから債権を取り立てないとします。Bとしては、せっかくCから取り立てても、Aに吸い取られてしまうので、取り立てる気がないんですね。これでは、Aは、Bが支払えるにもかかわらず、Bから債権の回収を図ることができません。
そこで、登場するのが債権者代位権です。AがBのCに対する債権を代位して(代わって)行使しようというわけです。
2.債権者代位権の要件
(1) 債務者が権利行使していないこと
債権者代位権を行使するには、債務者自身が権利を行使していないことが必要となります。債務者自身が権利行使しているのに、債権者が債権者代位権を行使すれば、債務者に対する不当な干渉になるからです。これは債務者の権利行使の方法が不適当であっても同じで、代位行使できません。
(2) 無資力要件
この債権者代位権は、債権者(A)が債務者(B)という他人の権利を行使しようというものです。このように他人の権利に対して干渉するからには、債務者としては、人から干渉されてもやむを得ない状況が必要です。
それが債務者の「無資力要件」といわれるものです。BにCに対する債権以外にも財産があるのならば、AはそのBの他の財産から回収を図ればいいわけで、債権者代位権を認める必要はありません。
Bが他に財産がなく、Cに対する権利を行使しないのならば、Bは他人(A)に干渉されてもやむをえません。
(3) 無資力要件の例外(債権者代位権の転用)
この債権者代位権の制度というのは、本来は債権者Aの「金銭」債権の保全のために認められています。
しかし、この制度というのは、この本来の制度趣旨から進んで、金銭債権以外債権の特定債権の保全のために転用されています。この特定債権の保全のための債権者代位権の転用の場合は、債務者の無資力要件は不要とされます。
これだけだと分かりにくいので、具体的な例を見ながら説明していくと分かります。
① 不動産の転売がなされた場合に、買主が売主の前主に対する移転登記請求を代位行使する場合
たとえば、甲不動産がC→B→Aと転売された場合で、登記名義が依然としてCに残っている場合です。
この場合、甲不動産はC→B→Aと移転しているわけですから、AはいきなりCに対して「直接自己(A)に移転登記せよ」(中間省略登記)と請求することはできません。
要するに、C→Aという登記はダメということです。
登記としては、やはりC→B→Aとならないといけないわけです。しかしこの場合、BがちゃんとCに請求して、一旦登記をB名義にしてくれると、AとしてはBに対して移転登記の請求をできます。Bが嫌がれば、裁判をすればいいだけです。
しかし、Bが動いてくれないと、Aとしてはどうしようもありません。このようなBのCに対する移転登記の請求を、Aが代位して行使するような場合がこの事例です。
特定債権というのは、このような特定の不動産の移転登記の請求権のようなものを指しています。
この場合に、Bの無資力要件が不要だというのは分かりますでしょうか?この事例では、Aが必要としているのは、甲という不動産の登記名義です。これを保全したいわけです。この場合は、Bがいくらお金持ちで、他にたくさん財産を持っていても他の財産では、「甲不動産」の登記名義は保全できません。したがって、債務者(B)の無資力要件は不要になるわけです。
② Bの所有地をAが賃借している場合、Cが不法占拠したときに、AがBのCに対する所有権に基づく妨害排除請求を代位行使する場合
これも先ほどと同様、AのB所有地に対する占有という特定債権の保全にはBの資力というのは関係ありません。
③ 未登記建物の買主が、売主に代位して、当該建物の所有権保存登記手続を行う場合
上図を見ていただきたいんですが、売主Aが建物を建築し、未登記のままBに売却したとします。この場合に買主は、当然B自身の名義の登記を備えたいわけですが、この状態でいきなりB名義の所有権の登記を行うことはできません。これは、不動産登記法で勉強しますが、この場合、まず表題部に所有者Aと登記して、甲区欄の最初の保存登記の名義人はAとした上で、その次にA→Bへの移転登記をすることになります。保存登記というのは、最初の所有者を示す権利の登記です。
表題部 所有者A
甲区1番 所有権保存登記A
甲区2番 所有権移転B
というふうに登記しなければいけません。
表題部 所有者A
甲区1番 所有権保存登記B
という登記は認められていないんです。
ということは、Bが自己の所有名義の登記をするには、Aがまず保存登記をする必要があるわけですが、Aが保存登記をしてくれないと、BはいつまでもAからBへの所有権移転登記をすることができなくて困ります。そこで、Bは、本来Aが自分で行うべき保存登記を、Bが代位して行うことができます。そして、A名義の保存登記がなされた不動産について、AからBへの所有権移転登記を行うことになります。
(4) 被保全債権(弁済期)(第2項)
次は、この債権者代位権を行使するためには、債権者の有する債権(被保全債権、つまりAB間の債権)の弁済期が到来している必要がある。そもそも債権の保全というのは、債務者が弁済期に履行しない場合にはじめて問題になるからです。
しかし、そうは言ってもゆっくり弁済期が到来するのを待っていては、債権が保全できなくなる場合もありえます。そのような弁済期が到来する前に債権者代位権を行使するには、裁判上で行使しなければいけません。
もう一つ、保存行為についても弁済期到来前に行うことができます。この保存行為は裁判上で行う必要はありません。たとえば、BがCに対して有する債権が時効消滅しそうな場合には、Aとしては弁済期前でも時効を中断しておかなければいけません。
3.代位行使できる権利(第1項但書)
債権者が代位行使できる権利はどのようなものでしょうか。上図でいうとBCの権利のことです。
これは基本的にどのような種類の権利でも代位行使できます。貸金債権や売買代金請求のような債権だけでなく、登記請求権、取消権、解除権なども代位行使できます。
ただ、債務者の一身に専属する権利に属する権利は代位行使できないという制限があります。一身専属権というのは、その人だけが行使できる権利のことで、具体例としては、夫婦間の契約取消権等があります。夫婦間の契約取消権は、夫婦間でしか行使できず、他人が干渉することはできません。
4.債権者代位権の行使の方法
債権者代位権は、債権者取消権と異なり裁判上で行使する必要はなく、裁判外でも行使することができます。
ただし、弁済期前に保存行為以外で代位権を行使する場合は、裁判上行使する必要があります(第2項)。
また、債権者は債務者の代理人として権利を行使するのではなく、自らの名において、債務者の権利を行使することになります。
権利行使の内容が物の引渡しである場合は、目的物を債務者に対して引渡すよう求めることができるのは当然ですが、判例によると直接自己(債権者)に引き渡すように求めることができます。
なぜならば、このように考えないと、債務者が受領しないときは、債権者代位権の目的を達することができないからです。
5.債権者代位権行使の範囲
債権者代位権は、あくまで債務者の責任財産を保全することが目的ですので、債権者が代位権を行使することができるのは、自己の債権の保全に必要な範囲です。
したがって、債権者の有する債権が金銭債権である場合は、自己の債権額の範囲内でしか債権者代位権は行使することが許されません。
たとえば、債権者の債権額が400万円で、債務者の第三債務者に対する債権額が600万円である場合は、400万円の限度でしか代位行使は許されません。
6.債権者代位権行使の効果
債権者が代位権の行使に着手し、債務者にこれを通知すると、債務者は以後その権利について代位行使を妨げる処分行為を行うことはできなくなります。
そして、債権者は、債務者の権利を行使することになりますので、債権者代位権行使の効果は、すべて債務者に帰属し、総債権者のための共同担保となります。
これは、たとえ債権者代位権を行使することによって目的物が債権者の手元に渡った場合でも、その物は総債権者のための責任財産になるわけです。
ただ、目的物が金銭であった場合は、この引渡しを受けた債権者は、自己の有する債権と債務者が有する金銭引渡請求権を相殺することができるので、事実上優先的に弁済を受けたのと同じ結果になります。