民法314条(不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲)
【解説】
1.賃借権の譲渡・転貸~譲受人・転借人の動産
普通の賃貸の場合、賃貸人は賃借人の動産について先取特権を有するが、本条は、賃借人が賃借権を譲渡・転貸した場合には、譲受人又は転借人の動産について先取特権を有する旨を定めている。
この賃借権の譲渡・転貸がなされた後の譲受人・転借人の賃貸人に対する債務については、本条がなくても、譲受人・転借人の動産の上に賃貸人の先取特権が成立します。
それだけでなく、賃借権の譲渡・転貸がなされる以前の賃借人(譲渡人・転貸人)の賃貸人に対する債務についても、譲受人・転借人の動産について先取特権が成立することを認めたのが本条です。
これは一見不合理な気もしますが、このような規定が定められたのは、賃借権の譲渡・転貸の場合には、賃借人が備え付けた動産が、一緒に譲渡されることが多いが、「先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない」(民法333条)とされているので、このような動産については、賃貸人が先取特権を行使することができなくなるのを防ぐためだとされています。
2.賃借権の譲渡・転貸~譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭
本条の後段は、賃借権の譲渡・転貸の場合に、譲渡人又は転貸人(以下、「譲受人等」)が受けるべき金銭についても賃貸人の先取特権の効力が及ぶ旨を規定しています。
賃借権の譲渡・転貸がなされた場合、譲受人等から、賃借人(譲渡人・転貸人)に対して、賃借権譲渡の対価が支払われる場合があります。
そして、賃借権の譲渡・転貸に伴って、賃借人が目的物に備え付けた動産(たとえば家具等)についても、譲受人等に譲渡される場合があります。
この、賃借権の譲渡・転貸に伴って賃借人から譲受人等に譲渡された動産の譲渡代金については、物上代位の規定に基づき、先取特権の効力を及ぼすことができます(304条)。
しかし、だからといって賃借権譲渡の対価全額について、物上代位に基づいて先取特権の効力を及ぼすことは本来はできないでしょう。
仮に、賃借権譲渡の対価が100万円であったとします。この中には、純粋に賃借権譲渡の対価だけでなく、賃借人が備え付けた動産の代金が含まれます。
物上代位というのは、目的物の売却によって賃借人が受ける代金に限ります。
ということは、物上代位の効力が及ぶのは、賃借権の譲渡代金100万円のうちの「動産の売却代金」についてだけということになります。
しかし、この「動産の売却代金」をいちいち確定することは大変なので、物上代位の規定の趣旨を拡張して賃借権の譲渡の対価(100万円)全体について物上代位の効力を及ぼそうとしたと考えられます。
なお、賃貸人が先取特権を行使するには、賃借人がその金銭を受領する前に差押が必要とされています(304条参照)。