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民法313条(不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲)

【解説】

1.土地の賃貸の先取特権の目的物(第1項)

第1項は、「土地」の賃貸の先取特権の目的物に関する規定です。

その目的物は、
「土地に備え付けられた動産」
「土地の利用のための建物に備え付けられた動産」
「土地の利用に供された動産」
「賃借人が占有するその土地の果実」
とされています。

具体例としては、

土地に備え付けられた動産…賃借小作地に据えつけられた灌慨用ポンプなど

土地の利用のための建物に備え付けられた動産…賃借小作地の納屋に備えつけられた農具・家畜・家具など

土地の利用に供された動産…賃借小作地または納屋以外の場所に置かれた農具など

賃借人が占有するその土地の果実…農作物や鉱物など天然果実のことで、譲渡その他によって賃借人の占有を離れたときは、先取特権の効力はおよばないとされています。

2.建物の賃貸の先取特権の目的物(第2項)

第2項は、「建物」の賃貸の先取特権の目的物に関する規定ですが、その目的物は「賃借人がその建物に備え付けた動産」とされています。

これについては、若干問題があります。

(1)建物と動産の関係

まず、建物と動産の間にどの程度の関係があればよいのか、という点です。

判例は、古い判例になりますが、かなり緩やかに考えているようです。

「賃借人が、賃貸借の結果ある時間継続して存置するためその建物内に持込みたる動産たるをもって足り、その建物の常用に供するためこれに存置せらるる動産たるを要することなし」としています。

したがって、「金銭、有価証券、賃借人共家族の一身の使用に供する懐中時計、宝石類その他全く建物の利用に供する目的なく又これに常置せられざる物の上にも存在する」としています(大判大3.7.4)。

要するに、ある程度の時間継続して置いておくものであれば、賃借人が持ち込んだ宝石などの「建物の利用」に供するものでなくてもよい、というわけです。

これに対しては、通説は、判例ではあまりに広すぎるとして、「建物の利用」に関連して常置されたものと考えているので、畳・建具・一切の家具調度・機械器具・営業用什器などは含まれることになりますが、建物の利用と関係のない衣服・カメラ・装身具・金銭・有価証券などは含まれないことになります。

先取特権の認められる理由を当事者の意思の推測(第312条参照)に求めれば、そのような解釈が妥当としています。

(2)賃借人の動産

先取特権は、「賃借人の動産」等について認められる。

第2項では「賃借人がその建物に備え付けた動産」と表現されているが、第1項は単に「建物に備え付けられた動産」とのみ表現されているが、先取特権というのは、債務者の財産の上に認められる権利であるから、賃借人の動産であることが必要であるとされている。