民法412条(履行期と履行遅滞)
【解説】
1.履行期の徒過
この履行遅滞は、約束の期日に遅れることですから、この履行遅滞の要件として「履行期を過ぎること」、つまり履行期の徒過というのがあります。
履行遅滞というからには当たり前だ、で終わりそうですが、そうは問屋がおろしません。なかなか大変です。
期限にはいろいろ種類がありますので、それぞれで検討する必要があります。
2.確定期限(第1項)
確定期限は、たとえば「平成22年4月1日に支払う」というような場合です。
これは、平成22年4月1日を過ぎると、履行遅滞になります。つまり、期限が到来した時が、履行遅滞になる時期です。
3.不確定期限(第2項)
不確定期限というのは、たとえば「私の父が死亡すれば、この家を引き渡す」という場合です。
これも、「簡単だ!期限が到来したとき、つまり父が死亡した時だ!」と思ったら、それは間違いです。これは結論から言うと、「期限の到来を債務者が知った時」が履行遅滞になる時期です。つまり、父が死亡したということを、私(債務者)が知ったときです。
「父が死亡」すれば、期限は到来しています。しかしこの場合、期限の到来=履行遅滞とはならないのです。
というのは、履行遅滞というのは債務不履行の一種です。債務不履行になれば、相手方から契約を解除されるとか、損害賠償を請求されるとかの制裁を債務者が受けることになります。つまり、債務者に対する責任の追及が始まるわけです。
したがって、履行遅滞になる時期というのは、債務者がこのような責任を負わされても仕方がない状態であることが必要とされるのです。「父が死亡」しただけで、債務者がそれをまだ知らないときは、債務者の責任を追及するには、まだ早い。
「父が死亡した」=期限が到来した。それを債務者が知っているのに、まだ履行しない状態ならば、これは責任を追及されてもやむを得ないといえます。
4.期限の定めのない債務(第3項)
それでは、期限の定めのない債務は、いつから履行遅滞になるのでしょうか?
その前提として、期限の定めのない債務については、債権者がいつ請求できるのかというのが問題になります。
これは期限の定めがないわけですから、債権者は、「いつでも請求」できます。
そして、債務者の立場から言うと、債権者から何も請求されていない段階で、「履行遅滞だ。だから損害賠償しろ!」と言われても困ります。債権者が請求しているにもかかわらず、それを無視して履行しない場合には、これは責任を追及されても仕方がありません。
そこで、「債権者の請求があった時」から履行遅滞になります。
5.不法行為による損害賠償債務
先ほどの期限の定めのない債務についてですが、不法行為による損害賠償債務は、この期限の定めのない債務とされます。
ということは、債権者(つまり被害者)が請求したときから履行遅滞になりそうですが、期限の定めのない債務でも、この不法行為による損害賠償債務は例外です。
判例は、債権者が請求しなくても、「損害発生の時から直ちに遅滞に陥る」としています。これは覚えておいて下さい。
6.消滅時効の進行の開始時期との比較
ところで、この何時から履行遅滞になるかというのは、消滅時効の進行の開始時期と似て非なるものです。
この似て非なるものというのは、各種の試験でよく出ます。その意味でしっかり勉強して下さい。
上図の「考え方」をまずしっかり確認して下さい。消滅時効の進行の開始時期は、債権者が権利を行使できる時を基準にします。つまり、「債権者」側の事情で考えるんですよね。
ところが、履行遅滞の場合は、先ほど説明しましたように、「債務者」が責任を追及されてもやむを得ない時期を基準にします。つまり、「債務者」側の事情で考えます。こういう観点から、上図を覚えれば、覚えやすく、かつ、忘れにくい。要するに「考え方」を覚えれば、覚える量が少なくて済むわけです。
消滅時効の進行の開始時期は166条を参照して下さい。